セラピストにむけた情報発信



眼の動かし方の訓練で身体運動は向上するか?(Vine et al. 2014)
 -その1-




2014年6月2日

一流のスポーツ選手は,身体運動そのものが一流であるだけでなく,状況を的確にとらえるための眼の動かし方も一流であるという考え方があります.

実際,一流選手の眼の動きを測定してみると,重要な局面では通常よりも視線を長く固定する現象が見られます.こうした現象は,Quiet eyeと呼ばれます.なぜか適切な日本語が命名されず,カタカナ読みされる場合がほとんどです.ここでも英語表記を使用します.

今回と次回の2回に分けて,「Quiet eyeのような眼の動かし方を訓練することで,身体運動を向上させることができるか」について議論したレビュー論文を紹介します.

Vine SJ et al. Quiet eye training: the acquisition, refinement and resilient performance of targeting skills. Eur J Sport Sci 14, S235-42,2014

このレビュー論文では,ターゲットに対する正確な動作が求められる課題を対象とした研究を対象としています.バスケットのフリースローや,射撃といった例が,わかりやすい例でしょう.ただ,日常動作の多くは何らかのターゲットに対するアクションともいえますので,実際には広範囲な動作や課題を対象にしています.

Quiet eyeの有益性を主張するためには,Quiet eyeが一流動作の単なる“副産物”ではないことを証明する必要があります.ここでいう副産物とは,「一流選手の動作は極めて安定性が高いため,その結果として視線も安定して動かなくなる」,という意味です.

少なくとも2つの実証方法があります.その1つが,このレビュー論文で着目している,Quiet eyeの習得による身体運動の改善を示す方法です.一定期間,対象となる動作(例えば射撃動作)について何ら練習していない状況で,目の動かし方だけを訓練したとします.こうした対象者が,訓練をしていない対象群よりも射撃動作が向上したとすれば,それをもってQuiet eyeの訓練効果を主張することができます.

こうした訓練効果については,レビュー論文の著者たちを中心に,比較的多くの実証研究が報告されています.

もう1つの実証方法が,ある動作遂行中のQuiet eyeの特性(持続時間や位置)を実験的にコントロールすることで,動作が確かに変わることを実証する方法です.実験としてはこちらのほうがより有力な情報となるように思いますが,こうした研究は驚くほど少なく,ごくわずかな事例しかありません.レビュー論文の著者らも,こうした研究が今後の課題の一つであると言及しています.

なぜ目の動かし方を訓練すると,身体動作が改善するのでしょうか?

次回,この問いに対する著者らの見解をご紹介します.

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