冷却原子気体の超流動現象および、超伝導に関する理論的研究  極低温原子気体における超流動ダイナミクス 極低温原子気体では、粒子間相互作用、粒子数密度、結晶格子といった物性を特徴付けるパラメータを自在に制御できます。その上、統計性の違うボーズ、フェルミ原子どちらも冷却可能で、理論と実験の比較も容易であることから、種々の現象に対するルーツを明らかにするという点で非常に優れたフィールドを提供しています。特に、超流動現象は極低温原子気体特有の性質を示すとともに、固体物理系との類似点も多いのが特徴です。
 近年では超伝導でのクーパー対形成とその凝縮に相当する、Fermi気体の超流動が実現され、「BCS理論的な超流動」から「分子ボソンBEC超流動」へと連続的に移行する現象BCS-BECクロスオーバーの観測が可能になりました。この現象は電子系では見られない原子気体系特有の現象であり、別々に研究されてきた二つの超流動現象を同一のフィールドで議論がすることが可能になりました。
 最近では特に、超流動の特性を色濃く反映するダイナミクスの研究を行っています。具体的には超流動特有の音波である第二音波や超伝導ダイナミクスとの関連も深いvortexの研究を行っています。また、極低温原子気体の超流動と、金属超伝導、ヘリウム3などの等方的 p波超流動やルテニウム酸化物などのカイラルp波超伝導との関連性を検証しながら、普遍的な物理現象としての超伝導•超流動の理解を目的とした研究をしています。

空間反転対称性のない超伝導におけるトポロジカルな性質 空間反転の対称性が欠損している固体結晶では、鏡像反転の対称性の破れた系が実現します。このような結晶構造をもつ重い電子系の物質において超伝導性を示すものが発見されていますが、この系での超伝導の特徴の一つは、スピン軌道相互作用が比較的大きく、パリティが良い量子数ではなくなるため、スピン・シングレット超伝導とトリプレット超伝導の混成が可能であるということです。このような、空間反転対称性のない重い電子系での超伝導において逆向きに対称性の破れたツインドメインを形成しうることが報告されています。このツインドメイン間の境界におけるトポロジカルな性質は興味深く、スピントロニクスへの応用への期待もされています。
 最近では、ツインドメインの境界にスピン・シングレット超伝導とトリプレット超伝導の混成状態の結果として、ツインドメインの境界でAndreev bound statesによるスピンカレントやその他のトポロジカルな性質がどうなるか研究しています。

機械学習の物理への応用 最近急激に発展しているのが機械学習を用いた解析です。機械学習はデータ分析手法の一種で、データの中から背景にあるルールやパターンといった特徴量を抽出できます。機械学習手法の一つであるニューラルネットワークを多層に構築したものがDeep Learning と呼ばれています。与えられたデータから自ら特徴を抽出することで最適化を行っています。Deep Learningにオートエンコーダという手法があります。オートエンコーダは入力データの次元を圧縮し、再度元の次元に復元するよう学習することで、次元削減や特徴抽出に用いられるアルゴリズムです。 このオートエンコーダを使って、2次元イジングモデルの相推定などの研究を行っています。
また、機械学習を冷却原子系に応用させる研究も行っています。
冷却原子気体で凝縮した冷却原子気体の状態を直接観測することは難しいです。冷却原子の観測には飛行時間測定法(TOF)が用いられることが多いです。実験の理論的検証には正しい温度を見積もる必要があります。一般的に冷却原子で温度を見積もる時には、原子集団が理想気体であり、相互作用せずに自由落下すると仮定して計算した密度分布を用います。しかしながら、原子集団の相互作用は無視できなく、相互作用を考慮して推定した温度とかなり異なることが知られています。最近、Bose原子気体の振る舞いを再現する高精度のシミュレーションに成功しました。このデータを教師とし、Bose原子気体超流動の温度推定を行う機械学習モデル(学習器)の作成を行っています。