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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2014年度研究成果

1.  梁曲げ破壊するスラブ付きPRC柱梁十字形部分架構の耐震性能と各種限界状態

北山和宏・遠藤俊貴・川嶋裕司・鈴木拓也

 本研究ではプレストレスト・コンクリート(PC)構造建物の性能評価型設計法を開発することを最終到達点として見据えつつ,PC梁曲げ部材が各種限界状態に到達するときの変形を精度良くかつ簡便に求める手法を構築することを目的とする.

 スラブおよび直交梁の取り付くプレストレスト鉄筋コンクリート(PRC)骨組の耐震性能を評価するため, PC鋼材の表面形状(丸鋼および異形),およびPC鋼材径の組み合わせによってプレストレス率を変数としたPRC十字形柱梁部分架構試験体3体に対して静的載荷実験を行った.

 実験では3体とも梁曲げ破壊を生じた.PC鋼材の付着性状が不良の場合には梁付け根の下端コンクリートが圧壊して,梁主筋の座屈を生じた.スラブ面のひび割れ状況にはPC鋼材の付着の良否による影響はほとんど見られなかった.

 スラブの付くT形梁断面の上下のPC鋼材径を変えることによって上端あるいは下端引張り時のプレストレス率を同じにしたところ,梁に生じるひび割れ状況はスラブのない矩形断面梁(既往の実験より)の場合と類似した.このことからスラブがPRC梁のひび割れ性状に与える影響は大きくないと推察された.

 実験におけるひび割れ幅,主筋およびPC鋼材の降伏,コンクリートの圧壊状況等からPRC梁部材の各種限界状態の決定要因およびそのときの変形を特定して考察を加えた.詳細についてはさらに検討を要する.


2. 三方向加力される鉄筋コンクリート柱梁接合部の破壊機構に関する実験研究 〜柱圧縮軸力による影響の検証〜

北山和宏・遠藤俊貴・片江 拡

 塩原等[東京大学]らの研究によれば,鉄筋コンクリート(RC)柱梁接合部の柱梁曲げ耐力比(節点における梁の曲げ終局耐力に対する柱の曲げ終局耐力の比)が1に近い場合,十分な接合部せん断余裕度(接合部入力せん断力に対する接合部せん断終局耐力の比)を有するにもかかわらず柱梁接合部に損傷が集中し,梁の曲げ終局耐力に達する以前に接合部破壊して期待した耐力を発揮できない場合がある.

 実際の建物は立体骨組によって構成され,地震時には水平二方向力を受ける.しかし上記の新しい破壊形式を検証するための既往の実験研究は平面の十字形および外柱梁部分架構試験体によるものが多数であり,柱に対して直交する二方向から梁が貫入する立体柱梁部分架構試験体を用いた実験研究は少ない.

 そこで2013年度には梁が直交する二方向から1本ずつ貫入する立体隅柱梁部分架構試験体2体を用いて,圧縮軸力のみを変えることによって柱梁曲げ耐力比を1.4および2.3とした場合の三方向加力実験を行い,柱梁接合部の破壊機構を詳細に検証した.なお比較用に平面の隅柱梁部分架構試験体1体にも水平一方向の静的載荷実験を行った.

 実験では圧縮軸力および二方向水平力を同時に受けて梁主筋,柱主筋および接合部横補強筋の降伏後に柱梁接合部に損傷が集中して最終的に曲げ破壊した.本年度には実験結果を詳細に検討することによって以下の成果を得た.

(1) 平面架構の履歴形状は顕著なスリップ型となったが,立体架構では平面架構ほどのスリップ性状は見られなかった.柱圧縮軸力を3倍にした立体架構では紡錘形の履歴形状となった.これは柱圧縮軸力を3倍にすることで,柱梁接合部の斜めひび割れの拡幅が抑制されたためである.

(2) 定着板によって機械式定着した梁主筋の柱梁接合部内での付着力は,最大耐力前後(柱軸力比0.04では層間変形角1.5%時,柱軸力比0.12では層間変形角3%時)に失われた.柱梁接合部が最終的に曲げ破壊したときの梁主筋引張り力は端部支圧力によって接合部コアコンクリートに伝達された.

(3) 層間変位に対して各部の変形の占める割合は平面架構では,最大耐力時の層間変形角2%時に梁が60%,柱梁接合部が30%および柱が10%であった.柱梁接合部の変形割合が三割程度存在したため梁曲げ終局耐力を発揮しなかったと考える.柱軸力比0.04の立体架構は平面架構より柱梁接合部の変形割合が大きく,柱圧縮軸力を3倍にした立体架構では最大耐力まで梁の変形割合が支配的であった.

(4) 層間変形角1%時の水平二方向の層せん断力が耐力平面上で描く軌跡は,軸力比0.04の立体架構では柱梁接合部の曲げ破壊により円弧となり,柱圧縮軸力を3倍にした立体架構では柱梁接合部の損傷が軽微だったため矩形となった.柱圧縮軸力を3倍にすることによって,水平二方向加力時の柱梁接合部の曲げ耐力(水平各方向耐力のベクトル和)は1.2倍から1.4倍程度まで増大した.

 しかし柱圧縮軸力を3倍にした柱梁接合部は最大耐力後に著しく水平耐力が低下し,軸力保持の限界直前まで脆性的に破壊した.本研究のように柱主筋量および接合部横補強筋量が国内法規等で要求される下限程度である隅柱梁接合部では,柱圧縮軸力が過大になるとその曲げ破壊によって軸力を保持できなくなることがあるので配慮が必要である.

(5) 水平二方向加力時の隅柱梁接合部の曲げ終局耐力は,楠原・塩原による柱梁接合部曲げ終局耐力の計算値を楕円補間することによって妥当に評価できた.


3. 三方向加力される鉄筋コンクリート柱梁接合部の破壊機構に関する実験研究 〜柱主筋量による影響の検証〜

北山和宏・遠藤俊貴・石塚裕彬・山桐美沙樹・片江 拡

 柱梁接合部の曲げ破壊機構の検証のため,前年度には柱圧縮軸力を変数として立体隅柱梁部分架構試験体に三方向加力する実験を行った.これは柱梁接合部の破壊性状は架構の柱梁曲げ耐力比によって大きく左右されるという塩原の研究成果に基づく.

 しかし架構の柱梁曲げ耐力比は柱軸力のみならず柱・梁の主筋量を変えることによっても変化する.そこで本年度は立体隅柱梁部分架構試験体の柱断面を300×300 mmとして前年度よりも小さくしたうえで,柱主筋量を8-D16(材種SD295A)あるいは8-D19(材種SD490)とすることによって柱梁曲げ耐力比を1.5および2.6とした場合の三方向加力実験を行った.

 あわせて柱梁接合部の曲げ破壊に対するスラブの影響を調査するために,柱主筋を8-D16(材種SD295A)とした試験体にスラブ(厚さ70 mm)を付加した試験体1体を用意した.スラブ筋はD6を210 mm間隔でシングル配筋した.梁主筋はつば付きナットによって柱梁接合部内に機械的に定着し,その定着長さは255 mm(柱せいの0.85倍)とした.コンクリート圧縮強度は75から78 N/mm2 であった.

 得られた成果の概要を以下に示す.ただしスラブ付きの試験体では加力時の不都合によって柱脚のピンが有効に機能せずに半固定となった加力領域があったため,部分架構に生じた応力の同定等の作業が必要になった.そこで本報告ではスラブの付かない2体の実験に限って成果を報告する.

(1) 柱梁曲げ耐力比を1.5とした立体隅柱梁部分架構では,層間変形角1%での加力サイクル中に梁主筋が柱面位置および柱梁接合部内の入り隅位置で降伏し,柱主筋および接合部横補強筋も降伏した.

 一方,柱主筋量を増やして柱梁曲げ耐力比を2.6とした部分架構では,梁主筋(柱面位置)と接合部横補強筋は層間変形角1%での加力サイクル中に降伏したが,柱主筋は層間変形角1.5%の加力サイクルで降伏した.両試験体とも変形の増大とともに柱梁接合部が破壊した.

(2) 柱梁曲げ耐力比を1.5とした立体隅柱梁部分架構では,層間変形角1%の二方向加力時に変位保持方向の耐力が低下し,このときの二方向水平耐力のベクトル和は楠原・塩原による柱梁接合部曲げ終局耐力を楕円補間した曲げ終局曲線上に位置した.これよりこの隅柱梁部分架構では柱梁接合部の曲げ破壊が先行したと判断した.

(3) 柱梁曲げ耐力比を2.6とした立体隅柱梁部分架構では,二方向水平耐力のベクトル和は柱梁曲げ耐力比を1.5とした部分架構よりも5%から20%大きかった.柱の主筋量を増やして柱梁曲げ耐力比を1.5から2.6にすることで,柱梁接合部の曲げ終局耐力が増大したと考える.

 この部分架構の最大耐力の決定要因についてはさらに検討を要するが,層間変形角1.5%の二方向加力時の最大耐力が計算による梁曲げ終局耐力にほぼ達したことと損傷状況より,梁曲げ降伏が先行し,その後の層間変形角1.5%の二方向加力時に柱梁接合部が曲げ破壊したと考える.

(4) 2013年度に実施した立体隅柱梁部分架構の実験結果を併せて参照すると,水平二方向加力下の柱梁接合部の曲げ終局耐力は柱圧縮軸力を増大させたときの耐力増分のほうが,柱主筋量を増大させたときのそれよりも15%程度大きかった.すなわち柱梁接合部の曲げ終局耐力に与える影響は柱圧縮軸力のほうが柱主筋量よりも大きいと言える.


4. 鉄筋コンクリート十字形柱梁接合部の破壊機構に関する有限要素解析

北山和宏・楊 森

 鉄筋コンクリート(RC)内柱梁接合部パネルの新しい破壊形式が塩原(東京大学)によって提唱されたことを受け,2011年に本学においてRC平面十字形柱梁部分架構試験体5体に静的交番繰り返し載荷する実験を行った.実験では全試験体とも梁主筋,接合部横補強筋および柱主筋が降伏したあとに柱梁接合部パネルが曲げ破壊した.

 2014年度には,このときの試験体1体に対して三次元非線形有限要素解析を実施して, 解析と実験とを比較することによって十字形柱梁接合部の破壊機構に関する詳細な検討を行った.

 解析は単調載荷とした.主筋とコンクリートとの間の付着すべり特性は長沼らの曲線モデルを用いてモデル化した.柱・梁部材および柱梁接合部内の付着すべり特性は実験結果に基づいてそれぞれ設定した.

 解析による初期剛性は実験結果と良好な対応を示した.解析では層間変形角0.8%で梁危険断面位置で梁主筋降伏が発生し,実験結果とほぼ一致したが,最大耐力は123kNで実験値108kNより13%大きかった.解析では最終的に梁曲げ破壊となり,実験結果を再現できなかった.単調載荷解析では柱梁接合部の入隅部ひび割れと主対角の斜めひび割れとの貫通が生じない.そのため梁危険断面に損傷が集中して最大耐力が実験より大きくなり,破壊機構が異なる結果となった.


5. アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート構造スラブ付き柱梁骨組の曲げ挙動に関する研究

北山和宏・晋 沂雄・宋 性勳・黒川涼太・金本清臣(清水建設株式会社)

 持続可能な社会基盤を構築するためには,建物の長寿命化を計ることが有効な解決策となり得る.また地球環境の保全や少子高齢化の面から,建築業界における合理的な施工方法や既存建物の改修方法が求められる.

 プレキャストのRC柱および梁にアンボンドPC鋼材を貫通させ,緊張力を導入することで両者を一体化するプレキャスト・プレストレスト・コンクリート(以下PCaPCと略記)圧着工法は,地震被害を受けて劣化した部材を比較的簡易に交換できる点やグラウト充填作業が不必要な点,さらには部材の損傷を部材端部に集中させる損傷制御が可能な構法であることを勘案すると,上記の問題を解決するために有望な工法であると考えられる.

 そこで本研究ではPCaPCアンボンド圧着工法で組み立てられた柱梁骨組の耐震性能を詳細に調べるために,十字形の柱梁部分架構にスラブおよび直交梁を付加した立体試験体2体に正負交番繰り返し載荷する実験を行った.実験変数はRC柱周りのスラブ筋の貫通の有無であり,スラブ筋を一部で切断することによってスラブ損傷の軽減の可能性を検証した.十字形柱梁部分架構試験体の柱梁曲げ耐力比は1.67および1.83であった.柱および梁のコンクリート圧縮強度は70 N/mm2程度であった.

 この研究によって得られた知見を以下に示す.
(1) 実験では二体ともPC鋼材のひずみが弾性限界を超え,その応力度がほぼ降伏強度に達した.二体ともに柱主筋および梁主筋は降伏しなかった.また,圧着接合面近傍のコンクリート圧壊後に耐力が低下したことから両試験体の破壊モードは梁曲げ圧壊と判断した.

(2) RC柱周りのスラブ筋を非貫通とした場合,スラブの損傷が若干軽減されたが,スラブ筋が貫通している場合と較べて顕著な差は見られなかった.

(3)  実験による最大層せん断力は梁終局曲げモーメント計算値の0.98〜1.10倍の範囲にあった.RC柱周りのスラブ筋を切断した試験体では,スラブ筋の定着長が柱面から直交梁に向かって8.3d(d:スラブ筋の直径)あったために非貫通のスラブ筋も引張り力を負担した.このためスラブ筋非貫通の場合と同等の耐力を発揮した.両試験体ともに原点指向型の履歴形状を示した.

(4) RC柱周りのスラブ筋貫通の有無にかかわらず,PC梁の曲げ耐力に対するスラブの協力幅は梁部材角0.3%から0.6%で現行RC規準の協力幅(スパン長の0.1倍)に達し,梁部材角1%から1.5%でスパン長の0.2倍を超えた.


6.  アンボンドPC鋼材で圧着接合したプレキャスト・プレストレスト・コンクリート骨組の柱梁接合部破壊に関する研究

北山和宏・晋 沂雄・宋 性勳・鈴木大貴・金本清臣(清水建設株式会社)

 鉄筋コンクリート(RC)骨組では,柱梁曲げ耐力比がある程度小さい場合に柱梁接合部が曲げ破壊することが塩原によって指摘され,広く知られるようになった.これに対して上述のPCaPCアンボンド圧着工法で組み立てられた骨組の柱梁接合部を対象として,その曲げ破壊の有無を実験によって検証した研究は行われていない.

 そこで本研究ではPCaPCアンボンド圧着工法で組み立てられた骨組内の柱梁接合部の破壊性状を検討するために,外柱梁部分架構(ト形)試験体2体および内柱梁部分架構(十字形)試験体4体に水平力を正負交番繰り返し載荷する実験を行った.

 外柱梁部分架構(ト形)試験体では柱主筋量を6-D13(材種SD295A,全主筋比0.62%)から8-D16(材種SD390,全主筋比1.30%)に変化させることによって柱梁曲げ耐力比を1.31から1.90に変化させた.柱軸力400kN(軸力比0.08)および柱梁接合部のせん断余裕度1.47は共通とした.

 内柱梁部分架構(十字形)試験体は柱梁曲げ耐力比を1.32および2.11とした平面十字形試験体2体と,平面十字形試験体にスラブのみを付加した試験体1体とスラブおよび直交梁を付加した試験体1体(ともに柱梁曲げ耐力比は1.19)の合計4体とした.柱軸力800kN(軸力比0.15)は共通で,柱梁接合部のせん断余裕度は1.3から1.5であった.

 コンクリートの圧縮強度は柱(柱梁接合部を含む)において41.8 N/mm2から45.0 N/mm2,梁において77.5 N/mm2から82.3 N/mm2,スラブでは81.9 N/mm2から83.4 N/mm2であった.

 以上の計6体の実験研究によって得られた結論を以下に示す.
(1) 平面十字形およびト形柱梁部分架構において,本実験の限りでは柱梁曲げ耐力比が層せん断力−層間変形角関係に与える影響はほとんど見られなかった.部分架構の最大耐力は梁曲げ終局時の層せん断力計算値とおおむね対応し,破壊モードは梁曲げ破壊となった.

(2) 直交梁およびスラブを取り付けた立体柱梁部分架構では柱梁接合部の損傷が抑制されることが確認できた.柱梁曲げ耐力比が1.2の場合にも破壊モードは梁曲げ破壊となった.

(3) 直交梁無しでスラブのみを取り付けた立体柱梁部分架構においては梁曲げ破壊が先行した後に柱梁接合部パネルの損傷や変形が急増し,さらにその履歴性状が原点指向型から紡錘形に移行した.柱梁接合部のせん断破壊および曲げ破壊が同時に発生した可能性が高いことから,接合部の破壊機構についてさらに検討が必要である.


7. 東北地方太平洋沖地震による鉄筋コンクリート校舎の地震被害と地震時挙動に関する研究

北山和宏・遠藤俊貴・松田卓也・星野和也

 2011年東北地方太平洋沖地震により中破した鉄筋コンクリート(RC)4階建て校舎を対象として,耐震診断および多質点系の非線形地震応答解析を2013年度に実施した.この建物の構造耐震指標Is値は1階から3階まで0.7未満であった.一方,近隣にあるKC小学校のRC4階建て校舎は構造耐震指標Is値が0.7未満であったにもかかわらず,同地震による被害は軽微であった.

 本研究ではこの両者の被害の差異の原因を追究することを目的とする。2014年度にはKC小学校のRC4階建て校舎を検討対象として,耐震二次診断および多質点系の地震応答解析を実施して当該建物の地震時挙動を把握することを目標とした.

 対象建物は栃木県宇都宮市の東端に位置し1978年に竣工した塔屋付き4階建てRC構造で,長さ22mのPC杭によって支持される.桁行方向の主要スパンは8.7mである.主要な柱断面寸法は600×700mmおよび600×600mmで主筋はD22およびD25,帯筋9φの間隔は100mmでせん断補強筋比は0.23%から0.51%であった.

 後述のように1階から3階までの桁行方向の構造耐震指標Is値は構造耐震判定指標Iso=0.70を満たさなかったが,耐震補強は未実施であった.

 地震による被害は北面の短柱に軽微なせん断ひび割れが生じ,構面内の雑壁に損傷度Uのせん断ひび割れが生じた程度であり,当該建物の被災度区分は軽微であった.そのほかに4階廊下部分の天井材の脱落および東側の教室棟を繋ぐExp.J部分の破損が生じた.建物の外周部には地盤の変状が観察された.

 耐震二次診断を汎用ソフトウエア「RC診断2001 Vr2」を用いて実施した.コア抜きによるコンクリート圧縮強度は27.7〜36.5 N/mm2と良好であり,耐震診断では26 N/mm2を用いた.形状指標SDは0.79から0.88であり,建物所有者による調査結果に基づき経年指標Tは1.0と判断した.

 耐震二次診断の結果,桁行方向の構造耐震指標Is値は1階で0.51,2階で0.66,3階で0.69および4階で0.97であり,1階から3階までIso=0.70を満たさなかった.1階ではせん断柱と曲げ柱が同程度混在しており,靭性指標F値が1.0のときにIs値が決定された.上階に行くほどせん断柱の数が少なくなり,3階および4階では靭性指標F値が2以上の靭性能に富む曲げ柱が多く存在した.

 累積強度指標CTと形状指標SDとの積(CTSD値)は1階から3階まで0.45を上回り,比較的高い水平耐力を保有すると判断される.張間方向は耐震壁量が十分であったためIs値は0.90から2.13と大きかった.

 桁行方向1階から3階までのIs値は0.7を下回ったがいずれも0.5以上あり,CTSD値は0.45以上あったことから,当該建物の耐震性能が劣っているとは言えない.上部構造の地震被害が軽微にとどまった原因はこれに加えて,周辺地盤に変状が見られたことから地震時に基礎構造に被害が生じ,上部構造に伝わる地震力が低減された可能性も考えられる.

 本建物に近い地震動観測点(芳賀および益子の二地点)の地表における東西方向の地震動を入力して非線形地震応答解析を行った.建物は各層を1質点とした4質点系せん断ばねモデルに置換した.粘性減衰は3%とし,瞬間剛性比例型とした.ばねの復元力骨格曲線は耐震診断による各階の水平耐力(累積強度指標CTの最大値)を用いて三折れ線とし,最大耐力到達後はその耐力をほぼ維持するモデルとした.

 復元力履歴ルールは1階および2階を原点指向モデルとし,3階および4階の復元力履歴ルールは武田モデルとした.降伏変位は1階から3階は靭性指標F=1.0に対応する部材角(1/250)に設定し,4階は靭性指標F=1.27に対応する部材角(1/150)に設定した.系の一次固有周期は0.29秒であった.

 地震応答解析により得られた各層の最大応答層間変形は両地震動において4階が最も大きく,降伏変形を大きく上回った.これは4階の初期剛性が他の層と比較して小さく評価されたためと考えられ,実情とも乖離した結果であるため,今後さらに検討が必要である.


8. 鉄筋コンクリート骨組解析における柱部材のモデル化に関する研究

北山和宏・星野和也

 本研究はMulti-Spring(MS)モデルを用いた鉄筋コンクリート(RC)柱の解析モデルにおける各種変数の設定法の確立を目指すための基礎となるものである.

 実務の設計業務においてRC柱をMSモデルによってモデル化する場合には,所与の断面から複数の鉄筋ばねとコンクリートばねとを設定する.しかしながらそのようにモデル化されたRC柱の挙動が実験によって得られるそれを忠実に再現することの確認は通常は為されないままに骨組解析が実施され,建物の保有水平耐力等の検討が行われる.とくにMSモデルによって柱部材降伏時の変形性能が適切に再現されることが重要であるが,その点に関して顧みられることはほとんどないままに構造設計の実務が進むことに大きな問題がある.

 そこで本研究では,MSモデルを用いてモデル化したRC柱の曲げ降伏変形を妥当に評価することを目的として,モデル化の際に必要となる仮想の塑性域長さPzの適切な数値を検討した.ここではRC柱の載荷実験を行う代わりに,菅野の剛性低下率αyを用いた略算法によって得られた降伏変形を実情に即したものと判断して,これとMSモデルを用いた解析結果との比較を行った.

 また,せん断スパン比が2未満の柱部材を対象として菅野によって提案された剛性低下率αyの導出根拠として利用された実験結果を用いて,MSモデルを用いた解析と実験とによる曲げ降伏変形の比較を行った.

 これらの検討から以下の知見を得た.
(1) シアスパン比が2以上の柱部材では,仮想の塑性域長さPz =DD:断面せい),かつ Pzは柱内法高さの1/6以下とすることで,解析と菅野の剛性低下率を用いた略算とによる曲げ降伏時部材角は良好に対応した.しかし,シアスパン比が2未満の柱部材では解析は略算を過小評価し,対応しなかった.

(2) シアスパン比が2未満の場合に,せん断剛性の低下を考慮した解析を行い,解析と実験とによる曲げ降伏時部材角の比較を行った.その結果,せん断剛性の低下を考慮しても,解析値と実験値は対応せず,解析が実験を過小評価した.

 この原因として,落合らによって提案されたせん断最大耐力時変形の評価式がせん断破壊する梁部材の実験結果を用いて得られた経験式であるため,軸力による影響を考慮できないこと,および,MSモデルを構成するコンクリートばねと鉄筋ばねの復元力特性の設定に経験的な変数を用いることで主筋の付着すべり等により生じる付加変形を考慮したが,それが適切でない可能性を指摘した.

 今後はシアスパン比が2未満の短柱を対象として,MSモデルを用いる際に部材中央での主筋の付着すべりなどによる付加変形を妥当に評価する手法を検討する必要がある.


9. 鉄筋コンクリート建物における耐震補強と杭の地震被害との相関についての検証 〜地盤−基礎−建物連成系による検討〜

北山和宏・新井 昂

 東北地方太平洋沖地震(2011年)では,耐震補強したにもかかわらず被災した鉄筋コンクリート(RC)建物が複数存在した.それらのなかには上部構造物が小破あるいは中破の被害を受けるとともに,基礎構造が大破した建物がやはり複数存在した.

 日本建築学会の調査によれば,耐震補強を施した建物の基礎構造が小破以上の被害を受けた棟数は,耐震補強建物群の約1/4であった.この比率は,未補強建物群の基礎構造が小破以上の被害を受けた比率の二倍以上大きかった.この原因として,上部構造の耐震補強による水平耐力の増大が,杭体や地盤へ過度な応力を作用させた可能性がある.このように上部構造の耐震補強によって基礎構造の被害は激化する傾向にあった.

 そこで本研究では,RC建物における耐震補強と杭基礎の地震被害との相関を検証することを目的として,地盤−基礎−建物連成系による解析的な検討を行うこととした.

 本年度はそのための基礎的な準備として,同種の既往の研究を渉猟してモデル化手法等について調査した.また具体的に解析を行うための建物として,耐震補強したにもかかわらず上部構造物が中破するとともに杭基礎が大破して取り壊された市貝中学校校舎を選定し,周辺地盤や杭基礎についての調査を実施した.




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