セラピストにむけた情報発信



ナルシストは模倣しない?(Obhi et al. 2014)



2014年9月8日

一般に,ナルシスト傾向が強い人は,過度に自己中心的であり,他者に対する関心が薄いと言われています。

本日ご紹介する研究は,ナルシスト傾向が高い人が,他者の動きに関する映像に引きずられることなく,自分の行動を調整することを示した研究です。

Obhi SS et al. Automatic imitation is reduced in Narcissists. J Exp Psychol Hum Percept Perform 40, 920-928, 2014

実験は20歳前後の若年者27名を対象に行われました。実験課題は,他者の指上げ動作の映像(人差し指か中指のいずれか)を見て,それと同じ指を素早く上げるという課題です。映像の中には,他者の手のほかに,“1”か“2”のいずれかの数値が表示されました。

参加者は事前に,1の数字を見たら素早く人差し指を上げ,逆に2の数字を見たら素早く中指を上げることを訓練しています。このため参加者は,1の数値を見たら,実際の指挙げ動作を見る前に,自然と人差し指を上げる動作を自動的に準備してしまうことになります。

こうした状況を利用して,Ohbi氏らは,ナルシスト傾向の高い人が,映像において上げられた指と数字とが一致しない条件でも,反応時間が遅延したり,誤った指を上げたりする確立が低いのではないかと予想しました。

実験結果は,Ohbi氏らの予想通りとなりました。

反応時間にせよ,エラー率(誤った指を上げてしまった確率)にせよ,数字と指が一致しない条件で,ナルシスト傾向の高い参加者群が,低い参加者群よりも成績が良いことがわかりました。Ohbi氏らはこの結果から,ナルシスト傾向が高い人は,他者から発せられる情報のうち,自分にとって不都合な情報の流入を防ぐ(gating)のが得意なのではないかと結論付けました。

厳密に言えば,この実験が証明したのは,ナルシスト傾向の高い人が,自然と誘発される行為を抑制し,適切な行為を実行する能力が高いということです。現状で無理やり他者の模倣と結び付ければ,完全に他者のことを無視しているというよりは,自分にとって都合が悪い場合については,他者の行動に惑わされないということなのでしょう(数字と指が一致しているときには,ナルシスト傾向の高低に差がないため,状況依存でその差が顕著となる)。

こうした話題は多くの人を惹きつけるため,今後この主張の妥当性を検証する研究が多く登場すると予想されます。今後の展開が楽しみです。

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