セラピストにむけた情報発信



首都大学東京オープンユニバーシティ講座 「痛みの理解と運動支援」




2014年7月28日

今回は,7月26日に本学公開講座(OU講座)として提供された,専門家向け講座,「痛みの理解と運動支援」についてご紹介いたします。

今回私は,裏方(コーディネーター)として,この講座に関わりました。

本学OU講座は,東京都民の多様なニーズにこたえることを目的として,年間300程度の講座を提供しています。様々な講座の中でも,医療従事者を対象とした専門家向け講座は,OU講座の中でも比較的人気の高い講座です。私も本学教員として,毎年1-2講座の企画・コーディネーターを担当しています。

今回はお二人の理学療法士の方に,話題提供をいただきました。

お一人目の話題提供者は,江原弘之氏(西鶴間メディカルクリニック,リハビリテーション科部長)です。「痛みの基礎知識の整理と理解」という題目のもと,痛みとは何かといった基礎知識から,痛みに対する運動支援まで,概念的な知識の整理を主眼に話題提供していただきました。

以下は江原氏によるご解説の一端です。

末梢神経性の痛みには,いわゆる鋭い痛みと,鈍い痛みの2種類があり,それぞれが異なる侵害受容線維に基づいて中枢に伝わっていきます。“苦痛”のように,不快な感情を伴う痛みは,相対的に言えば「鈍い痛み」の経路に関係しており,その背後には大脳辺縁系の活動があります。

侵襲刺激に対する大脳半球の反応と痛みの関係に着目した研究によれば,背中を押す刺激に対する大脳半球の反応は,慢性的な腰痛を抱えている人と,そうでない人(コントロール)で全く異なります。コントロールの場合,刺激に対する反応は,主として体性感覚野を中心に起こります。つまり,刺激を単なる体性感覚刺激として捉えていると推察されます。これに対して,慢性的な腰痛を抱えている対象者の場合,広範な脳領域に強い活動が見られます。そうした脳部位の一つが,大脳辺縁系です。大脳辺縁系の活動が,刺激に対して様々な感情反応を起こす動因となります。また,記憶や認知に関わる領域にも反応があり,「この刺激は痛い刺激だ」といった記憶の想起が,痛みに関与してる可能性があります。

こうした基礎知識のもと,江原氏は,痛みを生物心理社会的(biopsychosocial)に捉えるべきだと主張しました(厳密にいえば,生物学的,心理的,社会的要因の複合要因として捉えるという意味だと思います)。

つまり,痛みを単に組織の損傷とか,機械的刺激の痛みといった要因だけでとらえるのではなく,過去の痛みの経験 がもたらす様々な反応や(心理的要因の例),痛いことに対する他者の反応(社会的反応)を含めて理解しようという発想です。

お二人目の話題提供者は,永田将行氏(東小金井氏さくらクリニック)です。前半の江原氏の話題提供を受けて,より実践的なレベルで痛みに対する運動支援についてお話しいただきました。

残念ながら,私自身は別の仕事の都合で,冒頭の30分しか拝聴できませんでした。拝聴した中での重要な関連キーワードは,「身体感覚」でありました。私たちの身体感覚が,視覚など,別の感覚情報と一致していなかったり,予期していた動きとずれていたりした時に,しばしば痛みが生起するとのことです。臨床の具体例でいえば,以前ならば出来ていたはずの動きができなくなったなど,これまでの経験に基づく予期が身体感覚によって裏切られたとき,痛みとして生起することもあるようです。

そのほか,直接拝聴することはできませんでしたが,患者さんが何を痛いと言っているのかを明確にすることの重要性,および明確化の方法についての話題提供がありました。また,痛みに対する運動療法の実例の紹介がなされました。

本講座は,原則としては医療従事者向けの講座でありますが,実際には一般の方も含めて,様々なバックグラウンドを持つ受講者の方々が集まります。通常の研修会での話題提供とは違った質問が来るなど,いつもとは異なる視点での話題提供が求められます。お二人の先生とも,こうした雰囲気を楽しんでいただいたようです。今後もこの縁を発展させていきたいなと思っております。

江原先生,永田先生,貴重な話題提供をありがとうございました。


(メインページへ戻る)