セラピストにむけた情報発信




高齢者における歩行中の前額面方向のバランス:Deshpande et al. 2014
 




2014年4月28日

高齢者が歩行中に,前額面方向(左右方向)でバランスを崩した時に,体幹部の骨折をしやすいという報告があります.こうした報告に基づき,高齢者の転倒リスク評価として,歩行中の前額面方向のバランスを評価するものがあります.

今回ご紹介する研究は,こうした評価に対して,前庭情報や下肢の体性感覚情報に対する外乱の影響を検討したものです.

Deshpande N et al. Trunk, head, and step characteristics during normal and narrow-based walking under deteriorated sensory condition. J Mot Hehav 46, 125-132, 2014

対象者は65-85歳の健常高齢者15名,および若齢者15名でした.前額面方向のバランスが難しくなるように,通常歩行場面での測定に加えて,細い通路(幅25㎝)における歩行場面の測定も行いました.つまり,細い通路上で前額面上のバランス管理が難しい状況で,どの程度安定性を保てるのかが,ここでの検証のぽんとでした.

2つの歩行通路場面それぞれにおいて,前庭と下肢体性感覚に外乱を与える場合と与えない場合を組み合わせ,全4条件の歩行を行いました.前庭への外乱としては,前庭感覚電気刺激(galvanic vestibular stimulation; GVS)を用いました.一方,下肢体性感覚に対する外乱としては,厚くて柔らかいフォーム上での歩行を測定しました.

頭部および体幹部それぞれ前額面方向のバランス評価を行いました.その結果,頭部の前額面方向のバランスについては,必ずしも狭い通路を歩くこと自体がバランス低下につながるわけではありませんでした.バランスが崩れたのは,GVSとフォーム上の歩行の両者が揃った時のみでした.一方体幹の前額面方向のバランスについては,フォーム上での歩く条件でバランスが悪くなることがわかりました(GVSの有無にかかわらず).

以上のことから,体幹レベルで見れば,特に下肢の体性感覚情報に外乱がはいる条件において,前額面方向のバランスが崩れる可能性が示されました.

著者自身が指摘しているように,類似の先行研究の中には,本研究と結論が一致しないものも多くあります.実験対象者の微妙な属性の違いが,結果に影響したのかもしれません.


余談ですが,第1著者のNandini Deshparade氏は,私が2004-2006にカナダのウォータールーに行っていた頃の同僚です.かつての仲間が,次々と国際誌で論文を発表する姿を見て,こちらも頑張らなくてはいけないなと,改めて強く思う次第です.


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