トップページ > 北山研ヒストリー> 北山研での研究:1995年

1. 李祥浩さん、北山研初代助手に着任

 二つの大地震による被害調査結果をまとめているうちに1995年4月となった。この4月から、東大青山・小谷研究室で博士を取った李祥浩氏が助手として着任し、研究室の貴重な戦力に加わった。彼は残念ながら同年9月末をもって退職し、釜山大学校工科大学の教員になって韓国へ帰国した。短いあいだではあったが研究室の活動に大いに貢献し、学生たちの指導に活躍してくれた。着任四年目の私がなぜ助手を取れたのか不思議なところもあったが、前年度に建築学教室の幹事を勤めて一応一人前の教員として認知されたのかな、とも思っている。助教授には人事権はないので、西川先生のご尽力があったことはもちろんである。

 この年の研究室の陣容は以下の通り。卒論生が二名入ったのが初めてなら、女性が加わったのも初めてであった。

助手 李 祥浩(い さんほ)
M2 吉田格英(よしだ かくひで)
M1 (空 席)
卒論 桐山千香子(きりやま ちかこ)
   溝部 錦伸(みぞべ かねのぶ)

 卒論生の桐山さんはとてもまじめな人で公務員を志望していたが、毎朝9時前には研究室に登校して、部屋の掃除やゴミ捨てなどをしてから、勉強していた。この姿を日頃見ていた李さんは「桐山さんはえらいです」と褒めていたことを思い出す。

 夏の一日、休暇をとって研究室のメンバーと秋川渓谷にバーベキューに出かけた。池田君と吉田君とが車を出してくれた。川原で食べるバーベキューは格別にうまかった。ビールを飲んでいい心地になってくると、池田君、吉田君と私は川に飛び込んでいった。ただし水着は持ってきてなかったので、トランクス一枚になって三人で遊んだのである。桐山さんは「いやな人たちねえ」と思ったかも知れないが、こちらは酔っぱらっていたのでそんなことにはお構いなしであった。李祥浩さんも酔っぱらって川原で寝ていた。

2. 研究室での研究

 1995年度の北山研究室における研究の分担としては、三陸はるか沖地震で倒壊した八戸東高校管理棟の耐震診断や地震応答解析による被害原因の分析を溝部君、引張り軸力を受けるRC柱のせん断挙動に関する二次元非線形FEM解析を吉田君、ひび割れたコンクリートの圧縮強度低減を考慮してRC柱梁接合部パネルのせん断性状を検討するための二次元非線形FEM解析を桐山さん、そして内柱梁接合部からの主筋の梁降伏時抜け出し量を定量化するための検討を李さん、にそれぞれお願いした。西川研の姜柱さんには、引き続きサ形部分骨組実験の結果の詳細な検討をお願いした。

(2009年10月20日追加) 1996年3月に、千葉大学・野口博先生の科研費(総合研究A)の報告書を作成した。内容は、桐山さんに卒論として取り組んでもらったRC柱梁接合部パネルのFEM解析である。そのときの報告書をスキャンしたので、ご興味のある方はこちら(PDFファイル)をどうぞ。

3. わたしの試み 〜修正圧縮場理論(MCFT)によるせん断強度解析〜

 私自身は、Vecchio and Collins による修正圧縮場理論(Modified Compression Field Theory、以降略してMCFTと呼ぶ)を用いたRC部材のせん断強度解析に、N88-Basic によるプログラムを作成して取り組み始めた。MCFTは部材のせん断スパン比には無関係に、ひび割れ面での力の釣り合いを基本に導かれた理論であり、壁、柱および梁部材にこれを適用する手法はCollinsらによって提案されていた。これを柱梁接合部パネルのせん断強度を求めるためにも利用できないかといろいろ考えたが、結局は上手くゆかなかった。MCFTを手がけた動機は、柱軸力が引張りから圧縮まで変動するときのRC柱のせん断強度およびトラス機構の角度の推移を知ることであった。建築学会の終局強度型耐震設計指針では、トラス機構の角度は26.5度から45度まで変化することになっているが、この設定が妥当かどうかは誰も検討していないと思う。そこで実験においてひび割れ角度や主ひずみの角度を測定するとともに、MCFTによってトラス機構の角度を同定できれば、有力な検証材料になると思ったのである。そのため後年、北山研や千葉大学・野口研での試験体を対象としてさまざまな解析を行い、いろいろと検討したのであるが、結局大会論文1本を執筆するにとどまった。2002年になって、建築学会大会のパネル・ディスカッション(PD)で「FEM解析の結果はどこまで信頼できるのか」というお題を野口博先生から与えられて、FEM解析の結果とMCFT解析の結果とを比較するという試みを紹介した。このPDにご参加いただいた青山博之先生から、「おもしろい論考ですが、これは論文として発表していますか」というご質問をいただいた。残念ながら論文にするには今ひとつで、論文にはなっていない、ということを青山先生にはお話しした。

 なお1995年度には実験が全く行われたなかったことは、実験大好きの北山研究室としては異例のことで特筆に値する。



   図 MCFT解析と実験結果(吉田君のRC柱試験体)との比較


 1995年度の北山研究室メンバー
(左から溝部、池田[1995年3月修了]、北山、桐山、姜柱、吉田) なぜか李祥浩さんは写っていない

4. 学会での活動

 日本建築学会での委員会活動が忙しかったのもこの頃である。三陸はるか沖地震の被害状況をまとめるための「三陸はるか沖地震WG」(主査:西川孝夫東京都立大学教授)、兵庫県南部地震でのRC学校建物の被害状況の取りまとめと被害要因の分析を行うための「学校建築RC−WG」(主査:壁谷澤寿海横浜国立大学助教授)、「RC建物の終局強度型耐震設計指針・同解説」をさらに進化させた「RC建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」を執筆するための「柱梁接合部WG」(主査:角徹三豊橋技術科学大学教授)などである。北山研での研究成果が、これらの報告書とか指針とかに直接反映されたことは言うまでもない。

 1995年度の研究成果は以下の論文や報告書として結実した。

1. Kitayama K., Jiang Zhu, K. Kohyama and T. Furuta: Interaction of Bond Deterioration along Beam Bars through R/C Interior Joints and Beams, Eleventh World Conference on Earthquake Engineering, Proceedings, CD-ROM No.1, June, 1996, Paper No.380.

2. 姜柱、北山和宏:RC骨組内の柱・梁接合部の入力せん断力と梁通し筋の付着に関する研究、構造工学論文集、Vol.42B、1996年、3月、pp.169-179.

3. 北山和宏:基礎梁・フーチングの被害 / 配筋詳細、日本建築学会、文教施設の耐震性能等に関する調査研究報告書、1996年3月、pps.249.

4. 吉田格英、北山和宏、西川孝夫:引張り軸力を受ける鉄筋コンクリート柱のせん断強度に関する研究、第18回コンクリート工学年次論文報告集、Vol.18-2、1996年、7月、pp.875-880.

5. 伊藤一男、吉崎征二、北山和宏、高橋裕幸:引張り軸力を受けるプレキャスト柱の接合面におけるせん断伝達機構、第18回コンクリート工学年次論文報告集、Vol.18-2、1996年、7月、pp.1193-1198.

6. 李祥浩、北山和宏:内部柱・梁接合部における梁部材の降伏時変形、第18回コンクリート工学年次論文報告集、Vol.18-2、1996年、7月、pp.959-964.

7. 北山和宏:鉄筋コンクリート内柱・梁接合部のせん断強度に対する横補強筋の影響、日本建築学会大会学術講演梗概集、C−2構造IV、1996年、9月、pp.663-664.

8. 高橋裕幸、西川孝夫、北山和宏、吉田格英、伊藤一男、吉崎征二:引張り軸力を受けるプレキャスト柱の接合面におけるせん断伝達機構、日本建築学会大会学術講演梗概集、C−2構造IV、1996年、9月、pp.17-18.

9. 溝部錦伸、北山和宏、木村宏樹、中埜良昭:1994年三陸はるか沖地震により被災した青森県立八戸東高校の耐震性能(その1、2)、日本建築学会大会学術講演梗概集、C−2構造IV、1996年、9月、pp.347-350.

10. 姜柱、北山和宏:鉄筋コンクリート骨組の梁の降伏時変形成分、日本建築学会大会学術講演梗概集、C−2構造IV、1996年、9月、pp.477-478.

11. 北山和宏:4.2.2節「鉄筋コンクリート造建物の被害-青森県立八戸東高校-」、日本建築学会、1994年三陸はるか沖地震災害調査報告、1996年9月.

12. 北山和宏:構造形式別被害 / 柱・梁接合部の被害 / 基礎梁・フーチングの被害 / 配筋詳細 / 西宮市立西宮高校 / 兵庫県立御影高校、日本建築学会、1995年兵庫県南部地震鉄筋コンクリート造建築物の被害調査報告書 第II編 学校建築、1997年3月、pps.235.



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