セラピストにむけた情報発信



歩行版Trail-Making-Test (Alexander et al. 2005)
-Special Thanks to 山田実氏-




2010年6月7日

本日ご紹介するのは,高齢者の認知機能を測定するのに古くから用いられているTrail-Making-Test(TMT)を,歩行バージョンに加工したテストです.

Alexander NB et al. Age differences in timed accurate stepping with increasing cognitive and visual demand: a walking trail making test. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 60: 1558-1562, 2005

本来のTMTは,紙と鉛筆を用いたテストです.用紙に数字とアルファベットが書かれた丸印がランダムに並べられています.評定者はこの用紙を使って2種類のテストをおこないます.第1のテストでは(TMT-A),数字を1から25まで順に線でつないでいきます.第2のテストでは(TMT-B),数字とアルファベットを交互に,昇順でつないでいきます(1-A-2-B-...という順番).

BのテストはAのテストに比べて,認知的負荷が高く,難しい課題です.高齢者を対象にこのテストを実施してみると,Bのテストの所要時間がAのテストの所要時間に比べて著しく長い高齢者,すなわち認知的負荷が高い条件で課題の遂行が著しく困難になる高齢者は,転倒の危険性が高いといった関連性を指摘する研究があります.

Alexander et alの研究は,歩行バージョンのTMTを開発することで,より直接的に転倒の危険性が高い高齢者を同定しようという試みです.

歩行版TMTでは,全長3.66mの歩行通路の中に33個の着地ターゲットを設置しました.このターゲットの脇に,数字またはアルファベットが付記されています.歩行者は,数字の順にターゲットに着地しながら歩く場合と(歩行版TMT-A),数字とアルファベットを交互に着地していく場合(歩行版TMT-B)の2つのテストを遂行しました.

その結果,高齢者は若齢者に比べて,Bのテストの所要時間がAのテストの所要時間に比べて著しく長いことがわかりました.よって,やはり高齢者の問題の1つは,認知的負荷が高い条件で歩行することが困難であること,と考えられます.



私にこの論文を紹介してくれたのは,京都大学医学研究科に在職のPT,山田実氏です.山田氏は歩行の転倒予防について様々な業績を残していますが,その仕事の1つとして,高齢者の転倒予測に役立つ歩行テストの開発があります.

山田氏はAlexander et al.(2005) の研究を参考にしつつも,彼らの研究が単に認知的負荷への対応能力を評価しているにすぎないことを問題視し,独自の歩行テストを開発することを目指しました.

これまでの実験成果を拝見すると,山田市の開発したテストは,高齢者の歩行中にみられる様々な問題のうち,特に知覚運動制御に関わる問題を効果的に測定できると考えられます.こうした特徴は,Alexander et al.(2005)が意図した測定とは明らかに異なり,かつ歩行により直結したものであることから,歩行中の転倒危険性の高い高齢者を効果的に同定できるかもしれません.

本年8月に開催予定の首都大学東京オープンユニバーシティでは,外部講師として山田実氏をゲストに迎え,「歩行の転倒予防」というテーマで,知覚・認知とリハビリテーションの問題について議論する予定です.

当日は,こうした歩行テストの開発の背景や成果についても説明していただく予定です.転倒予防の問題にご関心のある多くの方々にご参加いただければ幸いです.申し込みの詳細はこちらをご覧ください.



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