セラピストにむけた情報発信



レントゲン写真から骨折を見抜くスキルと視線行動(Wood et al. 2013)
 




2014年5月26日

熟練したセラピストの方々は,患者さんの状態を一目見ただけで,すぐに患者さんの問題を抽出できるように思います.同様に,熟練した医療従事者はレントゲン写真から問題となる場所をすぐに見抜くことができるでしょう.

今回ご紹介するのは,放射線技師がレントゲン写真から骨折を見抜く際の視線行動に着目した論文です.

Wood G et al. Visual expertise in detecting and diagnosing skeletal fractures. Skeletal Radiol 42, 165-172, 2013

議論の対象となったのは,「骨折を的確に見極めるための視線行動は,探索型か?それともパターン認識型か?」というものでした.探索型とは,視線を素早く頻繁に動かすタイプの視線行動です.これに対してパターン認識型とは,あるポイントに視線を移動したら,視線を固定しておくタイプです.顔画像の認識など,記憶に基づきある種のパターンを識別する際に見られるため,パターン認識型と,ここでは命名されました.

実験では,全10種類のレントゲン写真が利用されました.全身の様々な部位がまんべんなく撮影されていました。その中には,明らかに骨折が分かる写真と,見極めが難しい写真が混ざっていました.熟練した放射線技師の視線行動を,学生レベルの初心者の視線行動などと比較することで,その特徴を記事しました.

実験の結果,熟練者の視線行動はパターン認識型の特徴を有することがわかりました.熟練者は,例えば見極めが難しいレントゲン写真であったとしても,即座に骨折箇所に視線が移動し,かつそこから視線を移動させないで判別していることがわかりました.

視線行動がパターン認識型であるということは,パターンに関する過去の記憶情報との照合プロセスがおこなわれているのだろうということを示唆しています.

視線をきょろきょろ動かさず,ある箇所に固定することで,全体を素早く的確にとらえるという特徴は,熟練したスポーツ選手にもみられることです.こうした視線の特徴は,姿勢が長時間静止しているという意味で,Quiet eyeと呼ばれます.次回はこのQuiet eyeに関するレビュー論文を紹介する予定です.



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