2010年9月7日
9月4-5日にsenstyle主催の脳卒中フォーラムが開催されました.
senstyle主催の研究会に参加させていただくのは今回で2回目です.主催者の国中先生,そして国中先生を支える米々田先生を始めとするスタッフの方とは,同世代ということもあり,気の合う仲間と一緒に仕事をするような感覚でお付き合いをしております.
私自身は脳卒中に関する知識やデータがほとんどないため,相変わらずの知覚・認知に関する話題提供でありましたが,新しい知識としてポジティブに耳を傾けてくださる聴講者の方々も少なからずいらっしゃり,充実した時間を過ごしました.
講演者のお一人に,大阪の千里リハビリテーション病院・副院長の吉尾雅春先生がいらっしゃいました.
千里リハビリテーション病院は,そのデザインの一部に佐藤可士和氏がかかわったことで大変有名であります.吉尾先生の御講演の前半では,病院の設計に関するお話がありました.そのコンセプトには,理想的なリハビリテーションに対する非常に強い信念があり,大変印象深い内容でしたので,以下に紹介する次第です.
千里リハビリテーション病院の画期的な特徴として,以下の3つの点に注目しました.
第1の点は,ホテルのような病院づくりという点です.
ホテル(hotel)と病院(hospital)の語源はいずれも仏語のhostel同じなのに,病院に対するイメージはホテルとは全く違い,喜んで入院したい場所ではありません.そこで,ホテルを連想させるほどの美しい建物,居室が用意されました.居室はまさにホテルであり,ベッドにも転落防止のための策もありません.こうした状況の中で転落しないように努力することも,リハビリテーションとひとつとして位置付けているとのことです.
特に,オープンスペースでとる食事には大変感銘を受けました.
ここでの食事は,患者さんが何を食べたいかを自分で決めることができます.まさしくホテルでのビュッフェを楽しむような感覚の食事です.家族が一緒に食事ができるようになっているのも,非常に画期的なシステムとのことです.また,重度の患者さんの家族が,この食事スペースで結婚式を挙げられたというエピソードが紹介されました.結婚式に出向くことができない重度の患者さんを思うご家族の配慮や,そうした思いを実現できる施設の存在に,強く心を打たれました.
第2の点は,患者さんのリハビリはクローズされたスペースでおこなうのではなく,誰にでも見られる場所でおこなうという,可視的環境を重視しているという点です.
人に見られているという状況での訓練は,社会的な環境を常に意識させ,そのことがやる気を高めたり,社会に復帰するための多角的準備状態にするという意味で,とても重要視されているとのことでした.
第3の点は,リハビリテーション病院だからこそ,あえて“バリアー”を作る環境を作る,という点です.
住環境が徐々にバリアフリー化されても,実環境には様々なバリアーが自然発生的に生じます.こうした中で安全に生活することを訓練する場がリハビリテーション空間であること,また実際に近い環境で毎日運動を繰り返すことが,運動学習に重要であること,といった理念があります.
最後に記した,「実際に近い環境で毎日運動を繰り返すことが,運動学習に重要であること」というメッセージは,私自身の研究的観点にも100%フィットするものであり,私自身もとても重要なことと考えています.
最近,こうした考えを後押しするスポーツ選手のデータを論文化することができました.次回はその内容をご紹介したいと思います.
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