はじめに
個々の研究テーマ
【プロジェクト】二酸化炭素鉛直分布観測ライダーの技術開発
【プロジェクト】大型高機能ライダーの開発と赤道大気鉛直構造の観測

水蒸気ライダーデータの同化による局所豪雨予測精度向上に関する研究
衛星及び航空機搭載用水蒸気ライダーシステムの検討
降水粒子の雨雪判別のためのパーティクル偏光ライダーに関する研究
光・電波リモートセンシングによる大気圏最上層部の測定
赤道圏界面領域のオゾン観測用ライダーの開発
大気温度、風及び大気圧の遠隔測定法の研究


二酸化炭素鉛直分布観測ライダーの技術開発

二酸化炭素などの温室効果気体のシース・シンクを把握する方法として、大気中の空間濃度分布の測定結果から全休大気輸送モデルを用いて、そのフラックスを推定する方法が開発されてきている。この方法によるソース・シンクの推定には、大気中の二酸化炭素の空間分布を高頻度・広域・高精度で測定する必要があるが、現状では地上観測が主となっており、モデルの拘束条件には不可欠な鉛直方向の情報が決定的に不足している。本研究では、二酸化炭素の鉛直分布を連続観測する差分吸収法ライダー(Differential Absorption Lidar: DIAL)の開発を行い、地上から高度7km付近までの二酸化炭素鉛直分布の観測に成功した。 本研究は、文部科学省「地球観測システム構築推進プラン」、JST 先端計測分析技術・機器開発プログラム「CO2濃度と風・気温の鉛直分布同時測定ライダーの開発」によって行われた。
*日本経済新聞 平成20年3月31日付朝刊21ページに関連記事掲載

プロジェクト:二酸化炭素鉛直分布観測ライダーの技術開発



大型高機能ライダーの開発と赤道大気鉛直構造の観測

赤道域においては、活発な積雲対流によって励起される赤道域特有の大気波動が形成され、エネルギーや運動量が上層へ伝搬されることにより、上層大気の温度構造や風速場などに特有な影響を及ぼしていると考えられる。赤道域での成層圏上部から下部熱圏までの鉛直温度構造と中間圏界面近傍の金属原子層の連続観測および、熱帯積雲対流活動などに重要な役割を担う水蒸気の鉛直分布の昼夜観測を行い、対流圏から熱圏下部までの大気上下結合や中間圏界面付近の複雑な力学・化学反応過程の理解に不可欠な観測情報を得ることを目的とする遠隔制御型大型高機能ライダーを開発し、インドネシアに設置した。このライダーシステムは、光・電波で観測困難な精度の高い鉛直温度構造や微量気体成分の観測を行い、インドネシアに展開されているMFレーダー・流星レーダーや赤道大気レーダー(EAR)などの観測と補間し合うことににより、この領域の大気科学の総合的な理解に資するものである。 本研究は、文部科学省科学研究費特定領域研究「赤道大気上下結合(CPEA)」によって行われた。

プロジェクト:CPEA 大型高機能ライダーの開発と赤道大気鉛直構造の観測



水蒸気ライダーデータの同化による局所豪雨予測精度向上に関する研究

近年、線状降水帯による大雨の発生や強い台風の増加が防災上大きな社会問題となっている。日本における豪雨災害の発生件数は年々増加しており、防災・減災,国土強靭化のための対策が急務となっている。これらによる災害は予測精度を上げることで軽減されるが、水蒸気濃度の高度分布情報が予測上重要であることが指摘されている。線状降水帯が発生しやすい地域の西側に、上空の水蒸気を観測するライダーを設置し、数値気象予測モデルに観測結果を同化させることで予測精度の向上が期待される。
半導体レーザを光源とするコンパクトな水蒸気観測用の差分吸収ライダーを開発し、夜間は高度3km付近まで、昼間は高度1km付近までの水蒸気密度の観測に成功している。現在は、測定高度範囲の拡大と、移動観測に向けた装置改良を行っている。本研究はJSPS科研費19H01983の助成を受けたものです。



衛星及び航空機搭載用水蒸気ライダーシステムの検討

地球大気中の水蒸気は、地球の熱収支等を通じ気候や地球温暖化などに大きな影響を与える。特に海上対流圏下部の水蒸気分布情報が予測上重要であることが指摘されている。衛星搭載ライダーにより日本近海の水蒸気を観測し、数値気象予測モデルに同化させることで予測精度の向上が期待される。現在、水蒸気観測はラジオゾンデ、陸域リモートセンシング、衛星の赤外線・マイクロ波センサー、 GNSSなどで行われているが、空間分解能や時間分解能に問題がある。また、衛星のパッシブ観測は、水平方向のカバー範囲は広いが、鉛直方向の解像度が不十分である。衛星ライダーはバイアス誤差がないため、パッシブ型リモートセンシング装置の校正にも利用でき、衛星センサーによる地上観測との相乗効果も期待できる。
この水蒸気の全地球的な鉛直分布観測のために、人工衛星及び航空機に搭載可能な水蒸気ライダーの検討を行っている。コンパクトなレーザー装置のとして、二酸化炭素濃度分布計測用ライダーのために開発したOPG(光パラメトリック発生器)の利用を検討している。



降水粒子の雨雪判別のためのパーティクル偏光ライダーに関する研究

首都圏の降雪による交通や物流への影響は重大な問題となっている。地上付近だけでなく、上空の降雪状況をリアルタイムでモニタリングできれば、防災・減災につながる。そこで、一つ一つの降水粒子が雨滴か雪片かを識別するパーティクル偏光ライダーを開発した。
直線偏光したレーザー光が球形の粒子に照射されると、その後方散乱光の偏光面は保持され、非球形粒子の場合は偏光面が変化する。レーザー偏光面と平行の散乱光P// と垂直の散乱光P⊥の比 P⊥/P// を偏光解消度と言う。パーティクル偏光ライダーは、個々の降水粒子の偏光解消度を計測し、降水粒子判別をするだけでなく、個々の降水粒子エコー強度から粒径の推定が可能である。本研究はJSPS科研費19K22030の助成を受けたものです。



光・電波リモートセンシングによる大気圏最上層部の測定

大気圏最上層部の高度90km付近は、精度のよい観測手段が極めて限られているため、未だ未知の領域である。共鳴散乱ライダーを用いることにより、この領域に成層する金属原子層を精度良く測ることができる。我々は金属原子層の一つであるナトリウム層の密度分布変化やその成因がよくわかっていない突発的に発生するスポラディックナトリウム層をライダーにより継続的に測定し、他地点のライダーやレーダーとの同時観測結果との比較等により解析を行った。また、昼間の強い背景光をカットする狭帯域原子フィルターにより昼夜連続のナトリウム層のライダー観測に、狭帯域化したフラッシュランプ励起Ti:サファイアレーザーによりカリウム層の連続観測にそれぞれ成功した。更に、この領域の大気温度を簡易に測定できるボルツマンライダーの検討を行った。また、擬似ランダム変調技術を用いたVHF電波による風測定のための流星レーダーの開発及び基礎実験を行った。これらの研究の一部は、京都大学生存圏研究所、信州大学及び情報通信研究機構(NiCT)との共同研究により行われた。



赤道圏界面領域の差分吸収ライダーによるオゾン観測

赤道直下インドネシア・コトタバンに既設の高機能ライダーをベースに、新たに対流圏界面のオゾン濃度の高度分布が観測可能な差分吸収ライダー機能を付加することにより、これまで試みられたことの無い赤道域対流圏界面のオゾン濃度の高い時間分解能と高い高度分解能観測を行う。成層圏のオゾンは、赤道域でもっともオゾン生成量が多く、子午面循環で両極へ輸送され、また対流圏との交換の大きい場所であると考えられているにも関わらず、この領域のオゾン観測情報は極めて不足している。本研究では、従来の時間分解能および空間分解能の低い衛星観測や観測頻度の少ないバルーン観測を凌ぐ高分解能の観測により、赤道対流圏界面から下部成層圏のオゾン濃度の高度分布およびオゾンをトレーサーとする物質輸送や波動伝播に関する観測情報を得ることにより、気候変動の解明に寄与することを目的とする。本研究はMUレーダー・赤道大気レーダー共同利用の援助を受けている。



大気温度、風及び大気圧の遠隔測定法の研究

基本的な気象要素である大気の温度、風及び大気圧の鉛直分布をレーザーを用い遠隔測定する技術の開発を行った。簡易な大気温度の測定法として、大気分子の回転ラマンスペクトルの温度依存性を利用したライダーシステムの開発を行った。また、吸収特性の異なる2つの金属原子フィルターを用いて、ドップラー広がりによるレイリー散乱スペクトル幅の変化を測定し、気温を算出するライダーの開発を行っている。更に分子吸収線のウィングを利用し、大気圧と温度が同時測定可能な新しい差分吸収法の検討と基礎実験を行った。 一方,風の測定法として、従来用いられていたエタロンの代わりに、温度変化などの外乱の影響を受けにくい原子フィルターを用いてドップラーシフトを測定するエッジ法を提案し、実際の風の鉛直分布測定に成功した。この研究の一部は、気象研究所との協力により行われた。また、風の3次元観測を目的とした、アイセーフ波長1.5umのFBGフィルターを用いたドップラーシフト検出装置の開発を行った。



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