セラピストにむけた情報発信



前腕に対する痛み刺激が正中線知覚に及ぼす影響 
(Bouffard et al. 2013)
 




2014年7月14日

複合性局所疼痛症候群(CRPM)の患者など,痛みの問題を抱える患者の中には,身体知覚が不正確である場合があります。患部が異常に大きく感じられたり,正中線が患測方向に傾いているように感じられたりする現象が,指摘されています。

患者さんを対象とした研究の場合,痛み以外の様々な問題を同時に抱えていることがほとんどです。従って,こうした身体知覚の問題が,本当に痛みによって生じている,ということの立証が困難ともいえます。

こうした問題意識のもと,今回ご紹介する研究では,健常者を対象に痛み刺激を呈示することで,痛みが確かに身体知覚の異常に関連しているかについて検証しました。

Bouffard J et al. Effect of painful and non-painful sensorimotor manipulations on subjective body midline. Frontier Hum Neurosci 7, 77, 2013.

実験では,若齢健常者17名を対象に,温熱性の痛み刺激を前腕部に呈示した時の正中線知覚を測定しました。実験では,この痛み刺激がもたらす影響が,本当に痛みに依存するのかについて検討するため,痛み刺激の代わりに振動刺激を呈示した時や,ダンベルを握ることによる筋収縮時の正中線知覚についても測定しました。

その結果,実験操作をしていないコントロール条件に比べて,痛み刺激を呈示した場合,および振動刺激をした場合の2条件において,正中線知覚が不正確となることがわかりました。ただし,両条件がもたらす影響は,逆方向でありました。すなわち,痛み刺激を与えた場合には,正中線が痛みと同方向に傾いて感じられ,振動刺激を与えた場合には,正中線が振動刺激と逆方向に傾いて感じられました。

痛み刺激を与えた場合の実験結果が,先行研究においてCRPMの患者を対象とした場合の結果類似していたことから,痛み刺激の存在が,正中線を同側方向に逸脱させると結論しました。

痛みによってなぜ正中線が同側方向に逸脱するのかについては,先行研究の解釈を踏襲して,一種の防衛反応ではないかと考察しました。防衛反応とは具体的に何のことを言っているかについて,私自身が先行研究を深く読み込んでいないため,正確な理解ができていません。おそらくは「痛みを抱えている側の体積が少しでも少なくなるような知覚の変化が起こる」といったような解釈を,防衛反応と言っているのではないかと思います。

なお,痛み刺激であれ振動刺激であれ,正中線が右方向に逸脱する傾向が顕著であったことから,正中線自体が右方向に逸脱しやすいという別のファクターが,実験結果に影響していたかもしれないと,著者らは考察しています。


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