セラピストにむけた情報発信



運動観察の効果を運動イメージの組み合わせにより高める
Tsukazaki et al. 2012




2013年1月21日

私たちが動作スキルを習得するために実践していることの1つが,手本となる動作を観察し,それを模倣するという行為です.ミラーニューロンシステムの発見後,運動を観察することの学習効果は,最新の認知科学のトピックスとして盛んに取り上げられています.

そうした中での発見の1つが,運動の観察中に大脳皮質の運動関連領域がどの程度強く活動するかどうかは,観察者がその動作にどの程度習熟しているかに依存しているということです.この発券は,ともすれば新しい動作を新規に学習しようという場合には,観察の効果は必ずしも期待できないという懸念すら抱かせます.

広島大学大学院総合科学研究科の船瀬広三教授のもとで修士課程を修了された塚﨑泉美氏は,たとえ習熟していない動作を観察であっても,映像の観察中にその動作を実際に行っているイメージをしながら観察することで,観察の効果を高めることができることを報告しました.

Tsukazaki, I.et al. Effect of observation combined with motor imagery of a skilled hand-motor task on motor cortical excitability: difference between novice and expert. Neurosci Lett 518, 96-100, 2012.

この研究では,ジャグリング動作を観察対象として,ジャグリングの初心者と熟練者それぞれ10名が観察している最中の皮質脊髄路の興奮性,TMSを用いることで検証しました(TMSについてはこちらをご参照ください).

その結果,初心者の場合はジャグリング映像をただ観察している場合に比べて,観察をしながらジャグリングしているイメージする場合のほうが,運動誘発電位(MEP)の振幅が大きくなることがわかりました.この結果は,初心者の場合には運動イメージを組み合わせたほうが,皮質脊髄路の興奮性を高め,動作の学習に寄与できるという可能性を示唆しています.

この結果を考えると,運動初心者やリハビリテーションにより日常生活動作を再獲得する対象者の場合には,動作を注意深く観察してもらうだけでなく,その動作を実際に頭の中でイメージするような促しをすることも一考かと思います.

なおこの研究では,熟練者の場合にはジャグリング動作を観察せずに運動イメージを想起している場合が,最もMEPの振幅が大きくなることについても報告しています.運動熟練者の場合,動作のイメージを視覚的に取り入れるよりも,既に保有している動作記憶に基づき筋感覚的な運動イメージを想起したほうが,学習に有効なのかもしれません.


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