セラピストにむけた情報発信



ニューロリハビリテーションの最前線
(雑誌「BRAIN and NERVE-神経研究の進歩」特集)4



2010年5月6日

脳損傷後の機能回復過程において,中枢神経の構造や機能が再構成される可能性が示されて以来,機能回復に効果的な再構成を導く様々な試みがなされています.こうした試みはニューロリハビリテーションと総称され,現在のリハビリテーション領域における中心的テーマの1つとなっています.

本日ご紹介するのは,ニューロリハビリテーションに関する様々な話題を紹介する総説がまとめられた,雑誌「BRAIN and NERVE-神経研究の進歩」の特集です.特集号に関する詳細はこちらをご覧ください

いずれも興味深い内容でありましたが,ここでは2つの総説についてご紹介します.


三原雅史他 「近赤外光スペクトロスコピーを用いたニューロリハビリテーションの評価 」125-132

近赤外光スペクトロスコピー(通称NIRS)は,極端な身体の拘束を伴わずに運動中の脳活動を測定できる手法として,運動研究においても大変注目されています.ふだん私達の研究室では脳画像を用いた研究をおこなっていませんので,こうした総説は最近の話題を短時間で理解するうえで,大変役に立ちます.

この総説を読みますと,①これまでPETやFRIなどの脳画像測定法を用いた研究により,運動に関する関与が指摘されている脳部位が,確かに運動を妨げない環境においても活動していることを確認すること,そして②脳損傷後の機能回復の過程において,通常は大きな関与をしない脳部位が,損傷部位を代償するように活動するかを確認することが,ここ最近の主要トピックスなのだという印象を受けます.

いずれも測定法の妥当性を示すためには必要不可欠な問題であり,短期的な研究目標がそこに向かっていることは,極めて自然なことです.一方で「動きを極端に拘束しないNIRSを用いることで,初めて分かったこと」という知見については,まだそれほど多くないという印象を受けます.おそらく近い将来,こうした研究が飛躍的に増加するものと期待されます.


筧慎治他「ニューロリハビリテーションのための新しい定量的運動指令評価システム」

運動の制御や学習に関わる脳機能の解明は,脳活動を直接測定することでしか達成できないという考え方もあるように思います.しかしながら運動制御のプログラムのように,いわば制御のソフトウェアに関する機能を解明することが目的ならば,妥当性と信頼性の高い行動実験のデータを示すことも,脳活動の直接的測定と同様,重要な役割を持っています.

この総説において著者は,4箇所の表面筋電図を測定するだけで,運動制御のプログラムの機能にアプローチできることを示しています.脳に関する関心が非常に一般にも専門的にも高まっている中で,古典的に使われている筋電図を用いて,新しい評価法を確立しようとする試みは,「脳のハードの機能だけを追求しても運動の制御や学習を完全に理解できることにはならない」ことを理解するうえで,意義深いと感じました.


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