エアロゾル

 大気中に微粒子が浮遊している分散系をエアロゾル (aerosol) と呼びます。粒子そのものを指すときはエアロゾル粒子と明記しますが、粒子が省略される場合もあります。エアロゾル粒子の大きさ (粒径) は数nmから100 μm程度まで広範囲に及び、その化学組成は多種多様です。エアロゾルの粒径や化学組成は、核生成、凝集、凝縮などのプロセスにより短時間で大きく変化する場合があります。


 エアロゾルは空気中の微粒子分散系であり、水中の微粒子分散系であるコロイド液と多くの共通点があります。厳密には粒子の大きさに依存しますが、いずれの場合も短時間では凝集・沈殿せずに準安定的に存在することができます。また、可視光線を効率的に散乱する 性質も共通しています。


 エアロゾル粒子の数濃度や質量濃度を粒子直径 (粒径) の関数として表したものを粒径分布と呼びます。それらは慣例的にcm-3およびµg m-3の単位で表現されます。数濃度から質量濃度へ換算する場合には粒径の3乗がかかるため、同じ粒子集団であっても質量濃度の方がより大きい粒径側にシフトします。数濃度および質量濃度それぞれについて、実大気では幾つかの分布の山 (モード) が観測されます。数濃度では核生成モードやエイトケンモードが見られ、質量濃度では累積モードや粗大モードが典型的に見られます。


 エアロゾルの分類方法は目的に応じて異なります。上記のモードは粒径による分類です。発生源で分類すると、人為起源と自然起源 (植物、土壌、海洋) などに分けることができます。モードと発生源には密接な関係があり、核生成、エイトケン、累積モードは人為起源と植物起源の影響を強く受け、粗大モードは土壌や海塩などの影響を強く受けます。
 また、主要組成の観点からは、炭素性 (黒色炭素、有機物) と無機物 (イオン成分、金属酸化物) などに分類できます。さらに、生成プロセスで見れば、一次粒子 (直接粒子態で放出されるもの) と二次粒子 (大気中の化学反応で生成されるもの) に分類できます。これらの分類間には必ずしも明確な対応関係があるわけではありません。例えば、有機物には人為起源も植物起源もあり、一次粒子も二次粒子も存在します。
 大気汚染用語では、エアロゾル粒子を大気中粒子状物質 (airborne particulate matter) と呼ぶことがあります。このうち,空気力学直径2.5 µmに対する捕集効率が50%で定義される粒子集団を微小粒子状物質 (PM2.5) と呼びます。空気力学直径とは、粒子の密度を加味した直径です。PM2.5は主に人為起源の影響を強く反映していますが、自然起源が重なることもあるため、その解釈は単純ではありません。


【コラム】空気とは
 「空気」とは何でしょうか。少なくとも地表付近において、体積1 cm3程度の空気中にエアロゾル粒子が全く存在しない状況はほとんどありません。狭義では空気は純粋に気体成分のみから成る集団を表すこともあります。しかしながら、我々の身の回りにある空間を満たしているものを空気と考えるならば、気体成分だけでなくエアロゾル粒子も空気の構成要素です。物質科学的な側面で見たときのエアロゾル粒子の役割は、常温・常圧で気体として存在できない (飽和蒸気圧の低い) 物質を空気中に準安定的に保持し遠方に輸送するものです。その化学種は発生源の特徴を強く反映しています。例えば高温燃焼発生源からはグラファイト状の構造を持つ煤粒子が多く排出され、海洋からはNaClを主成分とする海塩粒子が放出されます。
 ここで言う「遠方」は空気の流れ (風) との相対的関係で決まるものですが、一般に粒径の大きいものは重力・慣性の影響によって輸送距離が制限されます。逆に粒径の小さいものは拡散という現象でやはり輸送距離が制限されます。粒径0.1~1μm程度のものは空気力学的に非常に安定であり、降水がなければかなり遠方まで輸送されます。

 参考文献

Hinds, W., Aerosol Technology, John Wiley, Hoboken, N. J., 1999.

Seinfeld, J. H., and S. N. Pandis, Atmospheric Chemistry and Physics, 2nd ed. John Wiley and Sons, New York, 2006.