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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2010年度研究成果

1.  PRC十字形部分骨組内の梁部材の耐震性能評価に関する研究

北山和宏・村上友梨

 建築物の耐震設計では,個々の部材および建物全体の地震時挙動の制御を可能とする性能評価型設計法への移行が進みつつある。性能評価型設計法を確立するためには,部材の復元力特性やそれに付随した損傷状況を把握する必要があるが,プレストレスト・コンクリート(PC)部材においては,断面の鉄筋とPC鋼材の配筋量,およびそれらの付着性状によって耐震性能が大きく変化し,その組み合わせが多岐にわたるため,性能評価型設計法を確立するための十分な資料は得られていない。

 そこで本研究では,PC鋼材周囲の付着性状が梁部材の耐震性能に与える影響を調査することを主要な目的として,梁曲げ破壊型のPRC十字形柱梁部分骨組試験体4体に対して静的載荷実験を行う。その結果から復元力特性,梁主筋の付着性状,塑性ヒンジ領域長さ,残留変形,ひび割れ幅,梁部材の各種限界状態,等価粘性減衰定数などについて検討する。

 梁部材のPC鋼材として異形PC鋼棒(D22),丸鋼(φ21)および19本より線(φ17.8)を断面の上下に各々1本ずつ配筋し,主筋として上下とも2-D13を配するのを標準とした。ただし,PC鋼材および普通主筋に沿った付着性状の組み合わせの影響を検討するため,普通主筋として丸鋼(2-φ13)を配筋した試験体も計画した。コンクリート圧縮強度は60MPa程度を想定し,粗骨材径は13mmとする。2010年度には試験体4体を作製し,本年度末から載荷実験を始める予定である。


2.  鉄筋コンクリート骨組内の梁部材に対する耐震性能評価手法の高度化研究

北山和宏・王 磊・見波 進

 「鉄筋コンクリート造建物の耐震性能評価指針(案)・同解説」(日本建築学会、2004年)には,鉄筋コンクリート造(RC)骨組内の梁部材の耐震性能を評価する実用的手法が提案されており,当研究室での既往の研究によって,主筋降伏までの変形性能(使用限界に相当)は比較的精度よく評価可能であることが明らかになっている。しかしそれ以降の修復限界や安全限界に対応する変形性能の評価手法の妥当性についてはほとんど検証されていない。

 そこで本研究では,梁降伏が先行する十字形柱梁部分骨組内の梁部材の耐震性能を静的載荷実験によって詳細に調査した。特に,柱梁接合部パネルからの梁主筋の抜け出しによる変形および梁部材内の梁主筋の付着劣化に起因する変形に注目して,これらを実験によって詳細に測定することによって,梁部材の修復限界時および安全限界時の変形性能を検討した。

 試験体は3体作製し,実験変数は梁主筋径(上下等量でそれぞれ3-D22あるいは5-D13)および梁せい(400mmあるいは250mm)である。柱梁曲げ強度比は2.7から4.9であり,梁に対して柱の曲げ終局強度を十分に大きくした。また,柱梁接合部のせん断余裕度を1.4から2.8に設計して,柱梁接合部パネルの破壊が生じないように配慮した。コンクリート圧縮強度は31〜33MPaであった。

 実験では、全試験体とも梁降伏が先行したが、柱梁曲げ強度比が2.7の試験体では最終的に柱梁接合部パネルがせん断破壊した。他の二体では、梁付け根コンクリートが圧壊して最大耐力に達した。梁主筋にD13を用いた試験体では紡錘形の復元力履歴特性を示した。いっぽう梁主筋にD22を用いた試験体では、柱梁接合部パネル内の梁主筋の付着劣化により逆S字形の履歴ループを描き、梁付け根コンクリートの圧縮ひび割れを生じた。

 全試験体で梁主筋降伏までの復元力特性は「鉄筋コンクリート造建物の耐震性能評価指針(案)・同解説」(2004,日本建築学会)によって精度良く評価できた。しかしかぶりコンクリート圧壊時の梁部材角の評価は、梁せいが400mmの場合には実験値の2倍以上過大になった。これは,梁主筋の接合部パネルからの抜け出しによる変形とひずみシフトによる変形とを過大評価したことによる。

 修復限界Tまで実験値とRC性能評価指針(案)による評価は概ね一致した。梁主筋にD13を用いた時の修復限界Tでの載荷ピーク時部材角は0.91%(正負平均)で、D22を用いた時(同1.50%)より小さかった。


3. せん断破壊が先行するRC梁および有孔梁の終局耐力評価手法の比較検討

北山和宏・落合 等・嶋田洋介・白井 遼

 日本建築学会では,建築基準法による耐震設計の体系における許容応力度設計(いわゆる一次設計)に対応する規準として「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」を制定している。しかしそれに続く保有水平耐力計算(いわゆる二次設計)を対象とした規準類は整備されておらず,喫緊の課題として浮上した。本研究では新たな「鉄筋コンクリート構造保有水平耐力計算規準・同解説」を策定するための準備作業の一貫として,梁主筋降伏前にせん断破壊または付着割裂破壊するRC梁および有孔梁を対象に,既に提案されているせん断終局耐力評価式の持つ精度を検証した。

 具体的には,文献調査によって実験結果を整理したデータベースを作成した。対象とした文献は日本建築学会大会学術講演梗概集の1996-2010年版(有孔梁については2000-2010年版),およびコンクリート工学年次論文集の1990-2000年版である。検討対象とした試験体は,単純梁型,片持ち梁型,逆対称曲げを受けるRC梁および有孔梁のうち,せん断破壊あるいは付着割裂破壊が先行したものとした。丸鋼主筋による付着滑脱破壊は対象としない。有孔梁で対象とするせん断破壊は,開孔部せん断破壊(開孔部接線および開孔部対角ひび割れの進展による破壊)とした。軽量コンクリート(T種,U種)や高強度コンクリートを用いた試験体,T形梁試験体,複数開孔を有する試験体を含めた。なお本検討では,せん断補強筋の無い試験体は除外した。

 以上によって収集した試験体数は,無孔梁でせん断破壊したもの440体,無孔梁で付着割裂破壊したもの104体,有孔梁でせん断破壊したもの425体など,合計で1001体であった。これらの試験体の主要な諸元の範囲は,コンクリート圧縮強度は4.2~167N/mm2,主筋降伏強度は295~1383 N/mm2,せん断補強筋降伏強度は176~1767 N/mm2,引張り鉄筋比は0.48~9.30%,せん断補強筋比は0.04~2.85%,せん断スパン比は0.29~3.50であった。

 既往のせん断終局耐力評価式として荒川mean式,「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」の本文(靭性A法)および付録(靭性B法)を用いた。なお有孔梁については開口の径によって荒川式を修正した評価式(いわゆる修正広沢式)を用いた。

 以上の実験結果と評価結果とを比較することにより以下の結論を得た。
1) 普通コンクリートを用いてせん断破壊する無孔梁では,荒川mean式とヒンジ領域の塑性回転角Rp=0としたときの靭性A法とは,せん断終局耐力の評価式として同程度の精度(計算値に対する実験値の比の平均は1.16、変動係数は28%)を有した。これに対して,靭性B法の変動係数は他式と大差なかったが,計算値に対する実験値の比の平均は0.86となり実験結果を過大に評価した。

2) 普通コンクリートを用いた無孔梁に対して,付着割裂破壊を積極的には評価しない荒川mean式を用いて付着割裂破壊時のせん断耐力を評価したところ,せん断破壊時とほぼ同等の精度(計算値に対する実験値の比の平均は1.18、変動係数は23%)を有していた。

3) 普通コンクリートを用いた有孔梁に対して,修正広沢式はせん断終局耐力の下限を妥当に評価した。


4. 鉄筋コンクリート十字形柱梁接合部パネルの破壊機構の検証実験

北山和宏・平林幸泰・石木健士朗・近藤慶一[芝浦工大・岸田研究室]

 鉄筋コンクリート(RC)骨組の柱梁接合部パネルを対象とした従来の耐震設計では、接合部パネルに入力されるせん断力を制限することによってせん断破壊を防止するとともに、接合部パネル内を通し配筋される主筋の過度の付着すべりを防止して必要なエネルギー吸収性能を確保することを目指している。

 ここでRC柱梁接合部パネルは、斜めひび割れの開口とそれに直交するコンクリート・ストラットの圧壊とによって一様にせん断変形すると想定しており、接合部パネルの変形はせん断変形角のみによって表示される。このモデルは従来考えられてきた破壊機構と直感的に対応するため理解し易いが、接合部パネルに接続する柱および梁部材の変形状態とは無関係であり、これらの接続する部材端部での力および変形の連続性は間接的にしか考慮されない。

 これに対して、塩原(東京大学)は接合部パネルに生じるひび割れとひずみ分布に基づく変形機構と破壊機構を示す9自由度モデルを新たに提案し、柱梁接合部パネルの終局強度や限界補強量の数式表現を提示した。これは、柱・梁端部から曲げモーメントが作用する接合部パネルでは、柱梁接合部パネルの4辺が並進と回転の自由度を持って変形すると考える。塩原の破壊機構は、柱梁接合部パネルがせん断破壊するのではなく、曲げ破壊することを提示しており、従来の破壊モデルとは全く異なる概念に基づく。

 塩原の破壊機構によれば、柱と梁の曲げ強度比が比較的1に近いRC十字形柱梁部分架構では、接合部パネル内で柱主筋および梁主筋がともに降伏し、接合部パネル内の斜めひび割れ開口によって変形が集中して接合部破壊が生じやすい。また、柱梁曲げ強度比が1に近いほど復元力履歴特性は逆S字形の顕著なスリップ性状を示し、エネルギー吸収性能が劣ると考えられる。

 この研究の一環として、田尻・諏訪田らは、柱梁接合部パネルの膨張を拘束する要素が履歴性状に与える影響を評価することを目的として、接合部横補強筋量、柱軸力、柱中段筋量を変数とした実験を行った。その結果、柱軸圧縮力の増大が復元力履歴特性の等価粘性減衰定数の増加に寄与するとした。これは、柱に軸圧縮力を加えることによって接合部パネル内の主筋のスリップ化が抑制されたためとしているが、柱軸圧縮力を加えることで柱梁曲げ強度比も1から離れて大きくなったことから、その影響は不明である。

 そこで本研究では、塩原によって提案された接合部パネルの破壊機構の妥当性を検証するため、柱梁接合部パネルの剛性・強度・損傷集中に対する主要な影響因子である、1) 柱梁曲げ強度比(梁曲げ終局強度に対する柱曲げ終局強度の比)、2) 柱軸力(圧縮および引張り)、および3) 柱梁接合部パネルのアスペクト比を実験変数として、RC平面十字形柱梁部分架構試験体に静的繰り返し水平加力実験を行った。

 試験体はRC平面十字形部分架構5体であり、平面骨組に水平力を加えたときの柱・梁の反曲点位置で切り出したものとする。柱断面は350mm×350mm、梁断面はせいを400mm、幅を250mmとし、全試験体共通とした。ここでは柱梁曲げ耐力比が1.3および1.8の試験体を対象として、この2体の実験結果の概要を報告する。

1) 両試験体とも梁主筋および柱主筋が降伏したのちに柱梁接合部パネルが破壊した。復元力履歴形状はエネルギー吸収能に乏しい逆S字形であった。主筋の降伏後は同一振幅加力の2サイクル目でより顕著なスリップ性状を示し、同一振幅の加力において耐力も低下した。

2) 実験による最大層せん断力を従来の梁曲げ終局時計算値(Mu=0.9atσyd)と比較すると、両試験体とも1割程度大きかった。一方、塩原らの接合部曲げ終局時計算値と比較すると両試験体とも1割程度小さかった。

3) 両試験体の最大耐力は柱梁曲げ強度比の違いによらず、ほぼ同程度であった。

 なお、全試験体を用いた実験結果の比較・検討は引き続き、来年度も実施する。


5. PRC柱梁十字形部分架構内の梁部材を対象とした各種限界状態の解析評価

北山和宏・嶋田洋介

 プレストレスト鉄筋コンクリート(PRC)構造建物を対象として、性能評価型の耐震設計法を確立するためには,要求性能に対応した各種限界状態を材料のひずみやひび割れ幅などの物理量を用いて明確に規定することが必要である。PRC柱梁十字形部分架構における梁部材を対象とした研究(2009年度に実施)では,ほとんどの試験体の修復限界が残留変形角によって決定され,残留変形角を精度よく評価することの重要性が再確認された。

 部材の損傷を解析的に検討する場合,平面保持を仮定した断面解析によるのが簡便である。そこで平面保持を仮定した断面解析結果を用いてPRC梁部材の各種限界状態を検討した。また,各種限界状態を規定する損傷状況である残留変形角および残留ひび割れ幅の評価手法についても考察し、残留変形角と残留ひび割れ幅との関係を定量的に評価する手法を提示した。

 平面保持を仮定した断面解析ではコンクリートと鉄筋は完全付着とし,コンクリートとPC鋼材とのあいだの付着は六車らによるひずみ適合係数(F値)を用いて間接的に考慮した。断面降伏以降の梁部材角は、隅田・岸本らによる等価塑性ヒンジ長さに断面曲率を乗じることによって算定した。残留曲げひび割れ幅の最大値を推定するために、RC梁部材を対象とした評価手法(RC造建物の耐震性能評価指針(案)、2004)を準用した。ここで残留変形角が必要となるが、これを前述の方法で求めた梁部材角を用いた場合と浜原による残留変形推定式を用いた場合とについて比較・検討した。

 以上の手法を用いた計算結果と実験結果とを検討することによって、以下の結論を得た。
1) 平面保持を仮定した断面解析と隅田・岸本らが提案する等価塑性ヒンジ長さを組み合わせることにより,PRC梁部材の復元力特性をおおむね良好に評価できた。

2) RC梁と同様の評価手法によって、PRC梁部材の残留曲げひび割れ幅と部材角との関係を評価することができる。ただし、定数の同定と推定の精度については課題が残った。

3) PRC梁部材の限界状態を規定する損傷状況は実験・解析ともに,使用限界は主筋のひずみによって,修復限界は残留変形角によってそれぞれ決定され,その時の梁部材角も解析でおおむね良好に評価できた。


6.  新設開口を有する既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート耐震壁の地震時挙動

北山和宏・鈴木清久・長谷川俊一・見波 進・高木次郎

 既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート(WPC)構造建物の耐震壁に開口を設けた場合を想定し、8体の直交壁およびスラブ付き立体試験体(実建物の1/2スケール)に静的載荷する実験を2009年度に実施した。本年度はこのうち、基準となる無開口の試験体、検討対象階のプレキャスト(PCa)壁板のみに開口を設けた試験体およびその開口周囲を鉄筋コンクリートあるいは鉄骨で補強した試験体の計4体を対象として、耐震壁の耐力、変形性能、破壊性状等に与える開口の影響と補強効果の検討を行った。対象とした4体の試験体はいずれも水平接合部(セッティング・ベース)の破断という破壊モードを示した。

 得られた結論を以下に列記する。なお実験での限界変形角は、復元力履歴特性において最大耐力の80%に耐力が低下したときの頂部変形角と定義した。

1) 無開口試験体と開口を設けた無補強試験体を比較すると、開口を設けることによって各水平接合部(セッティング・ベース)での浮き上がり量は均一となり、個々のセッティング・ベースの浮き上がり量は小さくなった。このように変形部位が分散することによって開口試験体の変形性能(限界変形角1.7%)は見かけのうえでは向上したが、初期剛性は小さくなったと考える。

2) 「既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断指針」(日本建築防災協会)の第2次耐震診断によって得られた無開口耐震壁の曲げ降伏時せん断力は実験での最大耐力とほぼ等しく、指針による評価は妥当である。

3) 「既存壁式鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断指針」の第2次耐震診断による無開口耐震壁の靱性指標F値(2.0、限界変形角に変換すると1.22%)は実験値の2~3倍大きく、実験結果を大幅に過大評価した。鉄筋コンクリートあるいは鉄骨によって開口周囲を補強した場合には最大耐力は増大したが、限界変形角は0.7%から1.0%程度であり、開口周囲を補強しない場合(限界変形角1.7%)よりも変形性能は大きく低下した。


7. 兵庫県南部地震で倒壊を免れたRC中層建物の耐震性能

北山和宏・白井 遼・青木 茂

 検討対象としたF医院は神戸市灘区に現存し、2008年に青木茂建築工房によって大規模改修された建物である。地震直後に日本建築学会によって実施された調査報告によれば、F医院は無被害と判定された。しかし、周辺の鉄筋コンクリート(RC)建物には大破あるいは中破のものが多くみられた。改修時に仕上げを撤去した際、施工不良および地震による損傷が多数みられ、その際に行われた耐震三次診断では、1階から4階までのY(梁間)方向で基準値Iso(=0.6)を満足せず、耐震性能は十分とはいえないことが判明した。本研究では、この建物の調査・分析を行い地震による実被害の詳細を把握し、耐震二次診断と多質点系による地震応答解析によって大地震で倒壊を免れた原因を検討した。

 F医院は1972年竣工のRC建物で兵庫県南部地震の際に震度7を経験した。東西(X方向)4スパン、南北(Y方向)2スパンからなる5階建ての中層部分と、東西2スパン、南北2スパンからなる2階建ての低層部分がL字形に配された構成であり、両者は構造的に一体である。なお、低層部分はY方向に耐震壁のないピロティである。架構形式はX・Y方向ともに耐震壁付フレーム構造である。耐震壁はX方向には多く設置されているがY方向は少ない。下階壁抜け柱は1階のA通り3柱,1・2階のE通り2・3柱である。当該敷地は第2種地盤で直接基礎であった。主要な柱の断面寸法は600×600mmであり、柱のせん断補強筋の間隔は構造図と現地調査から1・2階:150mm(せん断補強筋比pw=0.14%),3-5階:200mm(pw=0.11%)であった。

 兵庫県南部地震による柱の損傷は中層部分1階に多く、損傷度Vに分類した柱にはせん断ひび割れ・コアコンクリート欠損がみられた。下階壁抜け柱(A-3,E-2及びE-3柱)の損傷度はいずれもVであり、下階壁抜けの悪影響が表れた。また、耐震壁の他に構面外のRC壁(構面外壁)にもせん断ひび割れが見られた。低層部分では鉛直部材の損傷はみられなかったが、中層部分と低層部分の境界梁にはせん断ひび割れを生じたものが複数あった。地震動によるひび割れが多数見られたものの、RC柱の軸縮みや鉄筋の座屈・破断といった甚大な損傷は見られなかった。耐震性能残存率Rは4階で最も小さく62%であり,被災度区分は大破に近い中破であった。

 第2次耐震診断より,F医院はせん断破壊の先行する鉛直部材が建物の保有耐震性能を支配する強度抵抗型の建物であると判定された。ジャンカ・構面外壁を無視した2次診断ではX方向の3階のIs値は0.59,Y方向の1〜3階のIs値は0.46〜0.54となり,特にY方向で耐震性能は相当に劣ると判定された。ジャンカの影響によりX方向では1階で0.06,Y方向では3階で0.03,4階で0.04,Is値が低下し,構面外のRC壁の影響によりX方向3階と4階でIs値は0.04,Y方向では2階で0.14,3階で0.11,4階で0.17,5階で0.2,Is値が増加した。これより構面外のRC壁の影響が大きいことがわかる。ジャンカ及び構面外壁を同時に考慮するとX方向は3階以外,Y方向は1階以外で0.6以上のIs値を有していた。X方向3階のIs値は0.6に近いので,X方向では耐震性能に劣る階はないといえる。Y方向は2〜4階で構面外のRC壁により耐震性能は大きく向上した。よって,構面外のRC壁が地震力に有効に抵抗したことでF医院は兵庫県南部地震で倒壊を免れたと考える。

 2次診断結果に基づいた多質点系地震応答解析では,X方向では構面外壁よりもジャンカが地震応答に影響することを確認し,実被害を再現することができた。しかしY方向では,1層の層間変形角が1.86%と他の階に比べて大きくなった。解析ではせん断部材は最大強度以降の軟化域に達し,曲げ部材は降伏したが,これは実被害と異なった。現実には梁の幾つかがせん断破壊したため,柱へのせん断入力が小さくなったことがこの差異の原因と考えられる。


8. プレストレスト・コンクリート柱梁部分架構実験のデータベース構築とその分析

北山和宏・嶋田洋介

 今までに北山研究室で実験を実施した計43体のPC柱梁部分架構試験体を対象として、諸元や実験・解析結果をまとめたデータベースを構築して、諸々の検討を行った。芝浦工業大学・岸田研究室で実験された試験体も加える。なおデータベースの基本的な項目は既に2008年度に矢島・嶋田によって完成しているので、それに2009年度の試験体を加えた。

 本年度は以下の項目について検討を行った。
1) 復元力特性における諸事象発生点の定量評価
2) 残留ひび割れ幅と部材変形角との関係の検討・評価
3) PC部材の残留変形の断面解析(繰り返し載荷)による定量的な検証

研究テーマ
研究成果


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