セラピストにむけた情報発信



学習の特殊性:バスケットのフリースロー練習時の視環境
(Moradi et al. 2014)
 




2014年5月7日

運動学習に関する研究領域には,学習の特殊性(Specificity of learning)という考え方があります.これは,「私たちの身体運動はそれを練習した状況でのみ,優れたパフォーマンスが発揮される」という考え方です.つまり,身体運動はいったん学習すればあらゆる状況でその実力が発揮できるというわけではなく,練習された環境が整えられることが必要であるということになります.

学習の特殊性は,1950年代から存在する概念です.賛否両論ありますが,「運動を練習する際には,どのような状況で実力を発揮したいのか(スポーツにおける試合,リハビリにおける屋外歩行など)を考慮しなくてはならない」というメッセージを出しうるという意味で,私個人は重要な概念と思っています.

本日ご紹介する論文は,バスケットのフリースロー練習時の視環境を操作することで,学習の特殊性を示した研究です.

Moradi et al Specificity of learning a sport skill to the visual condition of acquisition. J Mot Behav 46, 17-23, 2014

実験対象は一般の高校生でした(つまりバスケの熟練者ではない).フリースローの練習を行う際の視覚条件を2つ設定し,参加者をいずれかの練習条件群に振り分けました.1つの条件では,暗闇の中でバスケットゴールのみが照明で照らされている条件(target only)でした.もう一つは通常照明条件(full vision)条件でした.参加者はこれらの視覚条件の一方だけで一定期間練習を行いました.

練習の直後,および10日後に,全ての参加者が2つの視覚条件の下でフリースローを行いました.その結果,いずれの練習群の参加者とも,練習条件と同じ条件でのみフリースローの成績が高いことがわかりました.この結果は,学習の特殊性の考え方に合致するものです.

著者が英語ネイティブではないことも影響してか,実験の細部に関する記述が乏しく,この研究がどこまで著者の意図を正確に反映した形で実現されているか,判断しがたい部分もありました.ただ,練習環境と一致した場合でフリースローの成績が高いということ自体は,こうした細部が分からずともクリアーです.そのあたりが考慮されて雑誌に掲載されたのかな,と思いました.


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