セラピストにむけた情報発信



脳卒中片麻痺患者の身体感覚:関連脳部位の検討
(Rousseaux et al. 2013)
 




2014年7月8日

脳卒中片麻痺患者のなかでも,特に半側空間無視が顕著なケースについては,身体感覚が不正確になる場合があります。

たとえば,矢状面上の自分の向きが(Subjective Straight Ahead: SSA),正確にまっすぐには感じられず,患測方向にずれてしまうという報告があります。また,重力方向の身体軸の知覚(Subjective Vertical)については,前額面上において患測方向と逆方向に傾いて感じていることがわかっています。

さらに,こうした身体感覚の問題が立位姿勢時のバランス能力にも関係する,という指摘もあります。先行研究によれば,発症後3カ月に重力方向の知覚に問題が見られた場合,発症後6カ月でのバランスの問題を予期できるという報告があります。

今回ご紹介するのは,こうした身体感覚の問題に関連する脳活動を測定した研究です。矢状面方向の知覚の問題と,重力方向の身体軸知覚の問題に,どの程度共通した脳部位が関連するのかを検討するのが,研究の主目的でした。

Rousseaux M et al. Neuroanatomy of space, body, and posture perception in patients with right hemisphere stroke. Neurology 81, 1291-1297, 2013

対象者は右脳損傷患者42名です。うち半数の参加者が,半側空間無視の症状を呈していました。

実験の結果,全体としてみれば,矢状面方向の知覚と重力方向の身体軸知覚には,異なる脳部位が関与しているのではないか,ということを示唆する結果となりました。

矢状面方向の知覚に問題があった患者の場合,主として頭頂部位(anterior parietal)や上側頭回(superior temporal gyrus),背側(dorsolateral)の運動前野などに損傷が見られました。

これに対して重力方向の身体軸知覚に問題があった患者の場合,主として側頭-頭頂領域の後部(posterior temporoparietal lesions)に損傷がありました。また,前庭情報の入力がある下頭頂葉にも損傷が見られました。

全体として,矢状面方向の知覚については体性感覚入力がある脳部位が関わり,重力方向の身体軸知覚に関わるのは視覚入力を受ける脳部位が関わるのではないかと,著者たちは結論付けました。


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