エアロゾルの環境影響

 近年、アジアの大都市域におけるPM2.5が注目を集めていますが、この現象はアジアに限ったものではありません。古くは1940-50年代のロサンゼルス・ロンドンスモッグに端を発し、日本でも高度経済成長期に深刻な社会問題となっていました。すなわち、PM2.5が引き起こす大気汚染は昔から大都市に普遍的に存在してきました。

 エアロゾルのうち0.1~1 μm程度以下の粒子は空気力学に安定であるために、上気道 (鼻や喉) ではあまり沈着せずに下気道 (気管支や肺) に到達します。これがPM2.5健康影響の物理的なメカニズムの一つです。一方、粒径0.1μm程度以下のナノ粒子、あるいは粒径数μm程度以上の粗大粒子は上気道に沈着することで別の健康影響を引き起こす要因にもなります。
 また、粒径0.5μmは太陽可視光のピーク波長に相当するため、この付近の大きさの粒子は太陽光を効率的に散乱します (ミー散乱)。太陽光の散乱効果は視程の悪化を引き起こし、いわゆるスモッグとして認識されます。この効果は地球のエネルギー収支を考える上でも重要であり、地表に到達するエネルギーを減少させることで正味では冷却に作用します。すなわち、エアロゾルは気候変動を考える上でも重要な因子です。 /span>
 エアロゾル粒子が太陽光を散乱または吸収する効果を直接効果と呼びます。さらに、エアロゾル粒子が雲凝結核として働き、雲量を増加させる効果を間接効果と呼びます。IPCC報告書によれば、直接・間接効果を合わせるとCO2放射強制力に匹敵すると推定されていますが、不確実性が非常に大きくなっています。



 参考文献

Hinds, W., Aerosol Technology, John Wiley, Hoboken, N. J., 1999.

Seinfeld, J. H., and S. N. Pandis, Atmospheric Chemistry and Physics, 2nd ed. John Wiley and Sons, New York, 2006.

IPCC AR4, https://www.ipcc.ch/assessment-report/ar4/