セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者における歩行中のすくみ足:知覚的要因
Almeida et al. 2010



2010年10月27日

先週畿央大学にお邪魔した際,助教の岡田洋平先生に段取りをしていただきました.本日ご紹介する論文は,岡田先生との様々なやり取りの中でご紹介いただいた論文です.

Almeida QJ et al. Freezing of gait in Parkinson’s disease: a perceptual cause for a motor impairment. J Neurol Neurosurg Psychiatry 81, 513-519, 2010

この論文では,パーキンソン病患者の歩行中に見られる,いわゆる“すくみ足”が起きる要因として,空間知覚レベルの問題が関与している可能性が示されています.

すくみ足とは,歩行を開始しようとしても,まるで足がすくんだかのように歩行が開始できなかったり,歩行中のある局面(例えば歩行転換をするとき)に突然足を止めてしまったりする現象です.著者らは,パーキンソン病の治療として一般的なドーパミンの投与によっても,このすくみ足が必ずしも改善されないといった先行知見に基づき,すくみ足が少なくとも一部は大脳基底核レベルの問題とは独立した問題に起因すると考え,空間知覚の問題の有無を調べることにしました.

実験では,サイズの異なる3つの隙間を用意し,それを通り抜けてもらうという課題を実施しました.隙間の大小に応じて,隙間にアプローチするための患者の歩行パターンに,すくみ足に関連する特徴がみられるかについて,詳細な検討がなされました.

その結果,日ごろからすくみ足の特徴がみられる患者は,狭い隙間に向かって歩いていくときに,歩幅が小さく,かつ,そのばらつきが大きくなることがわかりました.こうした歩行の特徴は,すくみ足の発現と関連性の高い特徴と以前から指摘されているとのことです.

このような結果から著者は,アプローチしようとしている空間が狭くて通り抜けが困難だと認識することが,パーキンソン患者のすくみ足をもたらす要因になっているかもしれないと結論付けました.

こうした研究の発想は,運動機能の諸問題を知覚的な観点からアプローチすることの重要性を示しているという意味で,私たちの研究室としても大変意味のあるものです.

筆頭著者のQuincy Almeida氏は,私が1年半ほど在籍していたカナダのWaterloo大学の出身であり,私も少しばかり面識があります.

Almeida氏は大学院時代から一貫してパーキンソン病患者の問題を扱っています.現在はWaterloo大学に隣接するWilfrid Laurier 大学の准教授として活躍しています.非常に聡明な印象を与える若手研究者であり,こちらが片言の英語で稚拙な会話をしても,終始笑顔でうまく有益な議論に結び付けてくれるような,やさしさと知性を感じる印象を常に与えていました.

今回ご紹介した論文のIntroductionも,こうした彼の知性が反映されています.パーキンソン病患者の問題についてほとんど知識がない私が読んでも,いったい何が研究上の問題なのかがすぐに理解できるような論理展開がなされています.こうした論文が英語でもきちんと書けるようになりたいものだと,文章表現を学ぶ上でも何度か読み返したくなる論文でありました.

岡田先生,貴重な情報ありがとうございました.


(メインページへ戻る)