セラピストにむけた情報発信




動作関連用語の身体性情報処理:動作に関連する筋活動が生じるか?
(Stins et al. 2013)
 




2014年4月7日

身体性認知(Embodied cognition)という言葉があります.平たく言えば,「言語や計算など,様々な認知情報処理に対して,身体・運動に関わる情報処理過程(脳内表象)が関わっている」ことを総称的に示す言葉です.

本日ご紹介する論文がターゲットにしているのは,「投げる」「歩く」など,四肢の運動に関連する単語の処理です.一般に言語の身体性認知に着目した研究のほとんどが,こうした単語を処理しているの脳活動に着目しています.これに対してこの研究では,単語の処理中に四肢の筋電図活動が見られるかに着目しているという点が,オリジナリティとなります.

Stins JF et al. Effects of language processing on spontaneous muscle activity. Journal of Neurolinguistics, 26, 363-369, 2013

実験ではオランダ人の若齢健常者を対象として,3種類の動詞(オランダ語)を呈示しました. 3種類の動詞とはそれぞれ,「投げる」「つかむ」など上肢動作に関する動詞,「蹴る」「歩く」などの下肢動作に関する動詞,そして身体と関連のない動詞(コントロール)でした.

動詞を観察する条件として,「動詞が上肢動作に関する動詞か?」という,意味的な処理をする条件と,「動詞にアルファベットのr(アール)が含まれるか?」という,動詞の表面的な部分に着目する条件が用意されました.

実験の結果,動作関連動詞を観察しても,関連する四肢の筋活動が高まることを示す兆候は見られませんでした.むしろ逆に,動作関連動詞に対して意味的な判断を加えているときに,関連する四肢の筋活動が減少する傾向が見て取れるほどでした.



こうした研究に関する背景情報を知らない読者にしてみれば,「動詞を処理しているときに筋活動なんて生じるわけない」という当たり前の結果かもしれません.しかし,この問題に精通する研究者にとってみれば,得られた成果には一定の意味があると私は考えています.以下に,その背景をご説明します.

ここ10年間の様々な研究の成果から,動作に関連する言葉を処理しているときには,脳の動作関連領域にも活動が見られることがわかってきました.この結果は,動作関連用語の処理には単に言葉としての意味的な処理(semantic processing)をしているだけでなく,その用語が連想させる動作に関する脳内表象が活動をしている可能性を示しています.こうした研究成果が,身体性認知という概念を強力にサポートしています.

さらに「恐怖」「幸福」などの感情関連用語を処理しているときには,表情筋に筋活動が見られることもわかりました.「恐怖」に対しては,恐怖の表情を浮かべる時の表情筋に筋活動があり,「幸福」に対しては,恐怖の表情を浮かべる時の表情筋に筋活動があります.

これらの知見に基づき,Stins氏らは,動作関連用語を処理しているときに,関連する四肢の筋活動が見られるかを検証したわけです.

得られた実験結果に基づきStins氏らは,動作関連用語の身体性の情報処理(身体・運動表象の活動)は,末梢の筋活動にまで波及するわけではないと結論付けました.先行研究で感情情報処理をしている際に表情筋が活動したことについては,感情特有のプロセスかもしれないと説明しました.

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