セラピストにむけた情報発信



首都大学東京オープンユニバーシティ講座
「知覚と運動の再構築に基づくリハビリテーション」



2014年10月27日

10月25日に本学公開講座(OU講座)として,「知覚と運動の再構築に基づくリハビリテーション」が提供されました。私がコーディネーターとして企画し,3名の先生に話題提供を行っていただきました。今回はその内容についてご紹介いたします。

運動の障害は,単に運動機能疾患だけではなく,知覚系と運動系の連携関係の破たんによっても起こりえます.今回の講座は,「知覚系と運動系の連携関係を再構築する」という発想のもと,リハビリテーションを考えていくとはどのようなことなのかについて,解説いただくことにしました。

第1の話題提供者は,神奈川大学の児玉謙太郎氏です。児玉氏には,知覚と運動の関係性について教えてくれる知識として,生態心理学の発想についてご解説いただきました。

大きく3つのトピックに関して解説がありました。第1のトピックは,知覚することと運動することとは本来的には切り離せるものではなく,「動くために知覚し,また知覚するために動く」という側面があるということでした。第2のトピックは,直接知覚という発想でした。知覚が脳の情報処理に基づく推論によって生起するのではなく,動きによって生み出される情報により直接的に生起しうることを,ダイナミックタッチといった事例に基づき解説していただきました。第3のトピックは,動物と環境の相補性という話題でした。私たちの行為は,中神経系の司令が一方的に決めるというわけではなく,動物と環境の関係性(いわば相性)で決まるということについて解説されました。

第2の話題提供者は,早稲田大学の安田和弘氏です。安田氏は私の研究室出身であり,現在はポスドクとして工学系の研究室で研究に励んでいます。安田氏には主として2つの話題をお話しいただきました。

第1のトピックは,知覚と行為の再構築を促す介入でした。安田氏は,探索行動を組織化させることができれば,障害を抱えた状態でも環境の特性を直接的に知覚できる可能性があると説明しました。感覚障害を抱えていても,残存する機能をうまく活かして探索行動を組織化することができれば,感覚麻痺の重篤な患者でも環境を知り,行為を調節することが可能であるとのことです。こうした身体づくりをするための具体的な事例について紹介されました。第2のトピックは,多感覚相互作用として姿勢制御を考えるということでした。高齢者の姿勢動揺量の増加が,多感覚相互作用のアンバランスに起因しうることについて,様々な先行知見を紹介してくださいました。

第3の話題提供者は,東京都立東都療育センターの作業療法士,山際英男氏です。山際氏は,これまでの様々な学術的知見を実践的に臨床へ活かす手法の一つとして,フェルデンクライス・メソッドについてご紹介いただきました。

足底に対する触覚的介入を行うだけで,その後の歩行に波及効果があり得ることのデモンストレーションがありました。また,Awareness Through Movement (ATM)という発想に基づき,ゆっくりとした動きの中で多角的に自分の動きを感じ取るという体験が持つ意味についても実技指導していただきました。

本学OU講座は,東京都民の多様なニーズにこたえることを目的として,年間300程度の講座を提供しています。様々な講座の中でも,医療従事者を対象とした専門家向け講座は,OU講座の中でも比較的人気の高い講座です。私も本学教員として,毎年1-2講座の企画・コーディネーターを担当しています。今後も,様々な講師の方々をお招きして,魅力的な講座を提供できればと考えています。

     


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