2014年9月29日
脳卒中片麻痺患者の場合,立位姿勢時に左右両下肢に均等荷重することができず,健側方向に荷重が偏ることがあります。一般に,こうした問題の背景として,患測荷重がもたらすバランスの崩れを防ぐための代償や,体性感覚の異常が指摘されます。
今回ご紹介する論文では,均等荷重できない別の要因として,主観的な垂直軸(身体軸)が健側に傾いており,その軸の感覚に沿って荷重する結果,健側荷重が過多となるのではないか,ということを指摘した研究です。
Barra, J et al. Asymmetric standing posture after stroke is related to
a biased egocentric coordinate system. Neurol 72,1582-1587, 2009
実験では,22名の片麻痺患者を対象として,立位姿勢バランス時の荷重の均等具合について測定しました。また,主観的な垂直軸に関するテストを行いました。テストの中では,暗闇で直立の姿勢を保持している対象者に対して,斜めに傾いている線分を呈示しました。対象者は,この線分の傾きを,自分自身の垂直軸と同じ傾きとなるように修正することが求められました。
さらにこの実験では,主観的な垂直軸に関連するもう一つの指標として,主観的な視覚性垂直軸(Subjective visual vertical)を測定しました。背臥位の状態で斜めに傾いている線分が呈示され,この線分を重力方向の軸に合わせるように(身体軸ではない)修正することが求められました。
つまり著者らは,主観的な垂直軸(身体軸)のテストにより自己中心座標(egocentric reference)の問題を検討し,視覚性垂直軸のテストにより物体中心座標(allocentric reference)の問題を検討しようとしたのです。
実験の結果,いずれのテストにおいても,健側方向に軸が傾いていることがわかりました。さらに,いずれのテストも,立位姿勢バランス課題における健側荷重の度合いと正の相関がありました。重回帰分析に基づけば,主観的な垂直軸(身体軸)のほうが,より予測精度が高い指標となることもわかりました。
以上の結果から著者らは,こうした主観的な軸の感覚の傾きが,健側過多の荷重と何らかの関係性があると結論付けました。
こうした相関研究から因果関係を論じることはできませんが,著者らは,軸の感覚を正常化する介入により,立位姿勢バランス時の荷重にも良い波及効果をもたらすであろうと期待しています。
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