セラピストにむけた情報発信



脳性まひ者におけるボールへの到達運動と視線行動の関係
(van Kampen et al. 2012)
 




2014年6月23日

今回ご紹介するのは,脳性まひ者が動くボールに対して適切に対処する能力に着目し,その背後に適切な視線行動がみられるかを検討したものです。

van Kampen PM et al. Gaze behaviour during interception in children with spastic unilateral cerebral palsy. Res Dev Disabil 33, 45-53, 2012

著者らは長年にわたって脳性まひ者の行動特性を研究してきました。脳性まひ者は,グラスをつかんだり,飛んでくるボールをキャッチしたりという,いわゆる到達運動(interceptive action)に問題があることがあります。著者らは,特に大脳左半球の損傷者において,この傾向が顕著であるという印象を持っており,こうした印象を裏付ける根拠として,視線行動が使えないかと考えました。

実験では,左損傷の脳性まひ者(平均15歳)と右損傷の脳性まひ者(平均12歳)が,それぞれ5名ずつ参加しました。

損傷部位に個人差があることを考えれば,参加者数が少ないと感じるかもしれません。しかし,視線行動に耐えうる脳性まひ者の数が限られることや,データの分析に膨大な時間がかかることから,視線行動の研究については,こうした少ない参加者の研究が許容される場合があります。

実験では,数m先でテニスボールが左右のいずれか1方向に移動する装置を使いました。ボールの移動速度は,参加者の最大歩行速度の50%(低速時)もしくは70%(中速時)で移動しました。参加者の課題は,このボールを,指定された場所で正しくつかむというものでした。

実験の結果,やはりこうした到達課題は,脳性まひ者には容易ではなく,中速時の場合には成功率は40%でした。ただし,成功率の成績そのものは,右損傷者と左損傷者の差は見られませんでした。

視線行動との対応を検討した結果,ボールに到達するエリアを長く見ている場合ほど,成功率が増すことがわかりました。つまり,移動するボールを追尾するよりも,最終的にボールに到達する位置に視線を固定しておくという,予期的な視線の使い方が有効であることがわかりました。

著者らは,こうした視線行動の特徴に,損傷部位の左右差が大きく影響することを期待しましたが,残念ながらそうした傾向は見られませんでした。ただし,ボールが動き出す前にボールに視線を固定している時間が,左損傷者が短いことがわかりました。一般に,運動開始前の視線固定が,運動のプランニングの正確さと関わるという指摘があることから,こうした事前の視線行動が,もしかすると日常生活で見られる左まひ者の行動の問題に関係するかもしれないと,著者らは考察しています。




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