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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2022年度研究成果

1.  降伏破壊した鉄筋コンクリート柱梁接合部の軸崩壊機構に関する研究

北山和宏・井上諒・村野竜也(明治大学)・磯崎将吾(明治大学)・河合浩平(明治大学)・晋 沂雄(明治大学)

 建物の崩壊は軸力支持能力の喪失によって生じる.軸力を支持するのは主として柱であり,一本の柱は層間の内法部分とその上下の柱梁接合部とに分けられる.地震動を受ける鉄筋コンクリート(RC)建物の崩壊は,日本では柱内法領域のせん断破壊や柱頭・柱脚の曲げ破壊による層崩壊によってもたらされることが多かった.しかし国外では,柱梁接合部が柱軸力を保持できずに建物の崩壊を招いた例が多々存在する(例えばMoehle 2003,Park・Mosalam 2013).国外の事例では,柱梁接合部に横補強筋が配筋されない,あるいは柱断面が小さい等の構造設計法の抱える問題を指摘でき,日本とは事情を異にすると見られてきた.

 ところが2016年の熊本地震によって,5階建てRC庁舎が外構面の柱梁接合部の軸崩壊によってほぼ倒壊するという被害(向井 2016)が日本でも出現した.このRC庁舎は旧耐震設計基準に基づいて設計されたが,柱梁接合部が降伏破壊した後にその軸崩壊が生じたと推定される(斎藤・向井・塩原 2018).

 ここで軸崩壊したのは互いに直交する三本の梁が貫入する側柱梁接合部であったが,この形態の柱梁接合部について接合部降伏破壊後の軸崩壊を検討した研究は存在しない.

  そこで側柱梁部分架構試験体に三方向加力して接合部降伏破壊から軸崩壊に至る実験を計画した.上記の軸崩壊した実建物の側柱梁接合部で予測された破壊機構と同一になるように側柱梁部分架構試験体の配筋を調整した.すなわち,一方向水平加力時には梁曲げ降伏が先行するが,二方向水平加力時には接合部降伏破壊が生じるように計画した.なお既往の隅柱梁部分架構実験との比較を容易にするために,柱断面(310mm角の正方形),梁断面(幅250mm,せい400mm),梁スパンおよび柱の階高は共通とした.

  実験変数は接合部横補強筋の配筋(2-D6三組および2-D4六組),柱主筋の配筋(8-D16および8-D13)および柱に貫入する梁の本数(三本[側柱梁部分架構]および二本[隅柱梁部分架構])である.これに基づいて側柱梁部分架構試験体を三体,隅柱梁部分架構試験体を一体,それぞれ作製して三方向加力実験を行なった.

 ここでは梁が三本貫入する側柱梁部分架構の実験結果について記述する.全試験体で最大耐力に到達した層間変形角1.5%までに柱主筋,梁主筋および接合部横補強筋の引張降伏が発生した.層間変形角1.5%では層せん断力が梁曲げ降伏耐力計算値に到達あるいは接近したことから,このときに梁曲げ降伏が生じたと考える。一方向載荷時の最大耐力発揮後,南西地点および北東地点へ向かう水平二方向載荷時に層せん断力が接合部降伏破壊耐力の予測曲面に到達し,層間変形角1.5%の南西地点で接合部降伏破壊を生じたと判断する.

 層間変形角2%では全試験体で柱主筋の圧縮降伏が発生し,柱梁接合部上部のかぶりコンクリートの圧壊が進行して十字形方向の水平耐力が低下した.層間変形角3%では柱梁接合部のかぶりコンクリートの圧壊がさらに進み,梁の取り付かない南面の柱主筋が露出して座屈の兆候が見られた.層間変形角4%では,柱梁接合部のコアコンクリートの圧壊にともなって柱主筋が柱梁接合部内で座屈し,軸崩壊へ向かう挙動へ転じた.柱主筋の座屈挙動は細径で柱主筋比が1.1%と小さい試験体で最も激しく,接合部横補強筋を分散配置した試験体で少ない傾向を示した.

 層間変形角4%の第二サイクルでの二方向載荷時に,柱主筋を細径(8-D13)とした柱梁部分架構では下柱に対する上柱の回転角が南方向に増大して三軸一点クレビスの回転限界に到達したために実験を中止した.これに対して柱主筋を8-D16とした二体では層間変形角4%の第二サイクルの載荷を完了して実験を終了した.いずれの試験体も実験終了時の柱主筋の座屈状況および柱梁接合部のコアコンクリートの損傷状態から,柱梁接合部における軸崩壊直前であったと判断した.これより柱主筋を細径とした柱梁接合部の軸崩壊は他の二体よりも早期に発生したと考える.

 以上より得られた知見を以下にまとめる.

(1) 柱主筋の本数は同数(八本)のままで細径(D13)にすること(柱主筋比は1.7%から1.1%に減少する)によって柱主筋の降伏および接合部軸崩壊の時期が早まり,接合部軸崩壊の発生が加速された.

(2) 接合部横補強筋比を同等にしながらも2-D6(三組)から2-D4(六組)へと分散配置することによって,柱梁接合部の損傷が抑えられて接合部軸崩壊の抑制へ有利に作用した.

(3) 梁が三本貫入する側柱梁接合部では,接合部両側に直交梁が取り付く載荷方向(すなわちト形の方向)において接合部降伏後も水平耐力の低下が抑えられた.層間変形角3%の第二サイクルで柱梁接合部が軸崩壊した既往の隅柱梁部分架構と比較すると,今回の側柱梁部分架構では層間変形角4%の第二サイクル以降に軸崩壊が発生したことから骨組の靭性化が見られた.側柱梁接合部では両側の直交梁が柱梁接合部を拘束することで水平耐力の保持能力が向上し,軸崩壊の抑制に寄与した.

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:RC柱梁接合部実験2022_井上村野:試験体S2_梁3本の側柱タイプ_柱主筋8-D13:IMG_6034.JPG


2. 既往実験でせん断破壊と判定された鉄筋コンクリート柱梁接合部の破壊性状の再検討

北山和宏・岡部浩士

 鉄筋コンクリート(RC)骨組における柱梁接合部の降伏破壊が21世紀初頭に塩原等博士によって提唱される以前には,RC柱梁接合部の破壊は過大な入力せん断力によって引き起こされる―すなわちせん断破壊―と考えられていた.

  実験において柱・梁の主筋量を意図して多く配筋した場合には主筋が降伏する前に柱梁接合部中央のコンクリートが圧壊してせん断破壊することはあるが,通常の設計で使われる範囲では梁主筋あるいは柱主筋の降伏が先行する.そのような場合にも変形の増大とともに柱梁接合部の斜めひび割れが大きく開口して正負交番載荷によってかぶりコンクリートが剥落するなど,柱梁接合部の損傷が顕著となることが多かった.この現象は当時,主筋降伏後の接合部せん断破壊と呼称されたが,現在の知見でその結果を見直せばせん断破壊ではなく接合部降伏破壊である場合が多いと推量される.

 そこで1980年代後半に北山によって実施され,梁降伏後に接合部せん断破壊を生じたとされたRC十字形柱梁部分架構実験(試験体B1〜B4)の結果を見直して,その破壊性状の再検討を試みた.対象試験体は柱断面300mm×300mm,梁断面300mm(せい)×200mm(幅),梁スパン2700mmおよび階高1470mmの平面十字形部分架構である.

  このうち柱梁接合部の横補強筋として両端に135度フックを有する閉鎖型のフープを用いた二体(試験体B2およびB4)を主に用いた.この二体は梁,柱および柱梁接合部の配筋は異なるが,終局耐力による柱梁曲げ耐力比は両者とも1.4程度で同等であった.梁主筋として試験体B2では普通強度(SD345相当)のD13を用いたのに対して,試験体B4では低強度(SD235相当)の細径異形鉄筋D10を用いることで柱梁接合部内での付着性状を良好に維持することを企図した.柱梁接合部の横補強筋には試験体B2では2-φ6を四組,試験体B4では3-φ6を七組,それぞれ配筋した.

 実験では両試験体ともに梁主筋,接合部横補強筋および柱主筋の順に引張り降伏した.水平耐力は層間変形角4%のときに最大値に到達し,その後緩やかに低下した.柱梁接合部にはX状の斜めひび割れが発生し,かぶりコンクリートの剥落も見られた.

  試験体B2の水平耐力は梁曲げ終局時の計算耐力には到達しなかったが接合部降伏破壊時の計算耐力にはほぼ達したことから,接合部降伏破壊によって耐力低下を生じたと考える.いっぽう,試験体B4の水平耐力は梁曲げ終局時の計算耐力および接合部降伏破壊時の計算耐力をともに超えた.層間変形に占める柱梁接合部の変形成分は層間変形角4%以降に急増したことから,試験体B4では梁の曲げ降伏が先に生じたものの,その後の変形を増大させてゆく繰り返し載荷によって接合部降伏破壊を生じたと判断した.詳細についてはさらに検討を要する.

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