セラピストにむけた情報発信



研修会報告:埼玉県理学療法士会教育局研修会




2010年8月24日

8月15日(日)に,埼玉県理学療法士会教育局研修会に参加いたしました. 私自身は午後の研修を担当し,視覚と歩行に関する話題を紹介いたしました.

報告に先立ち,午前中に講演された星文彦先生(埼玉県立大学)のご講演「協調性障害の理学療法」を拝聴いたしました.

その中で星先生が最後に示された結論は,知覚・認知的な視点でリハビリの問題を考えることを示唆するものであり,私たちにとっては非常に意義深いものでありました.

勝手ながら,その場を借りてその内容をご紹介する次第です.

星先生の講演の後半では,立位姿勢制御以下の3つのシステムに基づいて検討していく考え方が紹介されました.それは,反応機構(reactive system),予測機構(predictive system),予期機構(proactive system)の3つです.

この考え方は,私の恩師であります故Aftab E. Patla氏が,動的姿勢制御のシステムとして,積極的に示された考え方でもあります(参照:Huxham et al. 2003; Patla 2003).

反応機構とは反射的な機構であり,バランスを崩した時にそれを修正するために働きます.予測機構とは,目的を達成するために必要な先行動作などをコントロールする機構です.歩行を開始する前の支持脚への重心移動や,上肢動作に先立つ体幹姿勢の保持が,予測機構によりコントロールされます.そして予期機構とは,こうした動作をおこなう前の状況把握と,それに基づく動作の決定に関わる機構です.歩行場面では視覚に基づく遠方の状況把握など,知覚・認知レベルの働きが強く関わります.

星先生の講演では,既存のリハビリテーションでは予期機構に基づく評価が十分でないという考え方が示されました.その例として,Berg Balance Scaleで十分にバランスが高いと評価された人でも,実環境において転倒してしまうケースが少なくないという報告が紹介されました(Riddle et al. 1999).

Berg Balance Scaleのパフォーマンスには,バランスが崩れたときに働く反応機構や,バランスが崩れないように事前に調整する予測機構の働きが反映されますが,予期機構の働きは必ずしも評価されません.こうした事例から,今後のリハビリでは予期機構について観察・評価をしていく必要があるのではないか,という指摘がなされました.

このような指摘こそ,私たちの研究室が知覚認知に基づいて身体運動の問題について研究をしている意義と考えていることであり,私自身は星先生のご発言に心から共感しつつ,拝聴した次第です.

引用文献
Huxham FE et al. Theoretical considerations in balance assessment. Aust J Physiother 47, 89-100, 2001

Patla AE, Strategies for dynamic stability during adaptive human locomotion. IEEE Eng Med Biol 22, 48-52, 2003

Riddle DL et al. Interpreting validity indexes for diagnostic tests: an illustration using the Berg balance test. Phys Ther 79, 939-948, 1999


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