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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2015年度研究成果

1.  梁曲げ破壊するスラブ付きPRC柱梁十字形部分架構の耐震性能と各種限界状態

北山和宏・晋 沂雄

 スラブおよび直交梁の取り付くプレストレスト鉄筋コンクリート(PRC)骨組の耐震性能を評価するため, PC鋼材の表面形状(丸鋼および異形),およびPC鋼材径の組み合わせによってプレストレス率を変数としたPRC十字形柱梁部分架構試験体3体に対して静的載荷実験を2014年度に実施した.ここではT形梁の上下端引張り時のプレストレス率とPC鋼材の付着性能の違いとが架構および梁部材の耐震性能に与える影響に着目した.あわせて各種限界状態についても検討した.

 実験では3体とも梁曲げ破壊を生じた.PC鋼材の付着性状が不良の場合には梁付け根の下端コンクリートが圧壊して,梁主筋の座屈を生じた.実験結果の詳細な検討から以下の知見を得た.

(1) スラブの等価協力幅は,プレストレス率とPC鋼材付着の違いに依存せずに梁部材角0.3%前に梁スパンの0.1倍に到達し,最大層せん断力に達する前に梁スパンの0.2倍に到達した.

(2) T形梁の上端と下端引張り時のプレストレス率を約0.4と0.8とした場合,各々の最大残留変形率が0.5以上と0.1以下程度となり,残留変形率に顕著な差がみられた.スラブが付いても梁上下端引張り時のプレストレス率が0.5以上で同等の場合は,上下端引張り時での損傷程度,残留変形率,残留ひび割れ幅および等価粘性減衰定数等がおおむね等しくなった.

(3) 異形PC鋼材の付着性能は丸鋼PC鋼材に比べ良好であったが,梁危険断面でのひずみ集中により最大層せん断力以前に付着劣化した。直交梁の拘束効果が梁主筋の付着性能を向上させる場合が見られた.

(4) PC鋼材付着の良好な試験体ではPC鋼材の塑性化が先に生じて残留変形率および残留ひび割れ幅が増大し,この傾向はPC鋼材の寄与度が高くプレストレス率が大きいほど顕著であった.

(5) 「プレストレストコンクリート造建築物の性能評価型設計施工指針(案)・同解説」による残留変形率,残留ひび割れ幅および等価粘性減衰定数の推定値は実験値とおおむね対応したが,評価精度を高めるべく更なる検討が必要である.

(6) PC鋼材弾性限界もしくは降伏により定まる修復限界I点は梁の骨格曲線上の剛性低下点と,コンクリート損傷による修復限界II点および安全限界点はその耐力低下点と,それぞれ概ね対応した.T形梁では上端引張り時で早期に梁下端付け根コンクリートの損傷が生じ,この進展により安全限界が決定した.


2. 三方向加力される鉄筋コンクリート隅柱梁接合部の耐震性能と立体破壊モデルに基づく曲げ終局耐力の評価

北山和宏・石塚裕彬・晋 沂雄

 本研究では接合部曲げ破壊に着目し,柱主筋量およびスラブの有無を変数とした鉄筋コンクリート造立体隅柱梁部分架構に一定圧縮軸力および2方向水平力を載荷する実験を行い(2014年度に実施),隅柱梁接合部の力学的挙動に与える影響を検討した.また,柱圧縮軸力を変数とした既往研究(北山研究室にて2014年度に実施)を比較対象とし,設計因子の違いによる影響を検討した.

 さらに水平2方向加力時の隅柱梁接合部の立体破壊モデルを構築し,それに基づき柱梁接合部の曲げ終局耐力算定法を提案した.柱主筋量の少ない部分架構は,スラブの有無にかかわらず接合部曲げ破壊が先行した.柱主筋量の多い部分架構は梁曲げ破壊と接合部曲げ破壊がほぼ同時に生じた.

 以下に本研究により得た知見をまとめる.

(1) 柱梁曲げ耐力比(節点における梁の曲げ終局耐力に対する柱の曲げ終局耐力の比)を1.5から2.6程度へ増大させるために柱主筋量を1.4倍に増やす,あるいは柱圧縮軸力を3倍にすることで,柱梁接合部の曲げ終局耐力は最大で19%あるいは35%各々増大した.これより柱梁曲げ耐力比が同等の場合,柱梁接合部の曲げ終局耐力に与える影響は柱主筋量よりも柱圧縮軸力のほうが大きいと判断した.

(2) スラブの有無を変数とした接合部曲げ破壊型の立体隅柱梁部分架構を比較すると,スラブが付くことで層せん断力の直交二方向ベクトル和は最大で7%上昇した.スラブ筋の引張り力によって当該スラブ筋に直交する梁に発生したねじれモーメントは,その梁の圧縮側危険断面に生じる摩擦を介して柱梁接合部に伝達される.そのねじれモーメントが柱の回転とは逆回りに作用し,柱梁接合部の曲げ変形を拘束することで曲げ終局耐力が増大した.

(3) 2方向水平力を受ける隅柱梁接合部の立体破壊モデルの構築を試み,それに基づいて柱梁接合部曲げ終局耐力の算定法を提案した.提案手法による耐力計算値と実験結果は10%程度の差に収まり,2方向水平力を受ける立体隅柱梁接合部の曲げ終局耐力をほぼ適切に評価できた.これより本研究で構築した柱梁接合部の立体破壊モデルは妥当であると判断した.なお,本提案は両梁の上端筋または下端筋がともに引張となる斜め45度方向加力時に限定したものである.


3. アンボンドPCaPC十字形部分架構の梁部材における曲げ終局点の定量評価法の開発

北山和宏・宋 性勳・晋 沂雄

 本研究では梁断面のPC鋼材が上下等量・対称配置されたアンボンドPCaPC十字形部分架構を対象に,その曲げ挙動特性を忠実に反映したマクロ・モデルを構築し,力学的根拠に立脚して梁曲げ終局時の耐力および変形の定量評価手法を提案した.そして,その精度を実験結果を用いて検証した.

 以下の(1)から(3)に提案したマクロ・モデルの概要を説明した.また(4)および(5)に提案したマクロ・モデルに基づく梁曲げ終局時の耐力および変形の定量評価手法の妥当性を記した.

(1) 本マクロ・モデルでは,梁圧着面で離間が生じると梁部材が剛体回転し,梁材軸方向の全長に渡り発生するコンクリート圧縮縁の縮み量が梁圧着面に集中すると仮定した.また,梁の圧縮側PC鋼材位置ではコンクリートの縮みが,梁の引張側PC鋼材位置では主に梁圧着面での離間が生じるものとした.

(2) 左右の梁の同一PC鋼材位置での軸変形量,すなわち梁圧着面での離間距離およびコンクリートの縮み量の和がPC鋼材全体の伸び量と等しいという変形の適合条件と,梁断面でのPC鋼材の引張り合力とコンクリートの圧縮合力との力の釣り合い条件,および梁圧着面での平面保持の仮定に基づき,梁曲げ終局時の耐力および変形の評価式を提案した.

(3) 以上の方法により,梁曲げ終局時の耐力および変形を計算するには,まず梁曲げ終局時における梁圧着面での中立軸深さが必要となる.本研究ではこの求解法として繰返し計算による収束計算法と,更により実用的に使用可能な略算式を提案した.

(4) 梁曲げ終局時の耐力および変形の計算結果を既往の実験結果と比較したところ,曲げ終局耐力は実験結果の±10%程度の範囲以内に納まり,曲げ終局変形は実験結果の±15%程度の範囲以内となり,両者が良好に対応することを確認した.

(5) 略算式および収束計算による中立軸深さ,梁曲げ終局時の耐力および変形の計算結果を比較したところ,中立軸深さの略算値が収束計算値より大きいため,曲げ終局耐力および終局部材角の略算値は収束計算値より若干小さくなる傾向が見られた.両計算法による評価結果の差はPC鋼材の初期導入張力比が小さくなるほど大きくなった.
 ただし,実施工時に適用される初期導入張力比が0.6以上であることを勘案すると,この範囲では両計算法による中立軸深さの差は10%程度,曲げ終局耐力および終局部材角の差は5%程度の範囲に留まった.これより本研究で提案した略算法は十分な精度で梁曲げ終局時の耐力および変形を評価できることを確認した.


4. アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート骨組の耐震性能

北山和宏・鈴木大貴・宋 性勳・晋 沂雄・金本清臣(清水建設株式会社)

 鉄筋コンクリート(RC)骨組では,柱梁曲げ耐力比がある程度小さい場合に柱梁接合部が曲げ破壊することが塩原[東京大学]によって指摘され,広く知られるようになった.これに対してPCaPCアンボンド圧着工法で組み立てられた骨組の柱梁接合部を対象として,その曲げ破壊の有無を実験によって検証した研究は行われていない.

 そこでPCaPCアンボンド圧着工法で組み立てられた内柱梁部分架構(十字形)試験体に水平力を正負交番繰り返し載荷する実験を2014年度に実施した.試験体は柱梁曲げ耐力比を1.3および2.1とした平面十字形試験体2体,平面十字形試験体にスラブのみを付加した試験体1体,およびスラブ・直交梁を付加した試験体1体(ともに柱梁曲げ耐力比は1.2)の合計4体とした.柱圧縮軸力800kN(軸力比0.15)は共通で,柱梁接合部のせん断余裕度は1.3から1.5であった.

 実験結果の詳細な分析から得られた知見を以下にまとめる.

(1) スラブおよび直交梁の付かない平面十字形架構において,柱梁曲げ耐力比がその復元力特性に与える影響はほとんど見られず,架構の最大耐力は梁付け根コンクリートの圧壊による梁曲げ破壊によって決定した.

(2) スラブのみを付加して柱梁曲げ耐力比を1.2とした場合にも十字形架構の最大耐力は梁付け根コンクリート圧壊による梁曲げ破壊で決定した.一方,最大耐力以降には接合部パネルの曲げ回転変形が増大し,接合部曲げ破壊の徴候が見られた.

(3) 直交梁およびスラブを取り付けた立体十字形架構では柱梁接合部の損傷が抑制されることが確認でき,本実験の限りでは柱梁曲げ耐力比が1.2の場合にも破壊モードは梁曲げ破壊となった.

(4) 柱梁接合部の損傷が軽微な場合でも,接合部パネルではせん断変形と曲げ回転変形とが同時に生じた.

(5) スラブの等価協力幅は,梁部材角0.3%以前に梁スパンの0.1倍を超えた.梁部材角0.6%付近では全幅のスラブ筋が降伏し,梁スパンの0.2倍と設定したスラブ全幅が架構の水平耐力に寄与した.


5. アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート骨組における梁部材の曲げ挙動

北山和宏・苗 思雨・今村俊介・晋 沂雄

 本研究の目的は,プレキャストの柱・梁部材をアンボンドPC鋼材で圧着接合したプレストレスト・コンクリート骨組(PCaPC)の性能評価型耐震設計法を構築することを最終到達点として見据えつつ,このようなPCaPC骨組の復元力特性における降伏時および最大耐力時の変形および耐力を簡便に陽なかたちで求める評価式を骨組の破壊形式ごとに提案することである.そのために必要な実験資料を蓄積するために,当研究室では十字形あるいはト形柱梁部分架構試験体に静的載荷する実験を鋭意進めてきた.

 これらの実験研究を参照しつつ今回は梁の曲げ破壊を対象として,PC鋼材係数およびスラブ・直交梁の有無を実験変数とした十字形アンボンドPCaPC部分架構に正負交番繰り返し載荷する実験を行い、その力学的挙動と梁部材の破壊状況を検討した.

 試験体は平面十字形2体と,それにスラブおよび直交梁を付加した立体十字形1体の計3体である.平面試験体のPC鋼材係数は0.09および0.17,立体試験体のそれは0.09とした.柱梁曲げ耐力比(梁曲げ終局耐力に対する柱曲げ終局耐力の比)は平面試験体で2.6および2.3,立体試験体で1.9と設定し,それぞれ約2以上となるように柱の鉄筋量を適宜調整した.これは柱梁接合部の曲げ降伏破壊を防ぐことを意図したものである.コンクリートの圧縮強度は49 N/mm2から53 N/mm2であった.

 実験では3体とも柱主筋は降伏せず,最終的に梁の曲げ破壊を生じて原点指向型の復元力特性を示した.PC鋼材係数が0.09の平面試験体ではPC鋼材が弾性限界を超えてから梁圧着接合面でコンクリートの圧壊が生じて最大耐力に到達し,その後にPC鋼材が降伏した.PC鋼材係数が0.17の平面試験体および0.09の立体試験体では接合部横補強筋が降伏し,梁付け根のかぶりコンクリートの圧壊が生じた後にPC鋼材が弾性限界に至って最大耐力に達した.

 スラブの有効幅は変形とともに拡大し,層間変形角3%時にほぼ全てのスラブ筋が降伏してスラブが全幅で梁曲げ耐力に寄与した.実験結果の詳細な検討および考察は今後実施する予定である.


6.  構造耐震指標が同程度で地震被害に差を生じた二棟の鉄筋コンクリート建物の被害分析

北山和宏・星野和也

 栃木県宇都宮市に位置するH小学校の4階建て鉄筋コンクリート校舎は,耐震2次診断による構造耐震指標Isの最小値が0.55(2階)で耐震性能が不十分と判断され,未補強の状態で東北地方太平洋沖地震(2011年)により中破の被害を受けた.その一方で,直線距離にして3.9km離れた近隣に位置するT小学校の4階建て鉄筋コンクリート校舎は,構造耐震指標Isの最小値が0.51(1階)でH小学校と同程度であるにもかかわらず,東北地方太平洋沖地震による被害は軽微にとどまった.

 そこで,構造耐震指標の最小値が同程度であったこの二棟の現地調査および耐震3次診断を行い,立体骨組を用いた地震応答解析により両建物の耐震性能および地震時挙動を把握するとともに,被害程度の差異が生じた原因を追求することを本研究の目的とする.得られた知見を以下に示す.

(1) H小学校では桁行方向の柱に損傷度IVあるいはVのせん断破壊が生じた.2階の被害が最も激しく,被災度区分は中破であった.T小学校は1階の柱および構面内の雑壁に軽微なせん断ひび割れが生じたが,構造躯体にはその他に目立った損傷はなく,被災度区分は軽微であった.両建物の桁行方向の被害程度に差が生じた.

(2) 桁行方向に対して耐震2次診断および3次診断を行った.2次診断の結果,桁行方向1〜3階のIs値はH小学校で0.55〜0.69,T小学校で0.51〜0.69となり,構造耐震判定指標 Iso=0.7 を満たさず,両建物の桁行方向のIs値は同程度であった.しかし,3次診断ではT小学校で曲げ梁支配型柱を主とする破壊機構となり,両建物の破壊形式には違いが見られた.

(3) 両建物の敷地内での推定地震動を作成するため,KiK-net芳賀観測点の地中で得られた加速度時刻歴(最大加速度173 gal)を各敷地の工学的基盤に入力し,表層地盤による増幅を考慮する等価線形解析を行った.地表の最大加速度はH小学校で759 gal,T小学校で792 galに増大した.また,推定地震動の加速度応答スペクトルはどちらも0.05〜0.15秒で卓越しており,地震動の特性は両建物で類似した.

(4) 表層地盤による増幅を考慮した推定地震動を用いて,立体骨組による地震応答解析を行った.H小学校では実状において被害が集中した2階の最大応答層間変形角が0.25%で最大となった.また,破壊機構として,損傷度IVあるいはVの破壊が生じたC-4通り1〜3階およびC-5通り1,2階の柱部材には解析においてもせん断破壊が生じており,解析結果は実被害状況と概ね一致した.
  一方,T小学校では梁部材の破壊が支配的な破壊機構を形成し,柱および壁の損傷はひび割れ発生程度にとどまった.以上の結果から,両建物で被害程度の差異が生じた主要な原因として,T小学校では梁部材の破壊が先行したため,柱および壁の被害が軽減されたことが考えられる.


7. 鉄筋コンクリート建物における耐震補強と杭の地震被害との相関についての検証 〜地盤−基礎−建物連成系による検討〜

北山和宏・新井 昂

 東北地方太平洋沖地震(2011年)では,耐震補強したにもかかわらず被災した鉄筋コンクリート(RC)建物が複数存在した.それらのなかには上部構造物が小破あるいは中破の被害を受けるとともに,基礎構造が大破した建物がやはり複数存在した.

 日本建築学会の調査によれば,耐震補強を施した建物の基礎構造が小破以上の被害を受けた棟数は,耐震補強建物群の約1/4であった.この比率は,未補強建物群の基礎構造が小破以上の被害を受けた比率の二倍以上大きかった.この原因として,上部構造の耐震補強による水平耐力の増大が,杭体や地盤へ過度な応力を作用させた可能性がある.このように上部構造の耐震補強によって基礎構造の被害は激化する傾向にあった.

 そこで本研究では,鉄骨ブレースで耐震補強されたが,東北地方太平洋沖地震によって上部構造は中破し,基礎構造は大破したRC学校建物を検討対象とした.当該建物における上部構造の地震応答性状は第2次耐震診断や多質点系モデルおよび立体骨組モデルの地震応答解析によって検討された(石木・北山).

 ここでは当該建物の上部および基礎構造の被害の相互関係を検証するため,対象建物における耐震補強前後の建物−杭−地盤から成る連成系モデルを作成し,地震応答解析を行い,地震応答性状について比較・検討を行った.

 当該建物の上部構造および杭基礎の地震時挙動を把握するために建物−杭−地盤連成系モデルによる多質点系地震応答解析を弾塑性解析プログラムSNAPによって行った.解析では上部構造および杭基礎を質点に置換したPenzien型モデルを用いて,耐震補強前後のモデルをそれぞれ作成した.

 上部構造の復元力骨格曲線にはトリリニア・モデルを用い,各階の性状に応じて原点指向型モデルあるいは武田モデルを採用した.杭の曲げモーメントに対する復元力特性は,長期軸力を考慮した杭の断面解析を行い,得られた曲げモーメント−曲率関係をトリリニアにモデル化することで与えた.地盤ばねの各種特性は「建物と地盤の動的相互作用を考慮した応答解析と耐震設計」(日本建築学会,2006年)を参考に算出した.

 地震応答解析の結果,上部構造は実被害で柱のせん断破壊が集中した3階の応答変形が最大となった.また杭基礎は杭頭部で曲げ破壊が発生し,解析は実被害を概ね再現することができた.上部構造を耐震補強することで杭頭部の曲げ変形は補強前よりも大きくなり,最大応答塑性率は耐震補強前後で1.8から11.2に著しく増大した.


8. 耐震補強途中で東北地方太平洋沖地震によって被災した鉄筋コンクリート建物の耐震性能

北山和宏・若林理紗・星野和也

 東北地方太平洋沖地震(2011)によって,耐震補強途中で中破の被害を生じた3階建て鉄筋コンクリート(RC)校舎が栃木県那須町にある.この建物は桁行方向に108 mと長い一文字形校舎であり,耐震補強の一期工事は完了したが,二期工事は未実施のまま被災した.被害はこの二期工事部分に集中し,RC柱の三本がせん断破壊(損傷度4)し,他の四本に損傷度3のせん断ひび割れが発生した.建物全体では耐震性能残存率Rは77.1%で中破と判定されたが,耐震補強を施していない二期工事部分だけで判定すると耐震性能残存率Rは59.3%で大破であった.

 本研究ではこのように地震被害が未補強部に集中した原因を追及するために,立体骨組による桁行方向の静的漸増載荷解析を実施した.剛床を仮定した解析の結果,未補強部の柱や袖壁付き柱の実被害をおおむね再現できたが,実被害が軽微であった補強部の柱の損傷が先行した.剛床モデルでは同一階の節点の水平変位は全て等しくなる.しかし建物の桁行長さが長いことと,鉄骨ブレース補強による剛性の増大によって各節点の水平変位が異なった可能性がある.

 そこで剛床を仮定せずに,床スラブの面内せん断剛性を弾性とし,梁の弾塑性軸方向変形を考慮した非剛床モデルを用いて静的漸増載荷解析を行った.その結果,未補強部の柱や袖壁付き柱のせん断破壊が早期に生じた.補強部の柱のせん断破壊も生じたが,その柱の水平変位は未補強部のそれよりも1.1 mm 程度小さくなり,実態に近づく結果を得ることができた.


9. 鉄骨ブレースで耐震補強した鉄筋コンクリート建物の地震被害と耐震性能

北山和宏・内野直樹・新井 昂

 東北地方太平洋沖地震(2011年)において,栃木県内にあるI中学校の普通教室棟(RC3階建て)は鉄骨ブレースによって耐震補強されたにもかかわらず上部構造は中破し,杭のせん断破壊あるいは折損によって基礎構造は大破した.上部構造を鉄骨ブレースで耐震補強したことによって建物に作用する水平力が増大し,その結果,杭頭部の損傷が促進されたことが本年度の当研究室での研究により明らかになった.

 一方,これに隣接する特別教室棟(RC2階建て)は1階に鉄骨ブレース三枚を設置して耐震補強したこともあり,上部構造の地震被害は軽微に留まった.特別教室棟では計130本の杭の掘削調査が行われ,そのうちの23%の杭に損傷が見られた.1本の杭では杭頭部のコンクリート剥落による断面欠損が見られ,その他の杭では数箇所にひび割れが生じた.なお基礎の傾斜や沈下は見られなかった.特別教室棟を継続利用するために,杭の補修が行われた.

 ここでは特別教室棟(2階建て)の地震応答性状を把握するため,解析プログラムSNAPを用いて立体骨組の非線形地震応答解析を実施した.I中学校から3 km 離れた芳賀観測点の地中で観測された地震動をI中学校の工学的基盤面に入力し,表層地盤による増幅を一次元重複反射理論によって考慮した水平地震動を作成し,これを当該建物の桁行方向に入力した.

 その結果,応答層間変形角の最大値は1階で0.10%,2階で0.08% となり,軽微な被害に留まった実状を再現できた.また鉄骨ブレースから1スパン離れた1階柱に損傷度3のせん断ひび割れが発生したが,解析でもこの柱はせん断破壊した.なお普通教室棟(3階建て)の同様の地震応答解析の結果では,層間変形角の最大値は1階で0.38%,2階で0.48%,3階で0.57% となり,特別教室棟(2階建て)よりも4倍程度大きかった.

 特別教室棟(2階建て)および普通教室棟(3階建て)の1階における終局限界変形時の累積強度指標Ctu値(第2次耐震診断による)はそれぞれ0.86および0.77であり,特別教室棟の保有水平耐力は普通教室棟のそれよりも12% 大きかった.特別教室棟(2階建て)の被害が軽微だった原因のひとつとして,普通教室棟よりも高い保有水平耐力を有したことが挙げられる.





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