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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2019年度研究成果

1.  曲げ降伏破壊する鉄筋コンクリート隅柱梁接合部の軸崩壊機構に関する研究

北山和宏・藤間 淳・王 君穎・石川巧真・晋 沂雄(明治大学)

 建物の崩壊は軸力支持能力の喪失によって生じる.軸力を支持するのは主として柱であり,一本の柱は層間の内法部分とその上下の柱梁接合部とに分けられる.地震動を受ける鉄筋コンクリート(RC)建物の崩壊は,日本では柱内法領域のせん断破壊や柱頭・柱脚の曲げ破壊による層崩壊によってもたらされることが多かった.しかし国外では,柱梁接合部が柱軸力を保持できずに建物の崩壊を招いた例が多々存在する(例えばMoehle 2003,Park・Mosalam 2013).国外の事例では,柱梁接合部に横補強筋が配筋されない,あるいは柱断面が小さい等の構造設計法の抱える問題を指摘でき,日本とは事情を異にすると見られてきた.

 ところが2016年の熊本地震によって,5階建てRC庁舎が外構面の柱梁接合部の軸崩壊によってほぼ倒壊するという被害(向井 2016)が日本でも出現した.このRC庁舎は旧耐震設計基準に基づいて設計されたが,柱梁接合部が曲げ降伏破壊した後にその軸崩壊が生じたと推定される.

 RC柱梁接合部の曲げ降伏破壊は塩原(2008)によって提唱され,接合部降伏破壊を検討するための実験研究が行われ始めた.ただし,曲げ降伏破壊した柱梁接合部の軸崩壊挙動の研究はほとんどなく,ト形の平面柱梁部分骨組に水平力および変動軸力を載荷する実験(村上・前田ら 2017)が挙げられる程度である.実建物では三方向地震動を受けるが,立体隅柱梁部分骨組に二方向水平力および一定圧縮軸力を載荷する実験(片江・北山 2015)において柱梁接合部内の柱主筋が座屈して軸崩壊の兆候が見られたとする報告があるに過ぎず,系統立った実験研究は未だ行われていない.柱梁接合部が軸崩壊するときの骨組の限界変形についてはHassan・Moehle(2012,2013)の研究のみである.

 そこで, RC骨組内の柱梁接合部が地震動によって曲げ降伏破壊した後に軸崩壊する過程を静的載荷実験によって追跡し,軸崩壊に至る変形性能および水平耐力保持性能の精査を研究の目的とした.実験では二方向水平力および変動する柱軸力を立体隅柱梁部分架構試験体3体に与えた.実験変数は柱梁接合部の横補強筋量(横補強筋比0.27%あるいは0.61%)および変動軸力の載荷履歴である.柱梁曲げ耐力比は,軸力減少側(上柱の軸力0)で1.1程度,軸力増大側(上柱の圧縮軸力比0.13)で2.1程度として,軸力減少時に接合部降伏破壊を生じるように設計した.比較のため平面ト形の柱梁部分架構試験体に一方向水平力および柱の変動軸力を与える実験も実施した.コンクリートの圧縮強度は66.3MPaであった.

 試験体は全て層間変形角1〜2%で接合部曲げ降伏破壊によって最大耐力に達したのち,水平耐力が低下した.その後,平面接合部では層間変形角5%まで柱軸力を保持したのに対して,二方向水平力を受けた立体接合部では層間変形角3〜4%で柱梁接合部内のコア・コンクリートの圧壊が進むとともに接合部横補強筋が面外にはらみ出して135度フックが抜け出し,接合部内の柱主筋が随所で座屈して柱軸力を保持できなくなった.柱梁接合部の横補強筋量を二倍に増やすことで接合部の軸崩壊の発生は抑えられ,変形性能の増進を得た.柱梁接合部の局部変形や柱主筋のひずみの詳細な検討から,接合部内での柱主筋の座屈が上下柱の相対回転角の急増を引き起こしたことを示した.その結果として上下の柱がくの字状に変形し,柱梁接合部での軸崩壊が生じることを指摘した.




2. 鉄筋コンクリート梁のかぶりコンクリート圧壊時の変形性能評価法

北山和宏・胡 文靖・行則真穂

 本研究の目的は,鉄筋コンクリート(RC)骨組内の梁部材端部のかぶりコンクリートが圧壊するとき(最大耐力時にほぼ相当する)の変形性能を精度よく評価することである.そこで当研究室ではRC十字形柱梁部分架構試験体3体の実験を行った(王磊2011).この実験の結果に基づいて,主筋降伏後にかぶりコンクリートが圧壊するときの変形性能を定量的に評価する手法を提案した(鈴木清久2012・2013).しかし試験体数が少ないこともあって,その精度の十分な検証はできなかった.

 そこで,梁主筋(D19)の材種をUSD590B(高強度)あるいはSD345(普通強度)とすることによって柱梁接合部内での梁主筋の付着性状を変数とした2体のRC十字形柱梁部分架構試験体に正負交番載荷する実験を2018年度に行った.実験では2体とも梁主筋降伏後に梁付け根コンクリートの圧壊を生じて最大耐力に至った.梁のかぶりコンクリートが圧壊したときの梁部材角は,普通強度主筋を用いた梁では1.3%〜2.3%,高強度主筋を用いた梁では1.4%〜1.8%とほぼ同等であった.しかし塑性率に直すと普通強度主筋を用いた梁では3.2〜4.9,高強度主筋を用いた梁では1.4〜1.8となり,2.5倍の差異を生じた.

 今回および既往の実験結果を用いて,梁の変形を以下の四つの成分に分解した.すなわち,(A) 梁ヒンジ領域のせん断変形による変形,(B) 梁主筋は柱梁接合部中央でのすべりによって柱面で抜け出して曲げひび割れ幅が増大するが,これによる付加回転に起因する変形,(C) 柱梁接合部の中央から梁ヒンジ領域における梁主筋の総伸び量が危険断面位置(柱面)に集中すると仮定したときに,これによるひび割れ開口によって生じる付加回転による変形,および(D) 梁の非ヒンジ域の弾性曲げ変形,である.実験より,梁主筋の降伏からかぶりコンクリート圧壊までのこの四成分の推移を求めた.

 その結果,柱梁接合部の中央から梁ヒンジ域における梁主筋の総伸び量に起因する回転角が梁たわみの35%〜67%と最も多くの変形を占めた.柱梁接合部中央での梁主筋すべりに起因する回転角がかぶりコンクリート圧壊時の梁たわみに占める割合は,付着指標が小さく接合部内梁主筋の付着が良好な場合には5%程度,付着指標が大きく付着劣化が生じる場合には17%〜35%と大きく変化した.

 かぶりコンクリート圧壊時の梁の変形を上記の四つの変形成分の和として評価するため,鈴木らの提案を参照して,梁主筋の柱梁接合部内でのひずみ分布および柱梁接合部中央での梁主筋のすべり量を定量化する評価式を経験的に定めた.この新規提案による計算値と実験結果との比較を行い,おおむね良好にかぶりコンクリート圧壊時の梁部材角を評価できることを示した.ただし,柱梁接合部の中央から梁ヒンジ域における梁主筋の総伸び量に起因する回転角の評価精度は未だ十分ではないことに注意を要する.




3. アンボンドPCaPC骨組における梁の曲げ終局時の変形性能評価法

北山和宏・Yang Dichen・晋 沂雄(明治大学)

 プレキャストの鉄筋コンクリート柱および梁にアンボンドPC 鋼材を貫通させ,緊張力を導入することで両者を一体化するプレキャスト・プレストレスト・コンクリート(PCaPC) 圧着工法がある.この工法で構築された十字形柱梁部分架構においてPC鋼材が降伏せずに梁コンクリートの曲げ圧壊により最大耐力に至る場合を対象に,梁曲げ終局時のPC鋼材応力度の増分および梁部材角を定量的に評価する手法を経験的に導出した.

 具体的には,アンボンドPCaPC十字形柱梁部分架構の力学挙動を再現できるマクロ・モデル(宋・晋・北山2016)を利用して,梁せい,コンクリート圧縮強度,梁スパン,PC鋼材の降伏強度および導入張力レベルなどを変数とした17,280通りのパラメタリック解析を実施した.なおここでは,梁圧着面における圧縮縁コンクリートひずみがコンクリート終局ひずみ0.003に到達するときを曲げ終局状態と定義した.

 この解析の結果,曲げ終局時におけるPC鋼材応力度の増分および梁の変形には,有効プレストレス応力度を用いた鋼材係数が主要な影響因子になることを指摘した.この多変数解析の結果を用いて回帰分析を行い,PC鋼材の弾性限界到達の有無を考慮してPC鋼材応力度の増分を評価する経験式を提案した.ただし上述の鋼材係数が0.29以下の場合を当該提案式の適用範囲とする.同様の回帰分析から,鋼材係数と梁のせん断スパン比との関数として曲げ終局時の梁部材角の評価式を提案した.ただしせん断スパン比が1.7以上,11.9以下の場合を適用範囲とする.これらの提案式が本研究室で実験した5体の試験体の結果を比較的良好に再現できることを示した.


4. 部分高強度化鉄筋を使用した鉄筋コンクリート骨組における梁ヒンジリロケーションの発現と接合部降伏破壊の防止

北山和宏・張 志宇・岸田慎司(芝浦工業大学)・村田義行(ネツレン)

 熱処理によって部分的に高強度化した鉄筋を鉄筋コンクリート(RC)骨組の梁主筋として柱梁接合部を貫通させることで,梁の塑性ヒンジ位置を危険断面(柱面)近傍から梁スパン中央側に移動させることができる(ヒンジリロケーション[Hinge Relocation]と呼ぶ).これにより柱梁接合部の損傷を低減し,曲げ降伏破壊を防止できることが中村・岸田・福山ら(2016)によって示された.

 しかし2017年度および2018年度の実験では部分高強度化鉄筋を用いて梁のヒンジリロケーションを想定してもそれを十分に実現できず,柱梁接合部への損傷集中を防止するという当初の意図を達成できない場合が多々あった.そこで2019年度の実験では,以下のように梁および柱梁接合部の配筋を工夫することで梁のヒンジリロケーションを明瞭に発現させることを企図した.

 2019年度には,平面十字形試験体4体(一体打ち3体,プレキャスト1体)および平面ト形試験体4体(全て一体打ち)の計8体に正負交番繰り返し載荷する実験を実施した.実験変数は接合部横補強筋の降伏強度(普通強度;347 MPaおよび高強度;1257 MPa),梁主筋の二段筋の有無および二段筋の断面積,ト形試験体における柱中段筋の有無および軸力変動の有無,である.なお十字形試験体では柱中段筋は配さなかった.ヒンジリロケーションの位置は柱面から梁せい(400 mm)だけ離れるように設定した.柱梁曲げ耐力比は十字形では2程度,ト形では2.4から3.4として柱梁接合部の曲げ降伏破壊を防止した.柱梁接合部には横補強筋として普通強度の2-D6を六組(横補強筋比0.39%),あるいは高強度の2-U7.1を五組(横補強筋比0.37%),それぞれ配筋した.コンクリート圧縮強度は36 MPaから46 MPaであった.

 以下に十字形試験体の実験結果を述べる.梁主筋を一段配筋として接合部横補強筋に高強度鉄筋を用いた場合には,層間変形角1.1%から1.4%で想定したヒンジリロケーション位置で梁主筋が降伏した.接合部横補強筋は最大耐力後に降伏した.梁主筋を二段配筋として接合部横補強筋に普通強度鉄筋を用いた場合には,層間変形角0.8%で接合部横補強筋が降伏し,層間変形角1.3%から1.5%で想定したヒンジリロケーション位置で梁の一段筋および二段筋がともに降伏した.その後全試験体ともに層間変形角4%程度で最大耐力に達し,ヒンジリロケーション位置において曲げひび割れおよび斜めせん断ひび割れが大きく開口してコンクリートの損傷が顕著になった.繰り返し載荷による復元力履歴特性は履歴吸収エネルギー量の多い紡錘形に近く,最大耐力後の耐力低下はほとんど生じなかった.なお柱主筋は全試験体で弾性に留まった.

 柱梁接合部の損傷は抑制され,明瞭なヒンジリロケーションが発現したと判断する.梁の二段筋は柱梁接合部の斜めひび割れを横切ることから,そのひび割れ幅の拡大の防止に寄与したために接合部の損傷は軽微に抑えられたと考えるが,そのメカニズムについてはさらに検討を要する.

 ト形試験体の実験結果も十字形実験とほぼ同様であった.柱に中段筋を配することによって柱梁接合部の変形は抑制された.変動軸力を受ける場合の軸力減少側では柱梁曲げ耐力比が2.4と相対的に小さくなるが,柱に中段筋を配して接合部横補強筋に高強度鉄筋を用いることで柱梁接合部の降伏破壊を防止でき,明瞭なヒンジリロケーションを発現できた.





5. 耐震補強済途中に東北地方太平洋沖地震で被災した鉄筋コンクリート建物の耐震性能

北山和宏・田中宏一・扇谷厚志(東電設計)

 東北地方太平洋沖地震(2011)によって,耐震補強途中で中破の被害を生じた3階建て鉄筋コンクリート(RC)校舎が栃木県那須町にある.この建物は桁行方向に108 mと長い一文字形校舎であり,耐震補強の一期工事は完了したが,二期工事は未実施のまま被災した.被害はこの二期工事予定部分に集中し,RC柱の三本がせん断破壊(損傷度4)し,他の四本に損傷度3のせん断ひび割れが発生した.建物全体では耐震性能残存率Rが77.1%で中破と判定されたが,耐震補強を施していない二期工事予定工区だけで判定すると耐震性能残存率Rは59.3%で大破であった.

 本研究ではこの建物の未補強工区に被害が集中した原因を追求するために,立体骨組モデルに対して三方向地震動を入力する非線形地震応答解析を実施した.解析では補強工区と未補強工区との水平変位の差を再現するために,床スラブを非剛床にモデル化した.そのためにRC床スラブを水平ブレースに置換し,面内ひび割れ発生によるスラブ剛性の低下を考慮した.具体的には床スラブの面内せん断挙動をブレース斜材二本の軸ばねの弾塑性挙動によって表現し,その復元力特性はRC耐震壁と同様に設定した.

 張間方向の開口耐震壁は一枚の耐震壁とはせずに,袖壁付き柱と単独柱とによって構成されるとみなして,各柱の上下にMSばねを設置することによってモデル化した.地震動には隣接する敷地で観測された原波を使用し,各方向の最大加速度は東西方向(建物の桁行方向)で475 gal,南北方向(建物の張間方向)で925 galおよび上下方向で229 galであった.なお,敷地周辺の気象庁震度階は6弱であった.

 損傷度3や4の実被害を生じた部材には,非剛床とした本解析によってせん断破壊を生じた.建物の補強工区と未補強工区とでは応答層間変位に差が生じ,未補強工区では補強工区よりも桁行方向で10mm以上大きく変形した.このことが未補強工区の柱部材のせん断損傷を激化させたと考える.解析では未補強工区の床スラブにひび割れが発生して面内せん断剛性が低下したが,補強工区のスラブはほぼ剛床のように挙動した.これらの結果から,本解析は未補強工区に地震被害が集中した実状をある程度再現できたと考える.

 解析で得られた張間方向の破壊機構はおおむね実被害と合致した.ただし,北側廊下に対応する縦長開口のある耐震壁の損傷はその全ての位置で実被害を過大に評価したので,さらに検討が必要である.



  撮 影:晋 沂雄氏(当時 東京大学生産技術研究所 中埜良昭研究室)



6. 新耐震基準で設計されたプレストレスト鉄筋コンクリート建物の地震被害と地震応答解析

北山和宏・有井季萌

 1981年に施行された新耐震設計基準によって設計されたが2011年の東北地方太平洋沖地震によって中破の被害を蒙ったプレストレスト鉄筋コンクリート建物を対象として,その地震被害の原因を追求するために当該建物の静的漸増載荷解析および地震応答解析を実施した.

 対象は1984年に竣工した4階建て学校校舎で仙台市泉区に位置する.東北地方太平洋沖地震による付近の震度は6弱であった.本建物は鉄筋コンクリート(RC)構造であるが,張間方向に現場打ちのプレストレスト・コンクリート(PC)構造による梁を使用して18.4mのロングスパンを実現したことに特徴がある.この建物は最大厚さ4mのラップル・コンクリートに載った直接基礎によって支持される.建物北側のほぼ中央に全階に渡る吹き抜けがあり,その北側に階段室棟がエクスパンション・ジョイントを介して接続する.桁行方向は12スパン(スパン:4.5m)の開口壁付きフレーム構造,張間方向は1スパン(両妻面は3スパン,一部2スパン)の耐震壁付きフレーム構造である.教室間の戸境壁(張間方向)にはRC壁ではなく鋼製間仕切り材が使われたため,張間方向の耐震壁は少ない.

 代表的な柱断面は桁行方向に対してせい750 mm,幅900 mmの矩形であり,1階から4階まで同一寸法である.1階柱の主筋は18-D25,帯筋は4-D13@100である.18.4mスパンのPC梁の断面は各階とも同一で,せい950 mm,端部の幅600 mm,中央部の幅450 mmである.PC梁の上端・下端ともに主筋として4-D25(中央部では3-D25)が配筋され,PC鋼材として7c-9-9.3φ(SWPR7A,7 本よりの標準径9.3 mm のPC 鋼より線9本を一組として七組配筋)が配置された.肋筋は2-D13@150(中央部では@250)であった.

 2011年の東北地方太平洋沖地震による被害は以下のようであった.桁行方向では,全階に渡って損傷度2程度の曲げひび割れが梁の危険断面やスパン内に発生し,梁付け根のかぶりコンクリートの剥落,梁ヒンジ領域のせん断ひび割れ(損傷度2程度)も観察された.桁行方向2階では南構面のRC開口壁(厚さ150 mm)がせん断破壊した.1階および2階の柱には損傷度1程度の曲げおよびせん断ひび割れが発生した.

 そのほか,RC雑壁のせん断による損傷が激しく,コンクリートの脱落と鉄筋の座屈が生じた.北側構面1階の腰壁には柱あるいは袖壁とのあいだに部分スリットが設置されたが,隙間幅が0から15 mmと小さかったため,衝突によってかぶりコンクリートが剥落し,一部では袖壁の主筋が露出した.桁行方向廊下側の小梁(断面寸法は500×300 mm)は直交するPC梁とともに上下方向に振動して間仕切り材との衝突が起こり,その部分での両者の損傷が見られた.

 張間方向には耐震壁を含めて重大な損傷は見られず,全階に渡って柱に損傷度1の曲げひび割れが生じ,1階および2階の妻面の耐震壁に損傷度1のせん断ひび割れが見られた程度であった.
 この建物の損傷が最も激しかったのは桁行方向2階であり,その耐震性能残存率Rは69.2%(桁行方向1階ではR = 91.0%)で被災度区分は中破と判定された.

 本研究における骨組解析では建物を立体骨組にモデル化し,弾塑性解析プログラムSNAPを使用した.PC梁ではPC鋼材が曲線配置されたため,梁を五分割してそれぞれのパーツの両端に弾塑性曲げ回転ばね(三折れ線の復元力骨格曲線を付与)を設置することで力学挙動を再現した.

 Ai分布による水平力を静的漸増載荷する解析では,1階の層間変形角2%のときに建物のベースシア係数は桁行方向で0.64,張間方向で0.82であった.張間方向のPC梁にはスパン中央で曲げひび割れが発生したが降伏は生じなかった.

 K-NET仙台で観測された水平二方向の地震動を入力した地震応答解析では,桁行方向2階の開口付き耐震壁および雑壁のせん断破壊を再現できた.張間方向のPC梁では解析ではスパン中央で曲げひび割れを生じたが,実被害ではPC梁に目立った損傷はなかった.また妻面の耐震壁や連層耐震壁間の短スパン境界梁には解析ではせん断破壊を生じたが,実際には被害を受けておらず実状と整合しなかった.PC梁,桁行方向の小梁および上述の境界梁のモデル化等を見直す必要があろう.

  

 


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