セラピストにむけた情報発信



【業績報告】行為能力の知覚:能力が制限されることへの適応
(Wagman et al. 2014)




2014年12月8日

今回は,長年親交のあるイリノイ州立大学のJeffrey B. Wagman氏と共同で発表した論文をご紹介いたします。

Wagman, JB et al. Improvements in perception of maximum reaching height transfer to increases or decreases in reaching ability. Ame J Psychol 127, 269-279, 2014

行為能力の知覚とは,ある行為が目の前にある環境下で実践可能かどうかを見極めることを指します。生態心理学的な研究の中で数多くの蓄積があり,アフォーダンス知覚と呼ばれる場合もあります。

行為能力の知覚に関する研究では,私たちの行為や知覚の柔軟性を明らかにするうえで,行為能力が変化した時の適応を見ることがあります。たとえば,手の届く距離を見極める研究では,手に長い棒を持った時,つまり棒が腕の代わりとなり,届く距離が拡張した時に,どの程度その拡張に適応できるかを検討します。

実はこうした研究の多くは,行為能力が拡大した場合について検討しています。今回私たちは,それとは逆に,行為能力が制限させることへの適応能力を検討することにしました。

実験課題は,「手が届く最大の高さ」の知覚でした。行為能力を制限させる状況として,膝立ちした状況で手が届く最大の高さを判断してもらいました。さらに比較対象として,台に乗った際に手が届く最大の高さについても判断してもらいました。

実験の結果,行為能力を制限された時の判断は,それ以外の状況に比べて,判断がやや難しいことがわかりました。膝立ちによって手の届く高さが低くなったとき,実際に膝立ちで手が届く距離のおよそ0.75倍程度の高さを,手が届くか届かないことの境界と判断しました。これは,通常の状況や台に乗った時に,実際の0.9倍程度の高さを判断の境界としていることに比べると,過小評価傾向が強いと言えます。

またこの実験では,通常の状況で何度か実際に手が届く距離を体験させた後,再度3つの状況下で行為能力の知覚課題を実施してみました。その結果,膝立ちによって手の届く高さが低くなった状況においても,判断の正確性が増すことがわかりました。つまり,行動を制約された状況での判断は難しいものの,その状況とは直接異なる状況での行為経験を活かして,その判断を改善させることができることがわかりました。

Wagman氏とは,隔年開催の国際生態心理学会にて共同でシンポジウムを開催するなど,アクティブに交流を重ねています。今後もこうした交流を積み重ねることで,リハビリにも関わるような成果が得られたらよいなと考えています。


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