セラピストにむけた情報発信



多数の障害物を回避するために何歩先の視覚情報を利用しているか
(Mathis et al 2014)

 


2014年3月13日

本日ご紹介する論文は,数多くの障害物がランダムに配置されているときに,何歩先の視覚情報が見えていれば,その回避がスムーズにおこなわれるのかを検討した論文です.類似の研究は多くありますが,動作解析と同期できるプロジェクターを利用することで,より洗練された検証ができています.Brett Fajen氏のグループによる研究です.

Matthis JS et al. Visual control of foot placement when waking over complex terrain. J Exp Psychol Hum Percept Perform 40 106-115.

実験は,3.6mの直進路に対して40個の障害物をちりばめた歩行環境で行いました.この障害物は頭上のプロジェクタから投影されていました.動作解析装置と同期させることで,本人がいる位置から何歩先まで障害物を投影するかがコントロールできました.

実験では10名の若齢健常者を対象に,1歩先から5歩先まで視覚情報を投影した時の歩き方や,障害物との接触回避率を測定しました.視覚情報を制限しなかった場合(コントロール)と違いがなくなるのが,何歩先まで視覚情報を投影した場合なのかについて情報得ることが目的でした.なおこの実験では,1歩を下肢長の0.7倍と定義しました.

実験の結果,障害物との接触率がコントロールに比べて有意に高かったのは,1歩先だけ視覚情報が投影されている条件でした.つまり,2歩先の視覚情報が見えていれば,安全な回避ができると言えます.

また3歩先の視覚情報が投影されていれば,歩行速度がコントロールと差がないこともわかりました.つまり,3歩先までの視覚情報があればスムーズな障害物回避が実現できると言えます.

少なくとも2歩先の視覚情報が障害物の接触に必要な理由について,Matthis氏らは次のように述べています.

「2歩先」とは,右足を先導脚として歩いているときに,次に右足が着地する位置のことです2歩先の視覚情報が見えていると,左足を先導脚として着地した時に,次に右足がどこに着地すればよいかが見えているため,右脚(後続脚)のpush-offの方向性を適切な方向に向けることができます.このため,極端に減速することなくランダム配置の障害物を避けることができます.
これに対して1歩先の障害物しか見えていない場合,回避そのものは可能ですが,常に1歩先の障害物回避のことだけを考えて歩行することになるため,減速した状態で歩くことになります.

このような説明は,なぜ歩行中に視線がある程度前方へ向けられている必要があるのかを考えるうえで,大変有用です.


(メインページへ戻る)