セラピストにむけた情報発信



高齢者の転倒リスク評価に関するレビュー論文
Persad et al. 2010




2010年12月13日

転倒リスクの高い高齢者を事前に見きわめ,転倒予防のための適切な介入をおこなうことは,多くの医療従事者にとって重要な使命の1つです.本日ご紹介するのは,転倒リスク評価として現存する方法の研究上の根拠について,初学者にわかりやすく解説しているレビュー論文です.

Persad CC et al. Assessing falls in the elderly: should we use simple screening tests or a comprehensive fall risk evaluation? Eur J Phys Rehabil Med 46(3): 457-460, 2010

論文ではまず転倒リスク評価の妥当性について,調査前の対象者の転倒経験に基づいて調査する場合(後ろ向き研究,回顧的研究; Retrospective study)と,調査後のフォローとして対象者の転倒経験を追調査する場合(前向き研究; Prospective study)の違いとその意味について解説しています.

多くの研究では,過去の転倒歴に基づいた後ろ向き研究をおこなっています.過去1年程度の転倒歴の有無により参加者をグループ分けし,研究対象とするリスク評価が,転倒者群と非転倒者群の識別に有効かを検討します.

後ろ向き研究では大人数に対して簡便に測定ができる上に,すぐに転倒リスク評価の妥当性を数値化できるメリットがあります.しかしながら,転倒歴の有無は自己申告に基づき判断することから,この申告が不確か出会った場合,研究そのものの信頼性が損なわれることになります.この他,これまで転倒はしていないが実際には転倒危険性が非常に高い対象者を,転倒リスクの高い群に割り当てられないなど,研究としての信頼性が必ずしも高くないというデメリットがあります.

従って研究の精度としては,調査後に転倒をフォローして,リスク評価値との関連を検討する前向き研究のほうが圧倒的に高くなります.前向き研究には非常に長い時間と労力が必要になりますが,それだけ価値の高い研究ということがいえます.

続いて論文では,臨床場面でよく用いられる代表的検査について,その研究上の根拠が紹介されています.Functional Reach, Time up and Go, 片足立位,あるいはそれらを複合して評価するBerg Balance Scaleなど,おなじみの検査の根拠となっている研究が概観されています.これまでそうした根拠を知らずに利用されていた方には,ご一読される価値があるように思います.

この他論文では,実験室ベースの研究が進んでいるものとして,歩行ステップのばらつき(gait variability)や歩行時のデュアルタスク能力の紹介がされています.また認知機能や感情(抑うつ傾向など)と転倒との関連についても紹介されています.

論文全体が,実践場面でどのように適切にリスク評価していくかという観点から書かれていますので,初学者の方々に非常に読みやすい論文です.既に知識のある方々にも,「初学者にわかりやすく説明するための枠組み」を示すという意味では,参考になると思いました.

本論文は,共同研究者である,京都大学医学研究科の山田実氏に紹介していただきました.


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