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健常者の線分二等分課題は正確か?−Pseudoneglect



2008年9月16日

線分二等分課題(line bisection task)は,半側空間無視の有無を診断する簡易検査として,臨床場面でも広く用いられています.大脳右半球損傷のケースでは,その対側である左空間に無視が生じる結果,二等分点が中心よりも右側にずれてしまいます.

この課題を健常者でおこなうと,非常にわずかながら,二等分点が左へ寄ってしまう現象(すなわち,上記の例と逆)が報告されています(Jewell et al. 2000).

左方向へのずれの度合いはわずかですが,多くの対象者に一貫して見られるようです.まるで線分の右側を無視してしまうような現象であることから,“擬似的な無視(Pseudoneglect)”と称されています.

Pseudoneglectは,空間的注意の非対称性を表す行動と考えられています.代表的な仮説が,Activation-Orientation 仮説(意訳:左右半球の活性に基づく空間定位仮説)です.

線分二等分課題に限らず,一般に視空間課題(visuospatial tasks)を実行している最中は,大脳右半球が左半球に比べてより強く活性化されます.仮説では,空間的注意がより活性化された大脳半球の“対側”に多く配分されると考えます.その結果,線分二等分課題の遂行中は,線分の左側に対してより注意が向けられるため,二等分点が左にシフトしてしまうことになります.

Activation-Orientation 仮説は,大脳右半球損傷患者の左空間無視の改善にも役立てられています.

この仮説に基づけば,右半球損傷患者は,右半球の活性が左半球に比べて弱いことが予想されます.よって,右半球の活性を高めるような介入,例えば,左腕を受動的に運動させるような介入により,半側空間無視が改善されます(Frassinetti et al. 2001).

この他,音楽の熟練者は視空間的能力に優れているため,二等分点は必ずしも左にずれないなど,線分二等分課題を用いた興味深い報告がいくつかあります(Patston et al 2006).線分二等分課題は,単純な課題ながら,人の認知機能について多くのこと物語る貴重なツールといえます.


引用文献
Frassinetti F et al. Passive limb movements improve visual neglect. Neuropsychologia 39, 725-733, 2001

Jewell G & McCourt ME. Pseudoneglect: a review and meta-analysis of performance factors in line bisection tasks. Neuropsychologia 38, 93-110, 2000

Patston LL et al. The neglect of musicians: line bisection reveals an opposite bias. Psychol Sci 17, 21, 1029-1031, 2006


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