セラピストにむけた情報発信



隙間通過場面に見られるパーキンソン病患者の“すくみ足”に関する研究
(Cowie et al. 2012)
 



2013年12月2日

今回ご紹介する論文は,パーキンソン病患者の“すくみ足(Freezing of Gait)”に関する論文です.

Cowie D et al. Doorway-provoked freezing of gait in Parkinson’s disease. Mov Disord 27, 492-499, 2012.

著者のDorothy Cowie氏は,隙間通過場面を用いることですくみ足の現象を実験室的に記述できることを,いくつかの論文で報告してきました.今回の成果の概要は,過去の成果とオーバーラップする部分が多いのですが,特に治療効果に関する検討がよりシステマティックになされました.

実験対象は10名のパーキンソン病患者(平均59.2歳,発症後平均14年経過)と,年齢をそろえた健常者でした.約6mの歩行路に,ドア型の隙間(サイズは肩幅の100%,125%,150%)を設置して通過してもらいました.また隙間のない直線歩行についても参照行動として測定しました.

実験の結果,パーキンソン病患者は隙間を通過する直前に,速度を極端に減少させました.さらに両脚支持の時間も長くなりました(つまり前進方向へ推進していない時間が長い).これらはいずれも,“すくみ足”様の行動といえます.

たとえ健常者であっても,狭い隙間に対しては速度を減少させて通過します.しかしパーキンソン病患者の場合,速度の減少率が極端に大きいことに問題があります.著者らはこの現象について,視覚情報に対する運動反応が極端になりすぎていることに問題があるのだろうと考察しました.

こうした“すくみ足”様の行動に対する治療効果として,服薬治療の効果と深部脳刺激療法(Deep Brain Stimulation: DBS)の効果を検討しました.

実験結果を全般的にみれば,服薬治療と深部脳刺激療法の両方を同時に行った場合に,それらを単独に行った場合よりも,“すくみ足”様の行動が減少しました.

また,それぞれの効果を単独にみた場合には,服薬治療のほうが効果的でした.著者らはこの点に着目をしました.

ドアのない状態での歩行速度や歩幅だけを見れば,深部脳刺激療法のほうがその改善に大きく寄与しました.その他の測定指標を見ても,深部脳刺激療法のほうが服薬治療よりも有効である者が,複数ありました.にもかかわらず,“すくみ足”様の行動の現象に関しては,服薬のほうが有益でした.こうした成果が持つ意味については,今後の研究で明らかにされていくことでしょう.

こうした主成果とは別に私個人が着目したのは,「呈示された隙間が通れるかどうか」を判断する知覚判断課題の場合,パーキンソン病患者も健常者も,その正確性は変わらないという結果です.この結果は,遠くから見た知覚判断(状況判断)と,実際に歩いている状況の中で見られる判断や行動は,必ずしも対応していないことを示しています.我々の研究室で行っている実験でも,しばしばこうした成果が得られることがあり,今後体系的に示していきたいと考えています.

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