トップページ > 研究について > 2012年度研究成果

北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2012年度研究成果

1.  梁曲げ破壊するスラブ付きPRC柱梁十字形部分架構の耐震性能評価

北山和宏・遠藤俊貴・島 哲也・野中翔太・森口佑紀(芝浦工大・岸田研究室)

 本研究ではプレストレスト・コンクリート(PC)構造建物の性能評価型設計法を開発することを最終到達点として見据えつつ,PC梁曲げ部材が各種限界状態に到達するときの変形を精度良くかつ簡便に求める手法を構築することを目的とする。

 実際の建物にはスラブが取り付くため,そのような状態で静的載荷実験を行って,梁部材の復元力特性,各種限界状態に至るまでの損傷過程などを詳細に調査した。とくにスラブ上面のひび割れ幅を測定した例はほとんどないので,デジタル・マイクロスコープを用いて詳細なひび割れ測定を実施した。試験体は梁曲げ破壊が先行するように設計し,平面十字形部分架構に直交梁およびスラブを付加した2体と,比較用の平面十字形部分架構1体である。実験変数はスラブ・直交梁の有無およびPC鋼材径である。

 実験研究によって得られた主要な結論を以下に示す。

(1) 全試験体とも梁主筋の降伏後にPC鋼材の降伏と同時あるいはそのあとに最大耐力に到達し,その後は梁主筋の座屈および破断によって耐力が急激に低下して,梁付け根コンクリートが激しく圧壊した。

(2) 復元力履歴特性のループの太り具合を表す指標である等価粘性減衰定数heqを,上端引張り時および下端引張り時の各半サイクルのループについて求めた。半サイクルの等価粘性減衰定数heqは,鋼材(梁主筋,スラブ筋およびPC鋼材)の引張り力の和が上端引張り時および下端引張り時とで大きく異なる場合には,下端引張り時のheqのほうが上端引張り時のそれよりも大幅に大きくなった。一方,上端および下端引張り時の鋼材引張り力の和の差分が小さい場合には,等価粘性減衰定数heqの違いは小さくほぼ同じ数値であった。




2.  鋼管によって補強した場所打ち鉄筋コンクリート杭の曲げ性能に関する研究

北山和宏・片江 拡・田島祐之(アシス)・岸田慎司(芝浦工大)・石川一真(ジャパンパイル)

 杭頭部を鋼管によって曲げ補強した鉄筋コンクリート(RC)杭の曲げ性能を静的載荷実験によって検証した。実物の約1/5に縮小した杭径500 mmの試験体を4体作製し,片持ち柱形式で載荷した。実験変数は杭に作用する圧縮軸力,コンクリートの圧縮強度およびせん断補強筋の有無である。この実験によって鋼管補強部の曲げ耐力算定における一般化累加強度式の適用性、および鋼管内のRC部のせん断補強筋の効果について検証した。本実験によって得られた結論を以下に示す。

(1) 鋼管を用いた場所打ち鋼管コンクリート杭の鋼管補強部の曲げ耐力は一般化累加強度式により概ね妥当に評価できた。ただし,圧縮軸力が1500kNのときの実験値は一般化累加強度式による計算値よりも8%小さかった。これはコンクリートの曲げモーメント負担分が計算値に達しなかったためである。その原因として,コンクリートの中立軸位置が計算よりも圧縮縁側にあった可能性、および高強度コンクリートの計算における圧縮応力分布を矩形としたことを指摘した。

(2) 鋼管の円周方向ひずみは軸方向に引張られる領域ではポアソン比に従って圧縮を呈した。横補強筋による鋼管の円周方向ひずみの抑制効果は見られなかった。

(3) 一本の横補強筋の各位値でのひずみは均一ではなく,断面の引張領域ではひずみはほとんど発生しなかったが,圧縮領域では引張りひずみを生じ,大変形時には降伏した。これより圧縮領域のコンクリートの膨張に対しては横補強筋が部分的に拘束効果を発揮したと考えられる。


3. 梁曲げ崩壊型鉄筋コンクリート骨組における梁部材の主筋降伏以降の変形性能評価

北山和宏・鈴木清久・遠藤俊貴

 実際の鉄筋コンクリート骨組内の梁主筋は柱梁接合部および梁部材を通して数スパンに渡って配筋され,柱梁接合部内の梁主筋と部材内梁主筋は同時に付着劣化し骨組の耐震性能に影響を与える。本研究では2010年度に実施した十字形RC柱梁部分架構の水平加力実験の結果より,梁主筋降伏以降の梁部材の変形性能を検討するため,梁変形を(A)ヒンジ域のせん断変形,(B)主筋の滑り出し変形,(C)塑性回転変形,および(D)非ヒンジ域の弾性曲げ変形の4つの変形成分に分解し,その推移を検討した。

 全試験体で(C)塑性回転変形が38〜73%と最も多くの変形を占めた。(B)主筋の滑り出し変形は柱梁接合部内での梁主筋付着指標が小さい試験体では0〜5%,大きい試験体では4〜18%と大きく変化した。せん断スパン比が大きい試験体では(D)非ヒンジ域の弾性曲げ変形が全変形の26〜58%と多くを占めた。

 さらに,安全限界状態を規定するひとつの指標であるかぶりコンクリートの圧壊を対象として,その時の変形を上記の4つの変形成分の和として推定する手法を提案した。具体的には柱梁接合部および梁部材内を通し配筋される梁主筋のひずみ分布を定量評価する手法,および柱梁接合部中央における梁主筋のすべり量の推定法を提示した。この提案手法による推定値は実験値を平均17%過小評価したが,日本建築学会『鉄筋コンクリート造建物の耐震性能評価指針(案)・同解説』による評価結果を改善することができた。ここでは三体の試験体のみを用いて精度の検証を行ったが,さらに多くの実験結果を用いて本手法の精度の検討を行う必要がある。


4. 鉄筋コンクリート有孔梁のせん断抵抗機構に関する解析研究

北山和宏・落合 等

 鉄筋コンクリート(RC)梁に孔を設けると断面積の減少や孔周囲への応力集中を引き起こし,耐震性能,特にせん断終局強度への影響が大きいため,孔周囲の補強が必要となる。孔周囲の補強方法として,一般的な肋筋とともに閉鎖型金物を配置することが多い。しかしその場合のせん断破壊時のメカニズムや応力伝達機構については不明な点が多い。そこで閉鎖型金物を有するRC有孔梁の二次元非線形有限要素法解析を行い,そのせん断抵抗機構および補強効果を検討した。

 解析には閉鎖型金物によって補強を施された有孔梁試験体(篠原ら[2010])を用いた。解析モデルの妥当性を実験結果と比較することにより検証し、開口部補強量や補強金物サイズを変数とした解析を実施した。閉鎖型金物のせん断補強効果は,肋筋補強量が小さいほど,閉鎖型金物の材軸となす角度が大きいほど,金物サイズが大きいほど,それぞれ大きいことを示した。肋筋を補強限界まで配筋した場合も閉鎖型金物による補強効果は見込めるが,その程度は小さい。閉鎖型金物は孔際に発生する対角ひび割れの開口を抑制し,コンクリートの引張り軟化を防ぐことによって損傷の低減を図ることができる。


5. 鉄骨ブレースで耐震補強した鉄筋コンクリート校舎の地震被害と地震時挙動に関する研究

北山和宏・石木 健士朗・遠藤俊貴・山村一繁

 連層鉄骨ブレースで耐震補強されたにもかかわらず2011年東北地方太平洋沖地震により中破した塔屋付き3階建て鉄筋コンクリート(RC)校舎を対象として,2011年度に現地調査と耐震診断を実施した。本研究では当該建物の地震時の応答性状および耐震補強効果を検討するため,多質点系モデルおよび立体骨組モデルを用いて静的漸増載荷解析および地震応答解析を実施した。

 地震応答解析においては表層地盤による地震動の増幅を考慮するため,KiK-net芳賀観測点の地中(深度112m)で得られた東西方向の加速度時刻歴を当該敷地の工学的基盤に入力して等価線形解析を行い,表層での地震動を推定した。芳賀観測点の最大地中加速度は東西方向173 gal,南北方向177 galであったが,表層地盤の増幅効果により当該敷地表面での最大加速度は東西方向558 gal,南北方向511 galに増大した。

 建物を3質点系せん断型モデルに置換した解析では,多質点系解析プログラムERAを用いた。耐震診断における曲げ部材およびせん断部材をそれぞれの靭性指標F値に応じてグルーピングすることによって,最大三個のせん断ばねを設定した。耐震補強の有無を変数とした解析によって以下の知見を得た。

 耐震補強した第1層の変形は補強前と比べて約0.7倍に小さくなった。相対的に剛性が小さくなった第3層の補強後における変形は補強前の1.5〜2.0倍に増大した。補強後の第3層の最大層間変形角は0.3〜0.4%であり,実被害状況で3階C通りの柱4本がせん断破壊したことに整合した。補強後の各層の応答層間変形がほぼ同じであったため,1,2階の水平剛性が耐震補強設計の想定以上に増大したことを示すまでには至らなかったが,実被害状況は概ね再現できた。

 次に立体骨組モデルに水平二方向の表層地震動を同時入力する地震応答解析を,弾塑性解析プログラムSNAPを用いて行った。鉄骨ブレースの斜材は軸ばねを有する両端ピンの線材とし,斜材の部材端は実際の座屈長さ・角度となるように節点からオフセットさせた。鉄骨ブレースの四周の枠材は簡単のため無視した。鉄骨ブレース架構の上下は剛梁とした。

 この解析の結果,実被害状況を概ねよく再現できた。全ての鉄骨ブレース架構で浮き上がりが発生した。張間方向の耐震壁や直交梁は曲げ降伏あるいはせん断破壊したものもあったが,多くはひび割れ発生程度に留まった。耐震補強した桁行方向1階および2階の変形は補強前と比べて約0.8〜0.9倍小さくなった。一方,相対的に剛性が小さくなった桁行方向3階の最大層間変形角は補強前後で0.34%から0.57%へと1.7倍増大した。

 最後に対象建物の実被害を抑止するために有効な耐震補強法を考察した。3階に鉄骨ブレースを2枚増設し,被害が大きかったC-8〜C-14通りの柱に取り付く腰壁・垂れ壁には全階で耐震スリットを設置して地震応答解析を行った。3階の鉄骨ブレースを3連層となるように配置した場合よりも、2階の鉄骨ブレースと千鳥になるように配置したときのほうが全階で最大層間変形角は小さくなった。連層配置では浮き上がり回転が卓越し,ほぼ全ての鉄骨ブレースが弾性域に留まったのに対し,千鳥配置では浮き上がりが抑制され,全ての鉄骨ブレースが座屈あるいは引張降伏した。耐震スリットの設置によりせん断破壊する柱の本数は減少した。


6.  耐震補強済み鉄筋コンクリート建物の東北地方太平洋沖地震による被害状況に関する調査

北山和宏・山上暁生

 日本建築学会等による調査によって,耐震補強したにもかかわらず東北地方太平洋沖地震によって被災した鉄筋コンクリート建物が複数存在した。そこで震度が6弱以上で,福島第一原発の爆発事故による影響が比較的少ないと思われる,東北地方と関東地方の63自治体に対してアンケート調査を実施した。アンケートでは耐震補強済みRC建物の被害の有無,被害が有る場合には補強概要および被害の概要を,メールまたはファックスで質問した。

 アンケートに返答がなかった自治体数が38、被害がないと回答した自治体数が15、被害があると回答した自治体数が4,返答はあったものの情報提供まで至らなかった自治体数が6であった。なお既往の調査・研究によって,耐震補強したRC建物が地震被害を受けたと判明した自治体数は7であった(アンケート調査との自治体の重複はない)。

 このアンケート調査において,耐震補強したにもかかわらず被害を生じたRC建物は15棟(公共建物3棟,学校建物12棟)であった。このうち構造体への被害は3棟のみであり,非構造部材の被害が多かった。またエキスパンション・ジョイントの損傷が多く見られた。


7. 新設開口補強をともなう既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート構造耐震壁の耐震性能

北山和宏・栗本健多

 既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート(WPC)構造建物の耐震壁に開口を設けた場合を想定し,8体の直交壁およびスラブ付き立体試験体(実建物の1/2スケール)に静的載荷する実験を2009年度に実施した。本年度はこのうち,開口周囲を溝型鋼で補強したが上下階とは緊結することなく当該階内で補強が完結する場合[試験体B5S]について,無開口のもの,すなわち無垢の壁板[試験体W5]および開口を設けたが補強を施さなかったもの[試験体N5S]と比較しながらその補強効果を検討した。

 実験による最大耐力は開口の有無,および開口周囲の補強の有無にかかわらず同程度であった。ただし開口周囲を補強したときの履歴形状は無補強の場合よりも太っており,エネルギー吸収性能の向上が見られた。

 開口周囲を鉄骨で補強したときの壁板の変形モードは無開口の壁板のものと同様であった。これは,開口左右の壁板を繋げるように開口上部に増設した鉄骨梁により,開口左右の壁板の一体性が高まったためである。このとき引張り側壁板の全体が大きく浮き上がって2階床スラブと離間したため,圧縮側壁板が床スラブに接地するセッティング・ベース近傍に圧縮力が集中し,この部分のコンクリートの圧壊が生じた。このコンクリート圧壊によってエネルギー吸収性能が向上したと考えられる。

 最大耐力の80%に耐力が低下したときの層間変形角を安全限界とすると,開口周囲を鉄骨で補強したときの安全限界変形角は1.2%であった。これは2階床スラブのセッティング・ベース隅肉溶接の破断による。このときの変形性能は開口を設けたが補強を施さなかった場合の半分に低下した。これは無垢の壁板と同様に引張側壁板の2階床スラブのセッティング・ベース位置に浮き上がりが集中したためである。

 開口周囲を鉄骨で補強する際,開口上部の鉄骨梁は曲げ戻しの効果による最大耐力の上昇を期待して設置した。しかし鉄骨梁に生じたひずみは極めて小さく曲げ戻しの効果を得られなかったため,水平耐力の増大は生じなかった。


8. 耐震補強途中で東北地方太平洋沖地震によって被災した鉄筋コンクリート校舎の耐震性能

北山和宏・岡崎里砂

 東北地方太平洋沖地震(2011)によって,耐震補強途中で中破の被害を生じた3階建て鉄筋コンクリート(RC)校舎が栃木県那須町にある。この建物は桁行方向に108 mと長い一文字形校舎であり,耐震補強の一期工事は完了したが,二期工事は未実施のまま被災した。被害はこの二期工事部分に集中し,RC柱の3本がせん断破壊(損傷度4)し,他の4本に損傷度3のせん断ひび割れが発生した。建物全体では耐震性能残存率Rは77.1%で中破と判定されたが,耐震補強を施していない二期工事部分だけで判定すると大破に近かった。

 また三連層鉄骨ブレースの短スパン直交梁にせん断ひび割れが発生し,鉄骨ブレースと鉄骨ブレースとに挟まれた境界梁端部には曲げひび割れが生じた。1階および3階の鉄骨ブレース脇のRC柱には輪切り状のひび割れが数本見られた。これらはいずれも三連層鉄骨ブレースを含むRC部分架構の浮き上がり回転あるいは全体曲げ挙動の兆候を示すものである。この建物の耐震診断は既に行われているので,その資料を詳細に検討した。さらに三連層鉄骨ブレースの地震時の挙動について検討し,ブレース斜材の引張り降伏・座屈時の耐力と全体曲げ耐力とがほぼ同等であることを確認した。




研究テーマ
研究成果


Copyright (C) 2013 KITAYAMA-LAB. All Rights Reserved.