セラピストにむけた情報発信



下肢と腕の同時使用による筋出力低下-注意の関与(Takebayashi et al. 2009)



2010年1月12日

身体の複数の部位を同時に筋収縮させると,その部位を単独で収縮させた場合よりも出力される筋力が低下する現象が知られています.本日ご紹介する研究では,上肢を微細な筋出力でコントロールしなければいけないときには,膝伸展動作時の最大筋出力が40%も低下する現象を報告したうえで,この筋出力低下に注意の機能が関わっていることが主張されています.

Takebayashi H et al. Interaction interference between arm and leg: division of attention through muscle force regulation. Hum Mov Sci 28, 752-759.

実験では6名の若齢健常者を対象に,Cybexを用いて膝伸展動作時の最大筋出力を測定しました.この膝伸展動作中に,同側または対側の肘を屈曲した場合に,膝伸展の最大出力がどのような影響を受けるかを検討しました.

実験の結果,やはり膝伸展動作を単独で行う場合に比べて,肘屈曲動作を同時に行ったほうが,膝伸展動作の筋出力が低下してしまうことがわかりました.膝と肘の同時動作が同側であれ対側であれ,その効果はほとんど変わりませんでした.従って,この出力の低下は,同側(または対側)の身体部位を同時に動かすことによる神経支配の干渉といったレベルの問題ではなく,よりグローバルなレベルで,位置の離れている2つの身体部位が同時に収縮されるときに起こりうる問題と考えられます.

興味深いのは,肘屈曲の筋出力が微細であるほど,筋出力の低下が顕著であることです.肘屈曲動作を最大筋出力の25%のレベルで行った場合,膝の伸展の最大出力が40%も低下してしまうことがわかりました. 論文ではこの結果を受けて,肘屈曲動作の出力が小さいほど,そのコントロールにより注意が必要であるため,いわゆるデュアルタスク状況下に陥ってしまうことで膝伸展動作に対して注意が向けられず,出力が低下してしまうのではないかと考察しています.

上肢動作をおこなっている最中に,下肢の筋出力が意図したレベルよりも低下してしまうことは,最大筋出力が求められない場面であっても起こることと考えられます.だとすれば,日常歩行のような動作中においても,携帯電話でメールを打つなど,注意をむける必要がある上肢動作をおこなうことで,歩行動作の歯車が微妙にくるってしまうということがあるかもしれません.

この論文の第1著者は,土佐リハビリテーションカレッジ講師(PT)の竹林秀晃氏です.注意が身体動作に与える影響について様々な研究をおこなっており,今後も有益な知見を提供してくださるものと期待されます.



(メインページへ戻る)