セラピストにむけた情報発信



参加報告:運動学習研究会@大阪体育大学




2010年5月10日

5月8-9日に,大阪体育大学で開催された運動学習研究会に参加しました.

この研究会は合宿形式で開催される,身体運動の学習と制御に関する研究会です.もともとスポーツ科学領域の先生方が集まる研究会でしたが,最近は理学療法士の方々の参加も散見されるようになり,スポーツとリハビリの専門家がフランクな雰囲気で議論できる貴重な場となっています.
 
私はこの10年間,この研究会に継続して参加しております.学術的な情報交換もさることながら,同業者間の様々な情報交換の場,人間関係形成の場として大切にしている研究会です.
 
今年の研究会には45名程度の参加がありました.リハビリ関係の参加者が理学療法士2名と少なかったこともあり,発表についてはスポーツ科学領域の研究がほとんどでした.

しかしながら,この研究会で主として扱う話題は「身体運動の学習や制御」ですので,そこで発表される内容には,リハビリ領域にも参考になる情報が含まれています.

たとえば,スポーツバイク(MTB)のコーナリング技術習得に関する研究では,コーナリング時に発生する体幹の大きな傾きを実現するために,様々なバランストレーニングの効果が試されました.その結果,コーナリング自体の練習だけを行う条件よりも,バランスを養うための多様な練習を同時並行で行う条件のほうが,コーナリングの技術が高まることを報告されました(筑波大学,増澤拓也氏の報告).

類似の内容として,NHKの取材協力としてスキージャンプ競技のオリンピック選手らのバランス能力を測定した研究においても,金メダル選手のシモン・アマン選手を輩出するスイスでは,多岐にわたる高度なバランストレーニングが実施されており,こうしたトレーニングが勝利の秘訣かもしれない,ということでした(東京大学 工藤和俊氏の報告).

これらの結果を拡大解釈すれば,臨床で患者さんに立位バランス訓練を行う場合,単に立位バランスを繰り返し実施してもらうよりも,それに関与する多様な課題を複合的に実施してもらったほうが,結果的に立位バランス能力が向上する,ということなのかもしれません.こうした拡大解釈は常に正しいとは限らないため危険を伴います.しかし大事なことは,関連領域で知られている成果にも耳を傾け,リハビリに応用できる知見を独自に見出し,それを自分で検証してみるという姿勢であると思います.

私自身は「視線に着目した歩行とリハビリテーション」というテーマで発表をいたしました.視線に着目して運動中の知覚・認知情報処理にアプローチするという手法は,スポーツ科学領域では比較的ポピュラーです.しかし,そうした手法がリハビリの領域にも貢献できる可能性があるということについては,こうした研究自体の新規性が高いこともあり,あまり知られていません.そこで私自身がかかわる研究をとおして,そうした研究の意義や問題について知っていただくことにしました.

 発表では,①本学大学院生の吉田氏が行っている「脳卒中片麻痺患者における歩行中の視線の役割」,そして②京都大学医学研究科の山田実氏との共同研究である「歩行中の新たな転倒予測因子の提案-歩行中の視覚運動制御の観点から-」の内容についてご紹介しました.

なお,この2つの研究内容については以下の機会にもご紹介する予定です.



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