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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2018年度研究成果

1.  曲げ降伏破壊する鉄筋コンクリート隅柱梁接合部の軸崩壊機構に関する研究

北山和宏・藤間 淳・晋 沂雄(明治大学)

 建物の崩壊は軸力支持能力の喪失によって生じる.軸力を支持するのは主として柱であり,一本の柱は層間の内法部分とその上下の柱梁接合部とに分けられる.地震動を受ける鉄筋コンクリート(RC)建物の崩壊は,日本では柱内法領域のせん断破壊や柱頭・柱脚の曲げ破壊による層崩壊によってもたらされることが多かった.しかし国外では,柱梁接合部が柱軸力を保持できずに建物の崩壊を招いた例が多々存在する(例えばMoehle 2003,Park・Mosalam 2013).国外の事例では,柱梁接合部に横補強筋が配筋されない,あるいは柱断面が小さい等の構造設計法の抱える問題を指摘でき,日本とは事情を異にすると見られてきた。

 ところが2016年の熊本地震によって,5階建てRC庁舎が外構面の柱梁接合部の軸崩壊によってほぼ倒壊するという被害(向井 2016)が日本でも出現した.このRC庁舎は旧耐震設計基準に基づいて設計されたが,柱梁接合部が曲げ降伏破壊した後にその軸崩壊が生じたと推定される.

 RC柱梁接合部の曲げ降伏破壊は塩原(2008)によって提唱され,接合部降伏破壊を検討するための実験研究が行われ始めた.ただし,曲げ降伏破壊した柱梁接合部の軸崩壊挙動の研究はほとんどなく,ト形の平面柱梁部分骨組に水平力および変動軸力を載荷する実験(村上・前田ら 2017)が挙げられる程度である.実建物では三方向地震動を受けるが,立体隅柱梁部分骨組に二方向水平力および一定圧縮軸力を載荷する実験(片江・北山 2015)において柱梁接合部内の柱主筋が座屈して軸崩壊の兆候が見られたとする報告があるに過ぎず,系統立った実験研究は未だ行われていない.柱梁接合部が軸崩壊するときの骨組の限界変形についてはHassan・Moehle(2012,2013)の研究のみである.

 そこで,三方向地震動を受けるRC柱梁接合部が曲げ降伏破壊してから軸崩壊に至る,一連の機構を解明し,軸崩壊時の骨組の限界変形を把握することを目的にして研究を開始した.本年度はその基礎として,既往の実験研究における柱梁接合部の破壊形態を詳細に見直すことによって,曲げ降伏破壊したト形柱梁接合部が軸崩壊するときの破壊モードは三種類存在することを指摘した.また立体部分骨組に変動軸力および二方向水平力を正負交番載荷する実験を行うため,立体隅柱梁部分骨組試験体3体および比較用の平面ト形試験体1体を作製した.実験変数は,変動軸力における圧縮側の軸力比および接合部横補強筋量である.柱梁曲げ耐力比は,軸力減少側(軸力0)で1.6程度,軸力増大側(圧縮軸力比0.08あるいは0.16)で2.4あるいは3.0程度として,軸力減少時に接合部降伏破壊を生じるように設計した.静的載荷実験は来年度に実施する予定である.


2. アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート柱梁接合部の曲げ降伏破壊に関する解析研究

北山和宏・李 梦丹

 鉄筋コンクリート(RC)骨組内の柱梁接合部では曲げ降伏破壊が生じる.それに対して,アンボンドPCaPC工法骨組における柱梁接合部の曲げ降伏破壊についてはほぼ未検討であり,その破壊機構も解明されていない.アンボンドPCaPC工法骨組を対象とした本研究室での既往の実験研究では,十字形柱梁接合部の曲げ降伏破壊の可能性が指摘され(鈴木・宋性勳ら 2016),ト形柱梁接合部では曲げ降伏破壊を生じた(鄒珊珊・北山 2017).

 そこでアンボンドPCaPC工法骨組における十字形柱梁接合部を対象として,接合部降伏破壊するときの曲げ終局モーメントを算出するための評価手法を楠原・塩原(2010)の力学モデルを参考にして導出した.その結果と既往の実験とを比較して,算定法の妥当性を検討した.またこの提案手法を用いて,柱梁接合部の曲げ終局モーメントに影響を与える因子を変数として計算を行い,それらの因子が接合部降伏破壊の発生の可能性に与える影響を検討した.得られた知見を以下に示す.

(1) アンボンドPCaPC架構の十字形柱梁接合部を斜めの仮想断面によって四分割した力学モデルにおいて,力の釣り合い条件および材料の塑性条件(コンクリートの圧壊および鉄筋の引張り降伏)を考慮して,接合部降伏破壊発生時の曲げ終局モーメントを算定する手法を示した.なおPC鋼材の応力には,既往の実験結果に基づいてその弾性限界応力を用いた.

(2) 柱梁接合部の曲げ終局モーメントを算定する提案手法の妥当性を,平面十字形およびスラブ付き十字形架構の既往実験の結果と比較して検証した.計算結果は実験と定性的には符合したが,実験では梁曲げ破壊が先行したこともあって本手法の精度を確認するに至らなかった.スラブ付き試験体の実験値は計算値よりも9%大きかったが,この試験体では梁曲げ破壊後に柱梁接合部の曲げ降伏破壊が生じたと判断できるので,計算結果は実験事実とほぼ適合すると考える.いずれにせよ,新たな実験による確認を含めて今後の検証が必要である.

(3) 既往実験の試験体を基準に設定して,梁のPC鋼材量,柱主筋量および柱軸力を変数として柱梁接合部の曲げ終局モーメントを計算した.この解析の範囲では,梁のPC鋼材量が接合部降伏破壊に与える影響が最も大きく,柱梁曲げ耐力比が1.3から1.7程度以下のときに接合部降伏破壊が発生した.柱主筋量および柱軸力が接合部降伏破壊に与える影響は小さかった.


3. アンボンドPCaPC梁の最大耐力時に生じるPC鋼材応力度の評価

北山和宏・Yang Dichen・晋 沂雄(明治大学)

 アンボンドPC鋼材を梁部材内に直線配置したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート圧着工法(PCaPC)で作られた骨組では,PC鋼材の付着が無いためにPC鋼材のひずみは均一になる.そのためアンボンドPCaPC梁では,PC 鋼材の降伏前に梁端部コンクリートの圧壊によって最大耐力に到達することが多い.このとき,アンボンドPCaPC梁の曲げ終局モーメントを評価するためにはアンボンドPC鋼材の引張り応力度を特定する必要があり,竹本(1984)が提案した評価手法(以下、竹本式と呼ぶ)を用いることが一般的である.

 しかし竹本式は,現場打ちのプレストレスト鉄筋コンクリート梁にアンボンドPC鋼材を曲線配置して逆対称曲げ載荷した実験の結果に基づいて最大耐力時のPC鋼材引張り応力度を経験的に求めたものであり,設計に用いるために安全側の配慮が為された.竹本の実験では長期荷重に対してPC鋼材を曲線配置したため,梁危険断面位置でのPC鋼材は梁断面の上部に偏在した.これらの点で,プレキャストのRC柱・梁部材を直線配置のアンボンドPC鋼材によって圧着接合して耐震骨組を創出するPCaPC工法の梁に対して竹本式を適用することには疑問がある.

 そこで本研究では,アンボンドPC鋼材の降伏前に梁の曲げ圧縮破壊を生じたPCaPC十字形柱梁部分架構の既往の実験結果を用いて竹本式の精度を再検討した.また梁曲げ終局時のアンボンドPC鋼材の引張り応力度を定量的に評価する手法を再提案した.なおここでは,PC鋼材の初期導入張力から曲げ終局到達時の引張り応力度の増分Δσpを評価対象とした.

 検討に使用した試験体は,北山研究室で実施したアンボンドPCaPC十字形柱梁部分架構5体であり,いずれもアンボンドPC鋼材の降伏前に梁端部のコンクリートが圧壊して最大耐力に到達した.PC鋼材は梁断面の上下対称の位置に一本ずつ等量を梁部材内に直線に配置したものである.実験での最大耐力時のPC鋼材応力度は貼付したひずみゲージの出力から求めた.コンクリート圧縮強度は49 N/mm2から79 N/mm2であった.

 アンボンドPC鋼材の実験で得られた引張り応力度の増分Δσpは竹本式による評価値よりも1.7倍から7.8倍大きかった.これは曲げ終局耐力を控えめに評価する点では安全側の配慮であるが,梁部材のせん断設計時には危険側の評価となり不適切である.

 そこでこの5体の実験結果を用いて,引張り応力度の増分Δσpを定量評価する経験式を新たに提案した.変数はPC鋼材一本の初期導入張力を梁幅と有効せいとの積(有効断面積)で除して得られる平均圧縮応力度とした.この圧縮応力度が大きいほど梁付け根コンクリートの圧壊は早期に生じるため,引張り応力度の増分Δσpは小さくなった.

 提案した引張り応力度の増分Δσpを用いて梁の最大曲げモーメントを略算によって求めて実験値(先の5体と他機関によって実験された3体の合計8体)と比較したところ,いずれも15%の範囲内に収まることを確認した.


4. 部分高強度化鉄筋を使用した鉄筋コンクリート骨組における梁ヒンジリロケーションの発現と接合部降伏破壊の防止

北山和宏・石川巧真・岸田慎司(芝浦工業大学)・村田義行(ネツレン)

 熱処理によって部分的に高強度化した鉄筋を鉄筋コンクリート(RC)骨組の梁主筋として柱梁接合部を貫通させることで,梁の塑性ヒンジ位置を危険断面(柱面)近傍から梁スパン中央側に移動させることができる(ヒンジリロケーション[Hinge Relocation]と呼ぶ).これにより柱梁接合部の損傷を低減し,曲げ降伏破壊を防止できることが中村・岸田・福山ら(2016)によって示された.

 2017年度には,部分的に高強度化した鉄筋をプレキャスト工法によって組み立てたRC骨組に応用することを目指した実験研究を実施した.あわせて,在来の一体打ち工法においてヒンジリロケーションの発現と柱梁接合部における降伏破壊を防止するための詳細設計を可能にするように,スラブの影響や柱の変動軸力が骨組全体の挙動に与える影響を検証した.

 2017年度の実験では,梁の塑性ヒンジ位置が柱面から梁せい(400 mm)だけ離れるように設定した.しかしプレキャスト・一体打ちを問わず,またスラブの有無に関係なく,ほとんどの試験体において,想定した位置で梁曲げ終局耐力を発揮したものの最終的には明瞭なヒンジリロケーションは形成されず,柱梁接合部の曲げ降伏破壊が発生した.唯一,変動軸力を受ける外柱梁部分架構における柱の圧縮軸力増大側の加力では,柱梁曲げ耐力比が大きくなって柱梁接合部の降伏破壊は抑制され,梁部材に明瞭なヒンジリロケーションが形成された.

 この実験は,部分高強度化鉄筋を用いて梁のヒンジリロケーションを実現しようとしても,柱梁接合部への損傷集中を防止するという当初の意図を達成できない場合があることを示した.そこで2018年度には,柱梁接合部の水平方向の膨張を防ぐことが接合部降伏破壊を生じさせないためには必要である,という仮説のもとに,平面十字形試験体4体(一体打ち3体,プレキャスト1体)および平面ト形試験体5体(一体打ち4体,プレキャスト1体)の計9体に正負交番繰り返し載荷する実験を実施した.実験変数は柱主筋量(柱梁曲げ耐力比の増減),柱中段筋の有無(接合部降伏耐力の増減),ヒンジリロケーションの想定位置(梁せいの0.5倍あるいは1倍)などとした.柱梁接合部には横補強筋として2-D6を六組(横補強筋比0.35%)配筋した.コンクリート圧縮強度は31 MPaから40 MPaであった.

 しかしこの実験の結果は,2017年度とほぼ同様であった.特に,ヒンジリロケーションの想定位置を梁せいの半分として柱面での梁主筋ひずみを小さくして,柱梁接合部の水平膨張を抑制することを試みた十字形およびト形試験体では,いずれも想定ヒンジ位置において梁曲げ終局耐力を発揮することなく接合部降伏破壊が発生して,水平耐力が決定した.このように梁のヒンジリロケーションを発現できずに柱梁接合部の降伏破壊を生じた結果の詳細な分析および検討,さらに仮説の妥当性の検証などは今後の課題である.




5. 耐震補強済途中に東北地方太平洋沖地震で被災した鉄筋コンクリート建物の耐震性能

北山和宏・扇谷厚志

 東北地方太平洋沖地震(2011)によって,耐震補強途中で中破の被害を生じた3階建て鉄筋コンクリート(RC)校舎が栃木県那須町にある.この建物は桁行方向に108 mと長い一文字形校舎であり,耐震補強の一期工事は完了したが,二期工事は未実施のまま被災した.被害はこの二期工事部分に集中し,RC柱の三本がせん断破壊(損傷度4)し,他の四本に損傷度3のせん断ひび割れが発生した.建物全体では耐震性能残存率Rは77.1%で中破と判定されたが,耐震補強を施していない二期工事部分だけで判定すると耐震性能残存率Rは59.3%で大破であった.



 本研究ではこの建物の未補強部分に被害が集中した原因を追求するために,立体骨組モデルに対して三方向地震動を入力する非線形地震応答解析を実施した.張間方向の開口耐震壁は一枚の耐震壁とはせずに,袖壁付き柱と単独柱とによって構成されるとみなして,各柱の上下にMSばねを設置することによってモデル化した.地震動には隣接する敷地で観測された原波を使用し,各方向の最大加速度は東西方向(建物の桁行方向)で475 gal,南北方向(建物の張間方向)で925 galおよび上下方向で229 galであった.なお,敷地周辺の気象庁震度階は6弱であった.

 剛床を仮定した骨組の地震応答では,最大層間変形角は1 階:0.28%,2 階:0.34%および3 階:0.26%となった.水平1 方向入力の場合は3 方向入力の場合に比べて各階で小さくなった.張間方向の変形は各階で桁行方向と同程度か少し大きくなった.せん断破壊した柱と鉄骨ブレース脇の柱の損傷状況が解析と実被害とでおおむね一致した.しかし補強工区部分の柱のせん断破壊が解析では発生するなど,実状を再現できなかった.

 そこで,床スラブの面内剛性および梁の面外剛性と軸変形を考慮した非剛床モデルを用いた解析を行った.ここで,床スラブのひび割れによる面内剛性の低下を簡略に考慮するために,初期面内剛性の1/3を弾性剛性として与えた.この解析でも補強工区部分の柱のせん断破壊は発生したが,未補強工区部分のそれよりも遅くなった.また1階の補強工区部分の応答水平変位は未補強工区部分よりも小さくなり,定性的には剛床モデルよりも実被害を再現できた.


6. 鉄筋コンクリート梁の最大耐力時および安全限界時の変形性能評価

北山和宏・胡 文靖

 日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建物の耐震性能評価指針(案)・同解説」(2004年)に,曲げ破壊する梁部材の復元力骨格曲線を定めるための手法が提示された.それによって主筋降伏時の変形はかなり精度よく評価できる.しかし,かぶりコンクリートが圧壊するとき(最大耐力時にほぼ相当する)の変形性能を評価する手法は実験による検証がほとんど為されていない.この検証を目的として当研究室では鉄筋コンクリート(RC)十字形柱梁部分架構試験体3体の実験を行った(王磊2011,鈴木清久2012・2013).このなかで,主筋降伏後にかぶりコンクリートが圧壊するときの変形性能を定量的に評価する手法を提案したが,試験体数が少ないこともあって十分な検討がなされたとは言い難い.

 そこで本研究では上記の研究を継続して,最大耐力時の変形および安全限界に到達するときの限界変形を定量評価する手法を見直し,より合理的なモデルの策定を目的とする.具体的には,梁主筋(D19)の材種をUSD590B(高強度)あるいはSD345(普通強度)とすることによって柱梁接合部内での梁主筋の付着性状を変数とした2体のRC十字形柱梁部分架構試験体に正負交番載荷する実験を行った.コンクリート圧縮強度は54 MPaであった.

 梁降伏時の梁部材角は高強度主筋を用いた試験体で0.99%,普通強度主筋を用いた試験体で0.44%であった.実験では2体とも梁主筋降伏後に梁付け根コンクリートの圧壊を生じて最大耐力に至った.高強度梁主筋を用いた試験体では柱梁曲げ耐力比が3.0と大きかったにもかかわらず,変形の増大とともに柱梁接合部の斜め主対角ひび割れが拡幅してその損傷が顕著となった.このように柱梁接合部の破壊が進展したため,最大耐力到達後にすぐに耐力が低下し始めた.これに対して普通強度梁主筋を用いた試験体(柱梁曲げ耐力比3.3)では,梁付け根コンクリートの圧壊後も層間変形角5%まで梁曲げ終局耐力計算値を上回る水平耐力をほぼ維持した.

 梁のかぶりコンクリートが圧壊したときの梁部材角は,普通強度主筋を用いた梁では1.3%〜2.3%,高強度主筋を用いた梁では1.4%〜1.8%とほぼ同等であった.しかし塑性率に直すと普通強度主筋を用いた梁では3.2〜4.9,高強度主筋を用いた梁では1.4〜1.8となり,2.5倍の差異を生じた.梁主筋の柱梁接合部内での付着応力度とすべり量との関係や,梁かぶりコンクリート圧壊時の梁主筋ひずみ分布等を今後は詳細に検討する予定である.




7. 耐震補強した鉄筋コンクリート建物の上部構造—杭—地盤連成系による地震応答解析

北山和宏・岩田 歩

 東北地方太平洋沖地震(2011年)では,耐震補強したにもかかわらず被災した鉄筋コンクリート(RC)建物が複数存在した.それらのなかには上部構造物が小破あるいは中破の被害を受けるとともに,基礎構造が大破した建物がやはり複数存在した.本研究では,鉄骨ブレースで耐震補強されたが,東北地方太平洋沖地震によって上部構造は中破し,基礎構造は大破したRC学校建物(栃木県市貝町I中学校3階建て校舎)を検討対象として,耐震補強前後の建物−杭−地盤から成る連成系の立体骨組モデルを作成して地震応答解析を行い,地震応答性状について比較・検討した.解析には弾塑性解析プログラムSNAPを使用し,水平一方向の地震動10秒間を建物桁行方向に入力した.なお,表層地盤の地震動増幅を考慮して地震動を作成した.解析によって得られた知見を以下に示す。

 耐震補強前に較べて補強後の3階の損傷は激しくなり,実被害と対応した.杭頭部の応答曲げモーメントは耐震補強によって増大し,ほとんどの杭で曲げ破壊が発生した.連層鉄骨ブレース直下の杭の変動軸力は大きく,鉄骨ブレース架構の浮き上がりが発生した.解析は実被害を概ね再現できた.これらより,耐震補強による上部構造の保有水平耐力の増加が杭基礎の損傷を促進させたことを確認した.


8. 鉄筋コンクリート近代建築の保存・再生と耐震補強との関係

北山和宏・飯田峻大

 遠藤於菟が設計した日本最初の鉄筋コンクリート(RC)建物が1911年に竣工してからほぼ一世紀を閲した現代では,文化財としての価値を評価されて保存しながら使い続ける道を選択したRC建物が増えつつある.その際,多くの建物では耐震補強によって耐震性能を現行法規と同等以上に引き上げることが要請される.そこで建物の持つ文化的価値を毀損することなく,耐震補強と建物の使用性や意匠とを調和させる手法や意図を実物件を通して調査した(古谷2017).

 本研究では壁による耐震補強に注目して,古谷の研究によって収集されたRC建物41棟の中から22棟を抽出してそれらの特徴を検討した.なお免震・制震によって耐震改修された建物は除いた.

 耐震壁の新設では,その位置や形状を工夫することで文化的価値に対する影響を軽減できるが,既存躯体とあと施工アンカー等で一体化するので可逆性の問題を解決することは難しい.既存壁の開口閉塞では,補強後の仕上げによって既存部との差別化を行うことで文化的価値への関与を操作できる.

 





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