セラピストにむけた情報発信



日本臨床スポーツ医学会シンポジウム「視覚と運動」




2014年11月25日

少し前のイベントとなりますが,11月8-9日の日程で開催された,第25回日本臨床スポーツ医学会のシンポジウムについて報告いたします。国立スポーツ科学センターの敷地を贅沢に利用した,盛大な会でありました。

私はシンポジウム「視覚と運動」の話題提供者として参加いたしました。「歩行の視覚運動制御」というタイトルのもと,移動行動における視覚の重要性について紹介しました。

このシンポジウムは,東京女子医科大学の松原正男氏によりオーガナイズされました。話題提供者は私のほかに,九州大学の森周司氏と,日本サッカー協会副会長の田嶋幸三氏でした。いずれの話題提供者も,日本スポーツ視覚研究会にて松原氏より招待を受けたという縁がございます。

シンポジウムの中でも,特に田嶋幸三氏の話題提供「サッカー選手の視覚の確保と判断について」は,非常に印象深いものでした。

田嶋氏はこれまで選手,指導者,協会理事という様々な観点で,日本のサッカー選手を指導してきた外国人指導者を数多く見てこられました。それぞれの監督は,表現方法は異なるものの,いかに適切に状況を見るべきか,ということについて指導されていたそうです。

最近の画像解析によれば,スペイン代表で活躍した名手のシャビ選手は,1試合の中で首を振って状況を見る回数が,なんと907回もあったそうです。首を振って見るという方略は,日本代表の中田英寿選手も非常に巧みに使っており,それをクローズアップする映像を拝見することができました。こうした見方は,ゴールデンエイジといわれる12歳ごろまでに身に着けないと,その後は難しいのではないかというのが,現場に長年携わる田嶋氏の印象です。

また田嶋氏は,審判の誤審問題について,最近のご経験談をご紹介されました。完璧なポジションからフリーキックを見ていた主審と副審が,ハンドを見逃したという事例でした。完璧なポジションで見ることができるという事実が,審判としての卓越したスキルを物語っているにもかかわらず,観客から見ればすぐにわかるようなハンドが見逃されました。

この点について田嶋氏は,事後のインタビューから,審判の注意のフォーカスポイントが原因であったと指摘しました。主審・副審とも,フリーキックの場面で絶対に見逃してはいけないポイントがあります(オフサイドの違反や服を引っ張るようなファールの有無など)。こうしたポイントに注意をフォーカスしすぎたことで,確率論的に起こりにくいハンドが意識にのぼらなかったということです。日頃から注意と意識の関連性や,認知情報処理の効率性と注意について授業を行っている立場としては,非常に実践的な話題を得た気がしています。

シンポジウムの中で,研究者と現場のプロがそれぞれの意見を交わすのは,我々研究者としてはこの上ない喜びです。このシンポジウムで得た様々な情報を,今後の研究や学生への授業に生かしたいと強く思った次第です。


 


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