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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2017年度研究成果

1.  アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート外柱梁部分骨組の耐震性能に関する実験研究

北山和宏・鄒 珊珊

 鉄筋コンクリート(RC)骨組では,柱梁曲げ耐力比がある程度小さい場合に柱梁接合部が曲げ降伏破壊して,柱や梁の曲げ終局耐力を発揮できないことが塩原等博士(東京大学)によって指摘された.2016年にはRC構造保有水平耐力計算規準(案)において柱梁接合部の曲げ降伏破壊に対する検討手法が成文化された.これに対してアンボンドPCaPC圧着工法で組み立てられた骨組の柱梁接合部を対象として,その曲げ降伏破壊の有無を実験によって検証した研究はほとんど行われていない.

 鈴木・宋・晋・北山[2015,2016]はアンボンドPCaPC十字形部分骨組の載荷実験を行い,柱梁曲げ耐力比が1.2の場合にスラブ付きの十字形部分骨組の最大耐力は梁付け根コンクリートの圧壊によって決まったが,最大耐力以降に柱梁接合部の曲げ回転変形が増大し,接合部曲げ降伏破壊の徴候が見られたことを指摘した.ただし直交梁およびスラブを取り付けた立体十字形部分骨組では柱梁接合部の損傷が抑制され,本実験の限りでは柱梁曲げ耐力比が1.2の場合にも梁が曲げ破壊した.

 そこで本研究では,アンボンドPCaPC圧着工法で組み立てられた外柱梁部分骨組(ト形)試験体に水平力を正負交番繰り返し載荷する実験を2017年度に実施した.RC柱梁接合部が曲げ降伏破壊するときの終局耐力を簡易に求める手法を塩原[2014]が提案したので,その手法をアンボンドPCaPC骨組に拡張して柱梁接合部の曲げ降伏破壊を生じるように試験体を設計した.試験体は平面ト形1体およびそれにスラブのみを取り付けた1体の合計2体で,各々の柱梁曲げ耐力比を1.16および1.07(T形梁の上端引張り時)とした.柱圧縮軸力450kN(軸力比0.05)は共通で,柱梁接合部のせん断余裕度は1.81および1.63(T形梁の上端引張り時)であった.本年度には実験結果を詳細に分析することによって以下の結論を得た.

(1) 両試験体共に柱梁接合部のかぶりコンクリートの剥落およびコンクリートの圧壊が顕著であり,最大耐力後の層間変形角4%の繰り返し載荷によって柱梁接合部内の柱主筋が座屈した.柱梁接合部のせん断破壊は生じなかった.

(2) 平面ト形試験体の最大層せん断力は梁曲げ終局耐力の計算値を上回った.しかし最大耐力直前に層間変形角に対する柱梁接合部の変形成分の割合が36%を占め,柱梁接合部内の柱主筋および横補強筋が降伏したため梁曲げ破壊と接合部降伏破壊が同時に発生したと判断した.

(3) スラブのみを付加したト形試験体では梁曲げ終局耐力の計算値に到達しなかった.層間変形に占める柱梁接合部の変形成分の割合が最も大きく,柱梁接合部内の柱主筋および横補強筋が降伏したことから,接合部降伏破壊が発生したと判断した.

(4) アンボンドPCaPC骨組の柱梁接合部は,RC骨組と同様に降伏破壊することを確認した.

(5) スラブのみを取り付けた外柱梁接合部が降伏破壊するときの最大耐力はスラブのないそれとほぼ同等であった.これよりスラブは,接合部降伏破壊時の耐力増大に寄与しないと考える.


2. アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート柱梁接合部の曲げ降伏破壊に関する解析研究

北山和宏・李 梦丹

 鉄筋コンクリート(RC)骨組内の柱梁接合部では曲げ降伏破壊が生じる.それに対して,アンボンドPCaPC工法骨組における柱梁接合部の曲げ降伏破壊についてはほぼ未検討であり,その破壊機構も解明されていない.アンボンドPCaPC工法骨組を対象とした本研究室での既往の実験研究では,十字形柱梁接合部の曲げ降伏破壊の可能性が指摘され,ト形柱梁接合部では曲げ降伏破壊を生じた.

 そこでアンボンドPCaPC工法骨組における柱梁接合部の曲げ降伏破壊についての理論的な研究に取り組み始めた.今年度はRC柱梁接合部の曲げ降伏破壊に関する塩原理論を参考に,それをアンボンドPCaPC柱梁接合部に拡張することを試み,曲げ終局耐力を算出するための評価式を導出した.その妥当性を評価するために,実験結果等との比較・検証を今後に実施する予定である.


3. アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート骨組内の梁部材の使用限界状態

北山和宏・Yang Dichen

 プレストレスト・コンクリート(PC)建物の使用性,修復性および安全性を確保するための各種限界状態に関する規定が,日本建築学会によって2015年に提案された.アンボンドPC鋼材を用いたプレキャスト・プレストレスト・コンクリート圧着工法(PCaPC)では,PC鋼材の付着が無いためにPC鋼材のひずみは均一になり,PC 鋼材の降伏は発生しにくくなる.そのためPC鋼材に沿った付着を有する通常のPC構造とは異なる力学挙動を示す.

 アンボンドPCaPC骨組の梁部材についての使用限界状態に関する既往の研究では,多くの試験体において梁断面縁のコンクリート圧縮応力度がコンクリート圧縮強度σBの0.9倍(以下,0.9σBと表記)に到達することによって使用限界状態が決定された.その際,使用限界到達時の梁部材角(あるいは梁せん断力)は復元力特性上の剛性低下開始点のそれよりも小さくなった実験例が多かった.

 本研究では,使用限界状態におけるこのような復元力特性上の齟齬を生じた原因を究明するため,本研究室で実施したアンボンドPCaPC十字形柱梁部分骨組実験の結果を詳細に見直すことによって,梁部材の使用限界状態を再検証した.また,アンボンドPCaPC骨組内の梁部材を対象として曲げ終局時の耐力および変形を評価するためのマクロ・モデル(宋・晋・北山,2016年)を準用して,使用限界状態における梁部材角および梁せん断力を算出し,実験結果と比較・検討を行った.

 見直しに用いた試験体は,梁の曲げ破壊が先行した十字形試験体6体である.梁断面のコンクリート圧縮縁の応力度が0.9σBに到達する時期を特定するため,梁端部に設置した二つの変位計(検長50 mm)の出力から圧縮縁のひずみを線形補間によって算出した.また,梁圧着面から60 mm の位置の梁上下面に貼付したひずみゲージ(検長10 mm)の出力を調べた.比較のため,圧縮縁応力度が1.0σBに達したときの部材角およびせん断力も上記と同様の方法によって検証した.

 0.9σBあるいは1.0σBに到達した時の梁部材角は,変位計の測定結果から求めたものがひずみゲージの出力から求めたものの1/2倍から1/3倍となり,大幅に小さかった.変位計の測定結果から求めた0.9σB到達時の梁部材角は0.11%から0.37%であった.

 梁端部に設置した変位計のターゲットは柱面に取り付けたため,その出力には柱部材の変形を含む.そのため,変位計から算定した圧縮縁ひずみは過大に評価されたと考える.いっぽう,ひずみゲージは梁圧着面から60 mmの位置に貼付したため,そのひずみは圧着面における梁圧縮縁のひずみと比べて過小となる.そこで,梁圧着面の圧縮縁コンクリートの応力度が0.9σBまたは1.0σBに到達した時の梁部材角および梁せん断力は,両算定法による値の間にあると考えられる.

 各試験体の梁部材の復元力骨格曲線を見ると,0.9σB到達点は弾性領域と損傷によって剛性が大きく低下する領域との中間に位置した.これに対して1.0σB到達点はコンクリートの損傷が蓄積して剛性が大きく低下したあとの領域に位置した.これより使用限界状態のひとつとして学会指針(案)に規定されるコンクリートの損傷状態「0.9σB以下」は妥当であると判断した.

 準用したマクロ・モデルによる0.9σB到達点(解析値)は実験による復元力骨格曲線上にほぼ位置した.しかしそれは上記の二つの方法によって定めた梁部材角よりも相当に大きくなり,復元力特性上の剛性低下とは対応しなかった.宋らのマクロ・モデルではコンクリートの応力とひずみとの関係を線形と仮定したが,実験ではコンクリートのひび割れなどによってその関係は非線形になったことが一因と考える.

 最後に,梁断面のコンクリート圧縮縁のひずみの決定には実験での測定方法が大きく影響するので,その算出にあたっては注意が必要であることを指摘した.


4. 部分高強度化鉄筋を用いた鉄筋コンクリート骨組の耐震性能評価に関する実験研究

北山和宏・長谷川航大・岸田慎司(芝浦工業大学)

 熱処理によって部分的に高強度化した鉄筋を梁主筋として用い,これを鉄筋コンクリート(RC)骨組内の柱梁接合部を貫通させることで,梁のヒンジ位置を危険断面近傍から梁スパン中央側に移動させられる(Hinge Relocationと呼ぶ).これにより柱梁接合部の損傷を低減でき,その曲げ降伏破壊を防止できることが岸田・村田らの研究によって確認された.

 本研究ではこの工法を応用して,部分的に高強度化した鉄筋をプレキャスト工法によるRC骨組に適用することを目指す.プレキャストのRC柱および梁部材を組み立てるためには,主筋を継ぐことが必要になる.高強度鉄筋(SD685級を想定)の継ぎ手に作用する応力は大きいため,その性能を十分に発揮させることが肝要である.そこでRC柱梁部分骨組試験体に正負交番繰り返し載荷する実験を行なって,骨組内の主筋継ぎ手の力学性能を確認し,部材内に設置される主筋継ぎ手が骨組の地震時挙動に与える影響を検討した.あわせて,在来の一体打ち工法においてスラブがHinge Relocationの発生等に与える効果や柱の変動軸力が骨組全体の挙動に与える影響を検証した.

 試験体はプレキャストRC構造の柱梁部分骨組3体(十字形2体およびト形1体),一体打ちRC構造の柱梁部分骨組4体(十字形2体およびト形2体)の計7体である.柱および梁の主筋に部分高強度化鉄筋を用い,梁の塑性ヒンジ位置が柱面から梁せい(400 mm)だけ離れるようにした.一体打ちのト形試験体1体には,水平力に比例して軸力比0から0.15まで変動する柱軸力(隅柱を対象として長期軸力を軸力比0.05とした)を与えた.一体打ちの十字形試験体1体にはスラブのみを付加した.プレキャスト工法として,1) 梁の上下に柱部材を接合するタイプ(上柱の柱主筋を梁の接合部パネル部分に貫通させ,下柱の柱頭に柱主筋継ぎ手を設置)および、2) 左右の梁と上柱および柱梁接合部を含む下柱とを接合するタイプ(上柱の柱脚に柱主筋継ぎ手を,片方の梁端部に梁主筋継ぎ手をそれぞれ設置),の二種類を用いた.柱梁曲げ耐力比は十字形試験体では1.5程度,ト形試験体では1.4程度(変動軸力下では0.7から2.3まで変動)とした.コンクリート圧縮強度は35 MPaから38 MPaであった.

 実験では,プレキャスト工法の柱梁部分骨組はいずれも一体打ちと同等の耐震性能を発揮できることを確認した.ただしプレキャスト・一体打ちを問わず,想定した位置(柱面から梁せいだけ離れた位置)に塑性ヒンジが明瞭には形成されず,柱梁接合部の損傷が顕著になった試験体が多かった.これは塑性ヒンジの位置を既往実験よりも柱面から遠くに設定したために,柱面での梁主筋のひずみが弾性範囲に留まったとはいえ増大することで柱梁接合部への入力せん断力が大きくなったことや,柱梁接合部の水平方向の膨張が促進されたことが原因と考えられる.

 変動軸力を与えたト形試験体では,軸力が0になる加力方向では柱梁曲げ耐力比が小さくなって柱梁接合部の曲げ降伏破壊を生じた.いっぽう,圧縮軸力が増大する加力方向では柱梁曲げ耐力比が大きくなって柱梁接合部の破壊は抑制され,梁部材に明瞭なHinge Relocationが形成された.

 実験結果の詳細な分析および検討は今後の課題である.本実験は,部分高強度化鉄筋を用いて梁端部の塑性ヒンジ位置を柱面から離そうとしても,柱梁接合部への損傷集中を防止するという当初の意図が達成できない場合があることを示している.計画したHinge Relocationを明瞭に発現させて柱梁接合部への損傷集中を防止するための詳細設計法を提案することが必要である.


5. 耐震補強済途中に東北地方太平洋沖地震で被災した鉄筋コンクリート建物の耐震性能

北山和宏・藤間 淳・扇谷厚志

 東北地方太平洋沖地震(2011)によって,耐震補強途中で中破の被害を生じた3階建て鉄筋コンクリート(RC)校舎が栃木県那須町にある.この建物は桁行方向に108 mと長い一文字形校舎であり,耐震補強の一期工事は完了したが,二期工事は未実施のまま被災した.被害はこの二期工事部分に集中し,RC柱の三本がせん断破壊(損傷度4)し,他の四本に損傷度3のせん断ひび割れが発生した.建物全体では耐震性能残存率Rは77.1%で中破と判定されたが,耐震補強を施していない二期工事部分だけで判定すると耐震性能残存率Rは59.3%で大破であった.

 本研究ではこのように地震被害が未補強部に集中した原因を追及するために,立体骨組による桁行方向の静的漸増載荷解析および地震応答解析を実施した.地震動は隣接する那須町役場(栃木県那須寺町寺子) で観測された東西方向のもの(最大加速度は475 gal)を使用した.

 地震応答解析による層間変形角の最大値は1階0.27%,2階0.33%,3階0.19%となり,わずかな被害に留まった3階で最も小さくなった.特に損傷の激しかった1階B通りの8〜13通りの短柱では部材角が1%近くに達した.地震応答解析によって未補強部の柱の損傷状況は概ね再現できたが,実際には損傷度の小さかった補強部の柱においてせん断破壊が先行する結果となり,実状とは異なった.今後は水平2方向および上下方向の地震動を入力する地震応答解析を実施し,3方向地震動を受ける建物の挙動を検討する.


6. 豊田講堂とアートプラザに見る鉄筋コンクリート建物の保存改修手法に関する研究

北山和宏・市川 望(プロジェクト研究14)

 戦後70年以上を経過した現在,戦後に建設された鉄筋コンクリート建物の歴史的・文化的な価値が認知されるようになり,国の重要文化財に指定された建物も散見する.そうした建物の保存改修では既存建物への配慮だけではなく,耐震補強や設備の更新などの多様な要求が提起される.それゆえ既存建物の保存改修のための計画は,通常の新築建物における設計行為とは大きく異なる部分がある.

 これらの建物の改修設計を担当する建築家は既存建物の原設計者とは異なるのが一般的であるが,同一建築家により改修設計の行われた事例がその数は少ないものの存在する.そこで本研究では,原設計と同一の建築家により保存改修設計が行われた2つの建築作品,すなわち槇文彦設計の名古屋大学豊田講堂および磯崎新設計の旧大分県立図書館(現アートプラザ)をとり挙げ,これらの保存改修設計にみられる手法的な特徴を明らかにすることを目的とした.



 以下には磯崎新のアートプラザの改修について述べる.アートプラザでは図書館から美術作品の展示施設へと用途が変更されただけでなく,不足した耐震性能を向上させる耐震補強が同時に為された.アートプラザの東西方向では中央部に最大厚さ400 mmの耐震壁が四枚あって有効に水平力に抵抗できるため,その構造耐震指標(Is値)は1.32と大きかった.それに対して南北方向の2階にはボックス状の大梁から吊り下げられた居室があるため,2階のIs値は0.35と低く,耐震補強が必要となった.

 そこで2階の吊り下げ居室内の耐震壁(当初の厚さは100 mm)に厚さ400 mmの増し打ち補強をするとともに,その直下(1階)に厚さ400 mmの耐震壁を増設して水平力および軸力をスムーズに基礎まで流すようにした.これにともない連層耐震壁の浮き上がり回転を防ぐためにマット・スラブおよび地中梁が新たに設けられた.また東西方向の中央コアの両端部には開口付き耐震壁への打ち替えあるいは鉄骨ブレースの新設が為された.北側のボックス状の大梁(六本)は北端部で直交するボックス梁(1820×1820)にローラー支持されていて地震時には落下の危険性が指摘されたため,建物北面に幅400 mmのRC扁平柱が新設されてそれらの大梁を鉛直支持するようにした.これらの耐震要素増設にともなってその下部の地盤の改良が適宜,行われた.

 吊り下げ居室の下部は当初はピロティであり,それによって際立つ浮遊感がこの建物の大きな特徴のひとつであったが,その部分にRC耐震壁を新設したことでそれは失われた.ただしそのような浮遊感を少しでも残したいとする意志の現れとして,新設耐震壁を2階先端から4 mほどセットバックさせた.また建物北面は当初は水平横長の窓開口であったが,二層分のRC扁平柱六本を建てたことでファサードが大きく変更された.ただしその扁平柱のせいをボックス状大梁の短辺長さと揃えたことで,当初からそのようなデザインであったように見えることを意図した.

 このように磯崎新による当初の意匠は耐震補強に伴って大きく変更された.しかしそのことを磯崎新が許容した理由として,構造設計者への深い信頼感が大きく寄与したと思われる.大分県立図書館の当初から構造設計を担当した村上雅也・千葉大学名誉教授がアートプラザへの改修においても耐震補強設計を担当した.磯崎側の設計協力者として加わった建築家・山本靖彦と構造設計者・村上雅也とが相談して決定したことに対しては,磯崎が異論を述べることはほとんどなかったという.構造設計者の村上雅也が磯崎から個人的に信頼されていたことが,このように大きな意匠の変更に対して磯崎本人の了解がスムーズに得られた要因と考えられる.

 なお上記の改修設計時の経緯については太田勤氏(堀江建築工学研究所・取締役所長)のヒアリングによって得たものが多いことを付記して,謝辞とする.


7. 鉄筋コンクリート近代建築の保存・再生と耐震補強との関係

北山和宏・古谷 元

 遠藤於菟が設計した日本最初の鉄筋コンクリート(RC)建物が1911年に竣工してからほぼ一世紀を閲した現代では,文化財としての価値を評価されて保存しながら使い続ける道を選択したRC建物が増えつつある.その際,多くの建物では耐震補強によって耐震性能を現行法規と同等以上に引き上げることが要請される.そこで建物の持つ文化的価値を毀損することなく,耐震補強と建物の使用性や意匠とを調和させる手法や意図を実物件を通して調査した.

 対象としたのは1943年以前に建てられた鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造建物で,文化的価値の保存と耐震性能の向上とを目指して改修された建物41棟である.なお免震・制震によって耐震改修された建物は除いた.

 採用された耐震補強工法は耐震壁の新設が27件と最も多く,次いで耐震壁の増し打ちが20件,鉄骨ブレースの新設が14件などであった.上層階や床スラブを撤去して軽量化を計る減築が3件,大空間を覆う天井材を耐震補強した事例が2件,それぞれあった.

 改修に当たって保存の対象とするもの(例えば外観,使い方,材料等)によって,耐震補強の手法が異なることを指摘した.用途変更を行い,地元のたどった歴史の継承のためにデザインを工夫した鉄骨耐震要素を内部に設置した例(戸畑図書館),外からは見えない中庭に鉄骨外付けフレームを新設して耐震補強した例(神戸商船三井ビル),竣工当時の姿に戻して建物の内部にRC耐震壁などを増設した例(東京大学安田講堂),鉄骨耐震補強部材を室内の造作として使用するようにデザインした例(早稲田大学2号館)などがある.

 





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