セラピストにむけた情報発信



充実した大学授業を目指す取組み(FDセミナー)



2010年2月18日

近年,リハビリテーション系の学部をもつ大学の数が非常に多くなりました.このホームページにお立ち寄りくださるセラピストの皆さまの中にも,大学や専門学校において教職に就かれている方や,あるいは将来教職に就きたいと考えていらっしゃる方も少なくないと推察いたします.

本日は,大学教員の質の向上を目指す大学の取り組みである,“FD”についてご紹介します.

FDとは,「Faculty Development」の略語であり,「大学教員の質の向上」といった意味合いを持ちます.ここでの“質”とは,研究者としての質ではなく,教員としての質です.「研究者としては極めて優秀な人が,誰でも教員として優秀とは限らない」といった根本的な問題が,背景にあります.

このFDは,数年前に大学設置基準として制定されましたので,大学と大学院の両方でFDの実施が義務化されています.各大学は,このFDを具体的に遂行するために様々な取り組みをおこなっています.とりわけ,教職員を対象とした研修会やセミナーが,ほぼ全大学で実施されていります.

FDの充実により大学教員が達成すべき目標として,少なくとも2つのことが重要です.

1つは「単位の実質化」です.授業によって取得できる単位は「1単位」「2単位」などと異なりますが,これはその授業の単位取得に対してどの程度の勉強時間が必要かに依存しています.単位数が多いほど,それだけ長い勉強時間が必要ということを意味しています.この時間要件を完全に満たすためには,①教員が15回の授業を実践すること(出張等で休講したら,必ず補講すること),そして②授業時間外にも勉強をさせる工夫をすること,の2つが重要です.

一昔前まで,大学授業の中でも特に教養系の授業では,単位に対応する厳格な授業実践という考えがそれほど意識されておらず,教員・学生ともに比較的負担の少ない授業スタイルに落ち着く場合が多かったように思います.実際,自分の学生時代を思い出しますと,必ずしも興味のない授業が不意に休講になると,何ともいえない喜びを感じたものです.FDの実践により,こうした安易な発想は教員も学生も慎しみ,授業に真摯に取り組むことが求められます.

もう1つの重要な点が,「魅力的な授業づくり」です.大学の授業は,基本的には担当教員の独自の発想で構築されますので,その質や,学生から見た面白さにはばらつきが生じることもあります.実際,私も含めた多くの大学教員は,研究能力に関する訓練のみを積み,教育に関するスキルについて特別な訓練を積んでいません.FDでは,大学教員の教育スキルを磨くための支援をする様々な機会を提供しています.

こうした取り組みはリハビリテーション系の学部でも常々意識されていることと思います.つい先日,大学院生の渡邉観世子さん(国際医療福祉大学・助教)は,教職スキルを磨くための研修会に参加しておりました.実に1か月にもわたる長期研修だったのですが,大学側では日常業務を免除してでもこうした研修に参加させるなど,こうした取り組みに対する大学全体の意識の高さがうかがえます.

本学においても,2月17日にFDセミナーが開催されました.僭越ながら,一般教養プログラムに関する授業の実践例を紹介する話題提供者として参加してまいりました.

セミナーの詳細はこちら

今回のセミナーのメインテーマが,「初回授業の役割」ということでした.一般教養の授業の場合,どの授業を選択するかは学生の好みで決定できます.そのため初回授業では,事前にシラバスを読んで授業に興味を持った学生が,「来週以降も授業を聞いてみたい」と興味を持ってもらえるようにするための工夫が必要です.セミナーでは自分なりに工夫した点をご紹介し,フロアーにいらっしゃる経験豊かな先生方から,貴重なコメントを頂戴いたしました.

実は今回のお話を頂戴した理由の一つが,私の担当授業を588名もの学生が履修した点にありました.この規模の人数が授業に参加してしまうと,授業の準備や成績評価の際に非常に膨大な時間を費やすことになります.セミナーではこうした問題について具体的な対処法についてご紹介しました.

大学院生とだけ交流していればよい環境では,自分が研究者としてのスキルを磨くことが,が間接的に大学院生への指導にも反映される,といった発想が成り立つかもしれません.しかしながら学部生の場合,そのほとんどが研究職につかないわけですから,大学院生に接しているのとは別の教育スキルが要求されるのは,ある意味当然のことといえます.私自身,お恥ずかしながら,こうしたことを意識したのがごく最近のことであり,身近な先生方から様々な知識をご教授いただいている最中です.

最近,セラピストの皆さまの前でお話をする機会も徐々に増えてまいりましたが,こうした場面でも,FDを通して身につけるスキルは,とても有用と感じます.数年前の私は,研究成果を誠実に伝えることしか意識できませんでしたが,最近では,「その研究成果が臨床場面におけるどのような問題と結びついているのか」について,言語化を試みるようになりました.こうした言語化により,聴衆の皆さまの共感的理解を得られることが多くなったと感じています.たとえ誤った発言をしたとしても,フロアーの方がその誤りを指摘してくれれば,結果的に私も含めてフロアー全体の理解が深まります.現在,言語化された内容には,とんちんかんな内容も多いと感じています.私のもとで研究をしている大学院生セラピストの“指導”を受けて,少しずつ改善できるよう努力しているところです.

明日から5日間,スノースポーツ実習の教員として,長野に出張いたします.次回の更新は24日以降を予定しています.


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