セラピストにむけた情報発信



有名人の使ったパターを使えばゴルフ・パッティングが上手くなる?:
喜び伝染効果(Lee et al. 2011)

 


2014年3月3日

ファンならば,「イチロー選手の使ったバット」や「本田選手の使ったサッカーシューズ」を使って試合ができるとなれば,幸せの絶頂の気分となるでしょう.本日ご紹介する論文は,こうした状況では単に気分が良くなるだけでなく,スポーツのパフォーマンス自体が向上しうることを報告した論文です.

Lee C et al. Putting like a pro: the role of positive contagion in golf performance and perception. PLoS One 6, e26016, 2011.

実験にはゴルフ経験のある大学生41名が参加しました.参加者を2群に分け,その1群には,「この実験で使うパターは,かの有名なBen Curtisが使用したパターである」と説明しました.ゴルフについて一定の知識がなければ,こうした情報を聞いても気分が高揚しない可能性があります.よってこの実験は一定のゴルフ経験者である必要がありました.

一方,もう一つの群(コントロール群)に対しては,特にパターに対する知識は提供しませんでした.

10回のパッティング試技の結果,教示を与えられた群のほうが,パッティングの成績が良いことがわかりました.また教示を与えられた群のほうが,穴がより大きく見える(つまりよりパッティングが成功しやすいと感じる)こともわかりました.

著者らはこれらの結果に基づき,「道具に対する喜びの感情が,後続するパフォーマンスに“伝染する”(positive contagion)」と解釈しました.

この解釈以外にも様々な解釈が可能とは思いますが,いずれにせよ,道具に対する“威光”のような感情が,その道具を使うパフォーマンスを向上させるという結果は興味深いと思います.

ただし,この研究はゴルフ経験者を参加対象としているため,対象者間の競技レベルの差がパフォーマンスに混入しうる点に注意が必要です.研究の中では,2群間でゴルフ経験や自信度に差がないことを確認しています.しかしこうした情報だけでは,「そもそも実験前のパッティングのレベルに差があったかもしれない」という可能性を排除できません.こうした点をコントローするためには,事前にパッティングの成績を測定しておく,といった操作が有効になります.

もちろんこの場合,事前のパッティング測定が後の成績に与えうる可能性がありますので,事前の測定をすることが最良とも言い切れません.一般に研究者は,こうした様々な可能性を考慮したうえで,最善と思うデザインを選択し,実験をします.選択したデザインに少しでも問題があれば,その問題を排除したうえで類似の実験を行うことで,問題を1つずつ潰していきます.

この論文は大阪大学にいる友人,門田浩二氏にご紹介いただきました.
ここに記して謝意を表します.



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