Part 1

背景と目的

東京の都心部には、密集した低層木造家屋の多く並んでいる住宅地、いわゆる“※1下町”という地域が残ってきました。特徴的な建物や街並みの景観が守られているだけではなく、そこで生まれた強固なコミュニティ意識が継承され、下町の一つ大きな特徴として捉えられています。しかし、居住環境が良質とは言えず、防災面の課題も多いため、行政と住民が協力して街を改善していきました。
近年、社会環境の変化に伴って、コミュニティ意識が希薄化し、都市生活に関わるより多くの課題が生まれました。例えば、高齢者の孤独死、育児分担の難しさなどが挙げられます。それぞれの課題について議論する時、コミュニティ意識の果たす役割が多くの研究者たちによって注目されてきました。今回のスタディツアーを通して、改めて下町にある強固なコミュニティ意識について考え、それが都市生活にどんな意義があるのかを議論することを目的としました。

※1 下町とは、地理的性質上東京の低地に位置し、密集した低層木造家屋の多く並んでいる住宅地で、小さな工場やその労働者などが住民の大半を占める地域です。

場所の説明

それぞれの時代に形成した東京の下町のほとんどは海や川に近い低地に位置しています。その中で、月島は1880年代につくられた埋立地であり、周辺は重工業地帯となっていました。そこで働いていた多くの労働者のために、高密度な木造住宅地が計画的につくられました。そこで生まれた強固なコミュニティは現代まで継承されてきました。1980年代から整然とした敷地で再開発が進み、多くの高層マンションが建てられました。しかし、一歩路地に入ると、昔からの生活風景が見られ、変化と継承が両立しているまちでもあります。今回のスタディツアーで、私たちは月島及び隣接した佃と新佃地区を訪れました。アジア各国から参加しているメンバーたちと、強固なコミュニティ意識と下町がどのように関連しているかということと、それが都市生活にもたらす良い影響と悪い影響について、意見交換を行いました。

Part 2

まちあるきマップ

まちあるきマップ

それぞれの見どころ

(1) 佃島

ここでは、オープンスペース、伝統的な行事、歴史的な景観からコミュニティ意識を観察しました。ここの住吉神社では住民たちによって運営されている、3年に一度催される例大祭があり、そこで使われる神輿が展示されている様子を見学するなどしました。伝統的な行事を継承していこうという気持ちや、地域特有の歴史的な景観を保全しようとする動きには住民間のコミュニティ意識を強くする働きがあるのではないかという意見が得られました。

佃島

(2) コミュニティガーデン

新佃島に位置するコミュニティガーデンは行政が提供し、住民が自主的に管理している場所です。この場所には住民が自主的に管理する植木鉢などの植栽がたくさん飾られており、この植栽が住民らの自主的な行動と協調性によって保たれているという事実はアジア学生に大変驚かれ、興味深く感じられたようでした。

コミュニティガーデン

(3) 西仲通り商店街

この下町の中心に位置する西仲通り商店街は、もんじゃ焼きが有名でこの日もたくさんの観光客で賑わっていました。通りにある細い路地に入っていくと月島温泉という公衆浴場があり、地元の常連客の出入りを目にしました。また表通りから少し外れた路地では地元住民らしき方々が酒盛りをしている光景なども目にしました。このような公衆浴場は日本特有の文化であり守っていくべきという意見が得られました。かつては地元の人のためにあった商店街は、今は主に観光客向けになっていますが、まだまだ地元の人に利用されている場所は多く存在しました。

西仲通り商店街

(4) 路地

かつてこの地域に住宅が計画された際に作られ、現在も残る非常に狭い路地です。この路地周辺の住民は植木鉢などの植栽や個人の所有物を置くなどしています。路地は住民からプライベートな場所と公共的な場所の両方を併せ持つ場所として認識されており、そのためミュニケーションのきっかけの場所となるのではないかという仮説が提出されました。一方で路地はさらに狭くなり、このことは災害時には大きな問題となることが考えられます。アジア学生から見ると予想以上に綺麗に管理されている空間であったため大変驚いた様子でした。

路地1

路地2

(5) 月島長屋学校

1926 年に建てられた長屋をリノベーションして作られた学校です。地域住民のために開かれるとともに、学生や若者が月島の文化や歴史、そしてコミュニティ意識について学ぶ場所です。この長屋学校は他の地域も真似するべき良いアイデアだという意見が得られました。

月島長屋学校

Part 3

ディスカッション

グループメンバーからアジアの各都市の下町の状況を学生たちに尋ね、いくつかの下町を紹介していただいて、バンコクのプラナコーン区、台湾新北市の淡水区、ジャカルタのプンジャリンガン市、上海の老西門地区が挙げられました。それぞれの下町と月島との共通課題について議論しました。

グラフ1

強固なコミュニティ意識に対する意識

グループメンバー全員は下町にある強固なコミュニティ意識に対して、意見を出し合って、下のようなグラフを作り上げました。自分の日常生活から災害などの緊急時対応まで、普遍的な意見が多いものの、異なる視点からの意見もたくさん得ました。このグラフをベースにして、3つのグループに分けて強固なコミュニティ意識を表現するために演劇もやってみました。

コミュニティ

ロールプレイ

ロールプレイ

Part 4

失敗についての反省

私たちが当初想定していたような月島のコミュニティ意識を視覚的に観測するということはできず、正しいツアー手法とは言えなかった。観測するためには地域住民へのヒアリングや地域イベントに参加するなどの体験を伴う手法を用いるべきであり、人の活動に注目すべきであったのだが、私たちは人の活動の結果の空間やモノに注目してしまった。また、人々の活動を視覚的に観測するのであれば、住民らの生活リズムを把握し、最も観測できる時間帯を選ぶべきであった。
ただし、今回のツアーでは偶然訪れていた神社の参拝客や、偶然話しかけてくれた住民の方などの偶然得られたコミュニケーションに助けられたこと、アジア学生は私たちが想定していたよりも通行人や住民の動きに目を配ってくれていたこと、そして空間やモノからコミュニティ意識を感じとってくれたため、ディスカッションや発表の際には助けられた。

議論の結果

ツアー全体を通してグループ全員の認識として共通していたことは、都市の生活にはコミュニティ意識が必要であるということであった。しかし各都市によって人々の生活している状況は異なっているため、上海:忙しい人々の心の潤いのため
  バンコク:伝統を守るため
  ジャカルタ:住環境の保全のため
  台北:防災のため
と言ったようにコミュニティ意識が生活にどのように必要とされるのかという必要とされる理由は各都市で異なっており、大変興味深いものとなった。
本来得られると推測していたものとは大きく異なる結論が得られ、各都市の視点を詳しく考察してみる。上海の着眼点はビジネスシーンでさらなる飛躍を目指す東京においてもなくてはならない視点であると考えられる。バンコクの視点は開発と保存の間での葛藤の中で、我々都市計画を学ぶ者であればいつかは向き合わなくてはならない者である。ジャカルタの視点は日本独自の「お互いのために」という精神が非常に印象に残ったようで、「私の住む都市でもそうあるべきだ」と大きな収穫を得たように笑って語っていた。台北の視点は都市に対しての大きな課題の一つである「防災」に対して切り込んだものであり、お互い震災というウィークポイントを持つ都市どうし通じるものがあったようで、議論が多いに盛り上がった。