トップページ > 北山研ヒストリー> 北山研での研究:2001年

2001年度:

 この年、加藤弘行君が大学院に進学した。修士課程は各学年独りずつという寂しさのうえに、小坂英生君は例によってあんまり学校に来ないので、さらにひと気の減った研究室である。卒論生として森山健作君が入ってきた。彼は構造解析の授業のときには一番後ろの席に座っていて、私の話しを聞いているのかいないのか、よく分からなかったのだが、北山研を第一志望として来てくれたのはありがたかった。岸田さんをはじめ、小坂もモリケン(森山君の愛称)も体が大きいので、この三人が廊下を歩いていると、やはり体の大きい角田誠先生が「お前ら、鬱陶しいぞっ」と笑いながら声を掛けていたことをよく憶えている。

 森山君に「卒論生がひとりしかいないと、君もつらいだろう」、とかなんとか言ったら、「それもそうですね」との返事が返ってきた。そしてしばらくして「こいつも北山研に入りたいと言っています」とのセリフとともに臼井洋平君を連れて来たのであった。こうして卒論生はふたりになった。ちなみに、卒論生にも大学院生にも人気のない北山研は今しばらく続くことになる。

助手 岸田 慎司(きしだ しんじ)
D3 森田 真司(もりた しんじ)
M2 小坂 英生(こさか ひでお)
M1 加藤 弘行(かとう ひろゆき)
卒論 森山 健作(もりやま けんさく)
   臼井 洋平(うすい ようへい)

 2001年度には、私が申請した科研費・基盤研究C「連層鉄骨ブレースによって補強された鉄筋コンクリート骨組の破壊性状と耐震性能」が採択された。また西川孝夫先生を研究代表者とする科研費・基盤研究B「3方向外力を受ける鉄筋コンクリート柱・梁接合部の立体的な破壊モデルの構築」も同時に採択されて、嬉しい悲鳴を上げたものである。

 このほかに橘高先生の科研費・基盤研究Bが継続で、鹿島建設や文教施設協会から奨励寄付金も頂いていたので、この年の研究費は総額で一千万円を超えていたと思う。私としては相当にリッチな気分であるが当然ながら勝手に使える訳ではなくて、ほとんどは試験体の作製や実験装置(レーザー変位計など)の購入に費やされることになる。ちなみにこの年には、岸田さんも科研費・奨励研究Aを受けていた。

 2001年4月の研究ノートを見ると、以下のような「やること」リストが記載されている。こういうリストを作るのは、仕事がたて込んでいて大わらわのときである。

1. 消防庁 久保委員会 各種基準類の判定指標値と耐震診断の大まかな方法

2. 建防協 壁谷澤委員会 耐震診断基準改訂案 付則2 査読

3. fib2002 大阪Congress Abstractの提出---繊維混入RC柱

4. AIJ関東支部 『RCの設計テキスト』 執筆

5. Seattleの往復チケットの手配

 西川孝夫先生の科研費での研究では、西川先生の発案で橋本にある東急建設技研から白都滋(はくと しげる)さんに共同研究者として参加していただくことになった。これは大学人だけでなく企業の研究者の視点も大切であるとご判断されたからだと思う。白都さんには、科研費研究の打ち合わせや、北山研の研究室会議にたびたび参加していただいた。

 この年の委員会としては、JCIでは「塑性域の繰り返し耐力劣化と耐震性能研究委員会」(野口博委員長)があり、PC技術協会では「PC柱梁接合部研究委員会」(浜原正行委員長)、建築学会ではRC建物の性能評価に関する壁谷澤小委員会、PC部材の力学特性評価に関する中塚小委員会などがあった。

1. シアトルへ行く

 東大地震研の壁谷澤寿海先生が主催する日米共同ワークショップが、2001年8月にアメリカ・シアトルで開かれた。皆さんはお忘れでしょうが、イチローがアメリカ大リーグのマリナーズに移籍したのがこの年であった。4月頃に壁谷澤先生が「北さん、もうチケットは取った?」と聞くので、何のチケットかと思ったら、なんとマリナーズの本拠地セーフィコ・フィールドの観戦チケットのことであった。便利なことにインターネットで座席を予約できるそうだ。そこで私もネットから座席をゲットした。試合当日には、多くの日本人参加者から羨ましがられたことは言うまでもない。

 しかしチケットを購入した証拠としては先方からのメールしかないので、とりあえずその打ち出しをチケット・ブースに差し出した(その専用ブースを見つけるのも結構大変だったのだが)。すると、本人であることを証明するもの、もっと端的に言えばパスポートを見せろ、と言われた。それでどうにかチケットを貰うことが出来た。

 さてこの日、イチローは3打数1安打くらいだったと記憶する。その安打も彼得意のボテボテの内野ゴロで、折角見に行ったのになあ、と残念に思ったものである。しかし日本の球場のように太鼓やトランペットのような鳴り物による応援は皆無で、バットにボールが当たる「かーん」という音が聞こえたのは、とても良かった。少しだけ大リーグの雰囲気が分かった気がした。ナイターだったが、夜になると8月だと言うのに肌寒くて、がたがた震えながら試合を見たのであった。

 ワークショップが終了した一日、塩原等さん、田中仁史先生ご夫妻、加藤大介さん、市之瀬敏勝さんなどとレンタカーでシアトル郊外の観光地に出かけた。サケが遡上するこじんまりとしたハーバーであった。また、ワシントン大学に寄ってそこの生協?みたいなお店で、大学のマーク入りのTシャツなどをお土産として購入した。ワシントン大学のシラバス・ブックも忘れなかった。

 その後、塩原さんと田中ご夫妻と我が家の5人で、タコマ橋(風による振幅が共振現象によって増幅されて、ついに落橋したことで有名)があるところまで行ってみよう、ということになりフェリーに乗って対岸へ行き走り始めたが、思いのほか遠いことが分かって、途中で断念してまたフェリーに乗って帰って来た。そんなこんなでホテルに戻ったのが夜中の12時近くで、それから5人で夕食(と言っても、レストランなどはもう閉まっていて、飲み屋くらいしか開いていなかったのだが)をとったのであった。

 余談ばかりが先行したが、ちゃんと論文を発表してdiscussionしたことも付け加えておこう。論文のタイトルは以下の通りである。

KITAYAMA Kazuhiro and KOSAKA Hideo : Shear Resistant Performance of Vinyl-Fiber Reinforced Concrete Column, Paper prepared for the Third US -Japan Workshop on Performance-Based Engineering for R/C Building Structures, Seattle, USA, August 17-18, 2001

2. PCaPC柱梁接合部実験(鹿島との共同研究)

 2000年度から始まった鹿島技研の丸田さんとの共同研究として、今年度はPCaPC柱梁接合部実験を実施した。担当は岸田さんと卒論生の森山君である。接合部入力せん断力を精確に求めるために、梁付け根のコンクリート圧縮領域の深さを詳細に測定する必要があり、梁危険断面そばのコンクリート表面にたくさんのコンクリート・ゲージを貼付した。これによってまあ概ね、圧縮域深さの推移を測定できたのである。

 実験では梁曲げ降伏後に柱梁接合部パネルがせん断破壊したものもあり、このような接合部パネルの損傷を実設計で許容するのかどうか、ちょっと心配になった。このときPC鋼より線を用いた試験体が一体だけあったのだが、そこに貼付したひずみゲージの出力はほとんど信頼できなかった(このことはすでに2000年度のヒストリーで書いた)。

 スポンサーの鹿島建設を対象とした公開実験を5月末に開催した。この実験では、PC柱梁接合部パネルもRCと同様にせん断破壊すること(まあ当然ではあるが)を確認し、そのときのせん断強度はRC接合部のせん断強度評価法を準用して評価可能であることを示せたことが大きな成果である。

  

  

    写真 PCaPC柱梁接合部実験の様子

  
 写真 臼井くん(左)、森山くん(二段め左)、小坂くん(二段め中央)、岸田助手(右端)

3. ビニル短繊維を混入した鉄筋コンクリート柱のせん断性能評価

 橘高科研プロジェクトの研究の一環である。2000年度に小坂君によって柱部材の逆対称曲げせん断実験が終了しており、引き続き実験データを詳細に検討してビニル短繊維がFRC(Fiber Reinforced Concrete)柱のせん断性能に与える影響を研究した。

 短繊維混入コンクリートの負担する引張り応力がトラス機構に寄与するだろうと考えられる。橘高研究室からいただいた短繊維混入コンクリートのCOD曲線から、短繊維混入コンクリートは引張りひずみが増大しても引張り強度σctの半分程度の応力度を保持できることが分かった。そこでトラス機構のせん断補強量pwσwyの項に、短繊維混入コンクリートの負担する引張り応力度をσct/2 として足し込むことにした(力の釣り合い条件から、cosθの二乗を乗じる必要があるが)。これによってまあそこそこの精度でFRC柱のせん断終局強度を評価することができた。

 この成果は小坂くんによって2002年のJCI年次論文集に投稿され、優秀論文賞を受賞したことを付記する。

4. 連層鉄骨ブレースで耐震補強したRC立体骨組の地震応答解析と試験体の設計

 これまで鉄骨ブレースを含んだRC骨組のモデルは福島くんの作ったものを使用していた。ただこのモデルでは、鉄骨ブレースの枠材と既存RC柱梁とを接合するために充填したモルタル部分を剛と仮定していた。この点に疑問を持った加藤くんは、この間接接合部の影響を評価するために、いろいろな新規モデルを考えて研究室ゼミで議論した。そしてこの間接接合部のモルタル部分を、弾性の軸バネおよびせん断バネで表現することにした。

  
    図 鉄骨ブレースと周辺のRC骨組のモデル化

 こうして三階建ての学校建物をモデルとして、桁行方向5スパン、張間方向2スパンの立体建物の桁行方向フレームの中央に連層鉄骨ブレースを設置したときの静的漸増載荷解析および地震応答解析を行った。連層鉄骨ブレースを含むRC部分架構は基礎の浮き上がり回転によって耐力に達したので、全体曲げ破壊(耐震改修指針にあるタイプ3という破壊モード)を発生させるために基礎固定とした解析も別途行った。

 連層鉄骨ブレースに対する直交梁の抑え込み効果は桁行方向のみの載荷では確かに顕著に存在する。ところが水平二方向載荷になると、張間方向の載荷によって直交梁が降伏することがある。その影響によって直交梁の抑え込み効果が頭打ちとなって、その結果、桁行方向の1層の応答層間変形が一方向載荷時よりも二倍以上大きくなる例を示した。

 加藤さんのこの研究成果は2002年のJCI年次論文集に投稿された。その発表のときに司会者から「なぜ今になってこんな研究をしているのか」という質問を受けた、といって加藤さんが憤慨していたことを憶えている。

 この解析的研究と平行して、来年度に実施する予定の実験の計画を加藤さんとともに進めた。これは平面RC骨組に連層鉄骨ブレースで補強を施したもので、連層鉄骨ブレースを含むRC部分架構の破壊モードとして、基礎の浮き上がり回転破壊およびブレース脇のRC柱の全主筋が引張り降伏する全体曲げ破壊の二つを想定した。

 この計画を進める際に、かつて加藤大介さん(現・新潟大学教授)と勝俣英雄さん(現・大林組技研)が東大・青山研で実施した連層耐震壁付きRC骨組の実験が大いに参考となった。特に部分架構が浮き上がり回転する場合に、水平反力をどこでどのようにして取るべきか、という実験実施上のテクニカルな問題について相当に頭を悩ませた。どうすれば現実により近い状況を再現できるか、ということである。この点についても加藤大介さんの博士論文や勝俣さんの修士論文が大いに役立った。

5. RC長柱のせん断破壊実験

 これは昨年度に白山くんと石井くんとによって実施されたRC立体骨組実験に付随した実験である。ことの顛末は2000年度のところで述べたが、実験研究のための時間が足りなくて、両名が全ての実験を終えることなく修士課程を修了して出て行ってしまった。そこで、残ったRC柱単体の実験を森田さんに実施してもらった。卒論生の臼井くんが卒業研究としてこれに参加した。

 2000年度の立体骨組実験では内柱と外柱とが一本ずつあったので、今回のRC柱単体の実験では、内柱に対応する試験体には一定軸力を,外柱に対応する試験体には引張りから圧縮まで変動する軸力をそれぞれ与えることにした。実験は建築実験棟のBRIフレームによって行ったので、柱頭・柱脚に逆対称曲げモーメントを与えることになる。この応力状態は明らかに前年度の立体骨組実験とは異なったが、やむを得ないものとして甘受した。

  

  

  

   写真 RC長柱のせん断破壊実験

 実験結果であるが、RC柱は二体ともせん断破壊した。せん断ひび割れは柱試験体では柱全体に発生したのに対して、前年度の立体骨組実験では柱中央部に集中した。これは、立体骨組実験の柱では反曲点の位置が内法階高中央よりも上昇して,逆対称曲げモーメントを与えた柱試験体とは異なる応力状態となったためと考えられる。

 水平二方向せん断力を受けた立体骨組実験(2000年度実験)の柱のせん断強度は、内柱では柱試験体(2001年度実験)に較べて22%低下し、外柱では14%低下した。

 そのほかに十字形およびト形の柱梁接合部実験も実施した。しかしこれらの“要素”実験の結果と、2000年度の立体骨組実験の結果とを総合的に評価して考察することまではできなかった。森田さんには頑張って実験およびその検討をやって貰ったが、成果を上げることができずに気の毒であった。自分のテーマとは直接関係のない研究に取り組んでくれた森田さんには、本当に感謝している。

 この年の成果をまとめた論文等はここをご覧下さい。



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