1.テーマの背景

東京都は「水害」という都市災害リスクを抱えています。このマップは東京の標高を表します。東京には3つの大きな河川が流れており、東京東部はこれらの河川によって形成された低い土地に位置していることがわかります。図の荒川に沿った青い部分は、海抜よりも低い土地です。このエリアは東京の中でも特に水害に対して脆弱なエリアといえます。
このスタディーツアーでは、江戸川区東大島地域における「スーパー堤防」という水害対策を通して、水害対策としてどんな対策が考えられるか、ハードの整備の仕方がどうあるべきか考え、議論しました。
 

図1

2.スーパー堤防とは?

スーパー堤防とは高さに対して30倍以上の幅をもつ巨大な堤防のことです。1987年に国土交通省がスーパー堤防事業を開始しました。首都圏を中心に江戸川や隅田川などに沿って120km建設される大きな計画です。


(1)川が氾濫した場合、一度に大量の水が堤防を超えて流れてくることはなく、少量の水が堤防をゆっくり流れ落ちてくる。
(2)豪雨によって増水した場合、堤防に川の水が浸透して堤防が破壊される恐れがあるが、スーパー堤防ではそのような危険性がない。
(3)スーパー堤防は、その広い堤防の幅によって地震による崩壊が起こらない。
しかし、莫大な建設費用や、数年に渡る長い建設期間などが問題視され、その整備はなかなか進んでいません。

 
図2

3.東大島の概要

東大島は埋立地であり、川や橋が多く、家の横を船が通るといった光景が見られる住宅街です。大部分の土地が海抜より低く、これまでに何度も水害に悩まされてきました。そのため1990年からスーパー堤防の整備が始まりました。現在は「スーパー堤防」の建設に伴い、新しい市街地が形成され、川から離れるにつれ、だんだんと土地は低くなり、川へ近づくにつれ、高くなります。
 

図3

4.ツアーコース

東大島駅を出発します。
0メートル地帯にある過去の災害時の浸水深が示されているポール、スーパー堤防、その上に作られた防災公園を順番に回ります。そして、浸水時の避難経路となっている橋を渡ります。従来の堤防があり、堤防の上に登るとスーパー堤防との違いがよくわかります。そのあとは、住宅が立ち並ぶ船堀エリアを歩き、船堀駅に到着します。
  

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5.①浸水深ポール

このポールには荒川の水位と過去の水害時の浸水高さが記されています。記録されている浸水位は全て人の身長の倍よりも高いです。荒川の基準水位は地面から150cm程度の高さに当たります。ここに立つと、いかにこの土地の標高が低く、水害に対して脆弱であるかが分かります。
 

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6.②防災船着場

ここは地震など災害時に、さまざまな物資を運ぶ拠点とするためにスーパー堤防と共に整備されました。地震や水害などの災害時は、道が壊れたり物が散乱するため道の多くは使えなくなります。しかし東京にはたくさんの川があり、川が災害時の大事な道になります。東京にはこのような船着場がたくさんあります。
災害のない時はどのように使われているでしょうか?普段は観光目的でも使われており、観光客を運ぶ水上バスの発着場にもなっています。
 

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7.③大島小松川スーパー堤防

大島小松川スーパー堤防は江戸川区・江東区の低い土地を守るために建設されました。24年の歳月、500億円をかけて建設され、堤防上部には団地や公園も一緒に建てられました。堤防周辺に住んでいた人は建設中の一時移転を強いられました。
 

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8.④大島小松川公園

ここはスーパー堤防の上に建設された公園です。スーパー堤防計画では良好な環境や防災対策のために緑地や公園を広くとられることが多いのです。周辺より土地が高いために江戸川区の避難所に指定されています。20万人以上を収容でき、面積は20ha以上の都内有数の広い公園です。
 

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9.大島・小松川の変化

赤線内はスーパー堤防の建設範囲を表しています。左写真はスーパー堤防建設前の1984年から1987年の様子であり、オレンジ色の点線に囲まれた範囲は住居地区です。小さな家々が密集している様子が分かります。
右図はスーパー堤防建設後の2007年の写真です。20年以上の建設期間をもってスーパー堤防と住宅地が整備されました。建設前の小さな家々は大きなアパートになり、大島小松川公園などの大きな公園に変わりました。このように、他の多くのスーパー堤防整備でも、堤防の整備と同時に周辺のまちづくりも進められます。
 

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10.⑤従来の堤防

スーパー堤防の計画範囲になってはいますが、現在も従来の堤防があります。スーパー堤防と比較すると、幅、規模の違いは明らかです。従来の堤防は、川との間に壁を立てて隔てたようなもので、水害や地震に対して脆弱です。水害に悩まされてきたなかで、安全性を最優先にして作られたものであり、景観等には配慮されていないことがわかります。水害対策として、長年行われてきたものです。
 

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11.⑥船堀

堤防の高さは、住宅の2階程度にあたります。東大島と同じく0メートル地帯であり、一旦浸水してしまうと、数日間は被災してしまいます。この地域には、広い高台はありません。浸水時は、周辺にある小学校やマンションが一時的な避難場所として機能することが期待されています。スーパー堤防の整備が望ましいですが、住民の合意形成が難しいことや建設コスト、建設期間、住民の一時移転など課題が多く、スーパー堤防の整備は進みません。
 

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12.ディスカッション

ツアー後、都市部における水害対策として何が考えられるか、ハードの整備がどうあるべきかについて、日本、韓国、中国の学生、教員を交えて議論を行いました。
代替案については、1)東大島周辺地域のマンションの避難タワーとしての活用、2)周辺地域の小中学校の建替えと同時に土地を高くする、といったアイデアが挙りました。
スーパー堤防の整備の仕方について、1)堤防と同時に景観に配慮したまちづくりが行われているため、心地の良い場所だという印象を受けた、2)上海などの都市部においてもスーパー堤防のような事業を行う際、住民との合意形成が非常に大きな問題となる、3)私有地ではなく公有地で対策ができないのか、といった意見がありました。
 

13.まとめ

日本だけでなく中国や韓国でも、都市部における堤防のようなインフラ整備には、住民との合意形成が難しいといった課題があることが分かりました。しかし、住民の声を拾い上げながら計画を進める日本に対し、韓国では住民に配慮しながらも、トップダウン体制でスピーディにプロジェクトを進めていく事例があることが分かりました。整備の進め方について、国ごとの違いが少し垣間みられたことが興味深かったです。