須永研究室 研究概要

(アニュアル・レポート 20062019年度)

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快適な環境配慮型・自然エネルギー利用建築に関する研究

 

地球環境保全のため,二酸化炭素の排出量削減が急務となっている.建築分野でも,大幅な省エネルギーと創エネルギーが不可欠であり,既存建築も含めて環境共生型建築・ゼロエネルギー建築への転換を早期に実現させる必要がある.

須永研究室では,『省エネ・自然エネルギー利用建築』と『人体の温熱快適性』を主なテーマとして,地域の気候を考慮した建築的要素の工夫と太陽熱などの自然エネルギー利用による室内気候調整手法(バイオクライマティックデザイン),それらに関連する建築部材の開発,実在する環境共生建築・住宅の性能評価などに関する研究,および,社会への研究成果還元を継続的に行っている.近年は,居住者の『省エネ意識・省エネ行動』や既存建築の環境性能改善にも力を入れている.[2019年度の前書きより]

 

以下に,2006年度以降の年度ごとのまとめを示す。

2005年度以前は,フォーマットが異なるため,割愛する。)

 

2006年度

1)学校建築のエコスクール化: a)日本全国の環境に配慮された学校建築について文献調査を行い,そのうちの約250校に,環境共生手法やエネルギー消費量に関するアンケート調査を行った.  b)学校の温熱快適性に関して,学校と自宅の温湿度の違いについて実測調査した.冷房のない学校では夏季の温度が非常に高いこと,児童下校後の戸締まりが室温の低下を阻んでいることなどを明らかにした.  c)断熱,日射遮蔽,通風などの環境共生手法の効果について,夏季実測およびシミュレーションにより明確にした.

2)RC住宅の外断熱改修:  a)外断熱改修を行った戸建住宅,屋上の断熱改修を行った集合住宅について夏季の実測および様々な条件でのシミュレーションを行い,改修の効果を示した.  b)「多摩ニュータウンの超高断熱(超省エネ)手法による既存建築ストック活用・団地再生」調査研究を行った.また,その報告書では,「高断熱改修に伴う熱環境的問題点と改善手法」をまとめた.

3)環境配慮型建築の性能評価手法: 空調を使用しない建築にも適用でき,居住者の着衣量変更などの環境調整行動も加味して評価できる室内環境評価方法に関して,建築学会論文集に投稿し,掲載決定を得た.また,昨年度行った実際の住宅を用いた被験者実験のデータ解析を行い,その結果を学会で発表した.

4)露出型天井配管冷房システム: 天井全面に冷水を通すパイプを設置して冷房するシステムの性能について,新冷却パイプを用いた場合の夏季実測を行い,良好な室内環境と省エネルギー性を確認した.また,除湿量に関係する物質移動係数を,実測および実験室実験から明らかにした.

5)コンバージョン計画における室内環境改善: 事務所建築から集合住宅に転換する実プロジェクト(本学21世紀COEプログラムのプロジェクトの一つ)で,断熱性能や遮音性能などの改善を盛り込む提案を行った.また,改築前の遮音性能の測定を行った.

6)人体の季節順化による快適範囲の変化: 熊本大学石原研究室主導の札幌,東京,熊本,沖縄の4地域(大学)での調査研究に参画し,被験者の通常の生活における温湿度環境と温熱快適性について実測・アンケート調査を2ヶ月ごとに行った.また,そのデータを用いて,夏季の季節順化について解析した.

7)IEASustainable Solar Housing プロジェクト 昨年度までに執筆したハンドブックBIOCLIMATIC HOUSING -INNOVATIVE DESIGNS FOR WARM CLIMATES-の校正を行った.

 

2007年度

1.中国の住宅建築のサスティナブル化(中国・西北工業大学との国際交流協定)

 西北工業大学 機械土木建築学研究科と首都大学東京 都市環境科学研究科との学術交流協定を平成1982日に本学において締結し,特に「持続可能な建築・都市の研究」における相互協力を行うことになった.12月の西安市での調査・打合せにより,「中国の住宅建築におけるサスティナブル化の早期推進」を当面のテーマとして進めることとした.

2.学校建築のエコスクール化

a)アンケート調査:昨年行った日本全国のエコスクール認定校へのアンケート(150校分)の解析を行い,環境共生手法やエネルギー消費量に関して分析した.その速報を日本太陽エネルギー学会で発表した.

b)温熱環境実測:エコスクール認定校の温熱快適性について,一般校との違いを含めて実測調査した.夏季は北海道から沖縄までの気候区分6地域を,冬季は北海道から関東地域までの4地域を対象とした.

c)ナイトパージの効果:換気扇を用いた夏季のナイトパージ(夜間に通風・換気を行い建物内の温度を下げること)の効果について,実験的に実測を行い,その効果を明らかにした.H20年度の建築学会等に発表する予定である.

d)学校建築関係法規:学校建築に関係する建築基準法等の改訂について,他の分野の教員とともに検討を開始した.

3.断熱内戸による熱環境改善効果

既存住宅の窓の内側に高性能断熱材を用いた断熱内戸を設置する効果について,計算および実測により検討し,断熱内戸を設置するだけで,換言すると低いコストで,次世代省エネ基準に近い熱性能を得られることや,コールドドラフトの防止などによる高い快適性を得られることを明らかにした.H20年度の建築学会等に発表する予定である.

4.通風促進手法を採り入れた集合住宅における通風の効果

 住戸内に複数の通風経路が出来るなど通風促進に配慮して計画・建設された集合住宅について,実測およびアンケート調査を行い,その効果を明らかにした.H20年度の建築学会等に発表する予定である.

5.環境配慮型建築の性能評価手法

 居住者の温熱快適性に基づいて評価することで,空調を使用しない建築にも適用でき,居住者の着衣量変更などの環境調整行動も加味して評価できる室内環境評価方法について,建築学会論文集で発表した.本研究における一連の成果を博士課程学生が博士論文としてまとめた.

6.断熱改修の効果と問題点

 本学21世紀COEプログラムで行ってきた断熱改修プロジェクトによる研究成果(充填断熱,内断熱,外断熱の事例から学んだこと)をまとめて,建築学専攻が主催したBSA2007国際会議で発表し,高い評価を得た.

7.緩衝空間の設置による室内環境改善

事務所建築から集合住宅に転換する実プロジェクト(本学21世紀COEプログラムのプロジェクトの一つ)などで,断熱性能や遮音性能などの改善のために,建築計画的に緩衝空間を設置することを提案した.また,その効果を,実測および詳細シミュレーションにより明らかにした.成果の一部をBSA2007国際会議で発表した.

8.IEASustainable Solar Housing プロジェクト

昨年度までに執筆したハンドブック(BIOCLIMATIC HOUSING -INNOVATIVE DESIGNS FOR WARM CLIMATES-)の最終校正を行った.この本は12月に出版されたが,序論,6章,9章を執筆している.

 

2008年度

1.中国の住宅建築のサスティナブル化(中国・西北工業大学との国際交流協定)

 平成19年に締結した西北工業大学 機械土木建築学研究科と首都大学東京 都市環境科学研究科との国際学術交流協定(主テーマ「持続可能な建築・都市の研究」)に基づき,本年度は東京都から「中国の住宅建築におけるサスティナブル化の早期推進」をテーマとする予算を得て,夏季と冬季の現地実測調査を行い,また,中国側の担当者を招聘して検討した.気候と地域性から陝西省を北部(黄土高原),中部(盆地的地形),南部(山岳地形)に分けて,実測および詳細シミュレーションにより,現状と改善手法について検討することとした.北部の新ヤオトン住宅および中部の標準的なレンガ造住宅を実測し,また,中部の住宅を対象にシミュレーションを行った.

2.学校建築のエコスクール化

a)アンケート調査:昨年行った日本全国のエコスクール認定校へのアンケート調査(150校分)の解析結果を日本建築学会大会で発表した.また,その結果の一部を学校建築専門雑誌に紹介した.

b)エコスクールの実測評価:外断熱,水平ルーバー庇,太陽熱暖房などの手法を採り入れて設計され,平成204月に開校した目黒中央中学校について実測を行った.温熱環境,光環境およびエネルギー消費量の測定を行い,各種手法の効果について検討した

c)夏季の暑さ対策の効果:普通教室に冷房の入っていない東京および横浜の学校を対象に,夏季の暑さ対策について,実験的な実測を行い検討した.中庇,簾による日射遮蔽効果,換気ガラリ,換気扇,自然通風によるナイトパージ効果について検討した.校舎の熱容量の影響が非常に大きいこと,換気・通風手法の中では通風の排熱量が大きいこと,などを明らかにした.

d)学校建築関係法規:学校建築に関係する関係法規,補助金,東京都内および横浜市の基本設計プランの現状について調査した.

e)海外のエコスクール調査:ドイツとイギリスの最新のエコスクールについて調査した.ドイツでは,著名な建築家でシュツットガルト大学のPeter Hübner教授に,エコスクールの考え方や設計手法についてヒアリングした.

3.断熱内戸による熱環境改善効果

断熱内戸は高性能断熱材を用いた断熱戸を窓の内側に設置するもので,省エネ性,快適性向上の効果が高いことを昨年までに明らかにした.今年度は,事務所建築用の断熱内戸の試作と実施実験を行った.住宅同様,断熱の効果は非常に大きいことの他,表面仕上材や取付材,および,使用者の意識について多くの知見を得た.

4.住宅の熱容量が室内温熱環境に与える影響

 住宅における躯体の熱容量が室内温熱環境に与える影響について,実大実験棟を用いて検討した.天井と床が木造,ALC造,RC造の3つの実験室を用いて,夏季は通風,日除け,冬季は窓の断熱などの建築的な条件と設定温度などの空調の運転条件を変えて実験した.また,シミュレーションによっても検討した.

5.環境配慮型建築の性能評価手法

 居住者の温熱快適性に基づく評価方法に関して,室内表面温度が均一でない場合の室内環境と被験者の評価を得るため,上記4の実験中に,被験者実験を行った.実験は,夏季(延べ175)と冬季(延べ163)に行い,合計338名分のデータを得た.

6.緩衝空間の設置による室内環境改善

建築計画的に緩衝空間を設置することについて,緩衝空間内の温熱環境も吟味する必要性を示し,また,住宅内における緩衝空間の方位,緩衝空間の窓面積,窓および壁の断熱性能などが,居室および緩衝空間の温熱環境に及ぼす影響について,シミュレーションにより明らかにした.

7.集合住宅の住まい方とライフサイクル評価

集合住宅において,居住者の環境調整行動が熱負荷に与える影響について,ライフステージに沿ってシミュレーションにより検討し,環境調整行動を行う場合は,行わない場合に比べ,最大40%削減されることなどを示した.

 

2009年度

1.学校建築のエコスクール化

1)アンケート調査:日本全国のエコスクール認定校へのアンケート調査(150校分,2008年実施)の解析結果が,日本建築学会環境系論文集に掲載された.また,その結果の一部を,他の研究成果とともに,四日市市の学校建築に関する勉強会などで紹介した.

2)エコスクールの実測評価:外断熱,深い庇,クール・ヒートトレンチ(CHT)などの手法を採り入れて設計され,20094月に開校した東京都杉並区内の小学校について実測を行った.CHT内および教室内温熱環境の測定を行い,CHTの効果について検討した.また,その結果を杉並区に報告し,今後の設計方法について検討した.

3)夏季の暑さ対策の効果:昨年に引き続き,普通教室に冷房の入っていない東京および横浜の学校を対象に,夏季の中庇,簾による日射遮蔽効果,換気ガラリ,換気扇,自然通風によるナイトパージ効果について検討した.実測解析の結果を発表するとともに,精算法によるシミュレーションおよび気流解析により,換気・通風時の性状と各手法の効果を明らかにした.

4)学校建築の基準・指針:学校建築に関係する関係法規,補助金について,東京都区内および秋田市などでヒアリング調査を行い,その結果を踏まえて全国的なアンケート調査を行った.設計基準や指針の現状を把握するとともに,オープンプランが減少傾向にあることなどを明らかにした.

5)建築の環境共生手法が児童の意識に及ぼす効果:自然採光や日除けなどの建築的な手法が生徒の意識に及ぼす影響を把握するために,建築的な特徴を持つ学校の生徒を対象にアンケート調査を行った.

2.断熱内戸による熱環境改善効果

断熱内戸は高性能断熱材を用いた断熱戸を窓の内側に設置するもので,昨年までに,省エネ性,快適性向上の効果が非常に高いことを明らかにした.今年度は,昨年度行った実験結果を検討・発表するとともに,精算法によるシミュレーションにより,戸建・集合住宅に設置したときの効果を明らかにした.また,リホーム建材フェアなどでその効果をアピールした.

3.住宅の熱容量が室内温熱環境に与える影響

 今年度は軽量気泡コンクリート(ALC)造の住宅において,その熱容量が室内温熱環境および空調エネルギー消費量に与える影響について検討した.実大実験棟を用いた実験,およびシミュレーションにより,ALC造は木造とRC造の中間的な温度変動となること,ただし含水率が多くなるとRC造と同等の温度変動をすること,ALCおよび断熱材の推奨厚さなどを明らかにした.これらの成果の一部が日本建築学会環境系論文集に掲載された.

4.中国の住宅建築のサスティナブル化(中国 西北工業大学との国際交流協定による)

 「中国の住宅建築におけるサスティナブル化の早期推進」をテーマとして,中国側と協同し,昨年行った陝西省北部(黄土高原)および中部(盆地的地形)の住宅の実測およびシミュレーション結果を検討し,建築学会大会で発表した.また,20106月開催の国際会議Renewal Energy 2010に2編投稿し,採択された.今後の方向としては,中国国内で生産できる安価な断熱材などを用いて,早期に省エネルギー建築化する方策を考えることとした.

5.市庁舎の省エネルギー・温熱環境改善効果

 外周面が構造体以外はガラスである三鷹市庁舎の省エネルギー改修について,改修方法の提案を行った.改修方法は,最終的に単層ガラスを真空ガラスに変えるにとどまったが,三鷹市からの依頼を受け,その効果を測定するとともに,職員の意識的な変化を調べるためのアンケート調査を行った.また,来庁者に真空ガラスならびに上記2の断熱内戸の効果を体感してもらうための,体感展示コーナーの設置を提案し,その仕様について検討した.ガラス・建装時報(新聞)に工事の内容等が掲載された.

6.その他の成果

 本年度中に須永修通が下記の称号・任命を受けた.

1)空気調和・衛生工学会「SHASE技術フェロー(省エネルギー建築)」

2)中国 西北工業大学「客員教授」

 

2010年度

1.学校建築のエコスクール化

1)エコスクールの実測評価:外断熱,深い庇,クール・ヒートトレンチ(CHT)などの手法を採り入れて設計され,20094月に開校した東京都杉並区内の小学校について,昨年に引き続き実測を行っている.特に,CHTの効果に着目しており,CHT内および教室内温熱環境の長期間の測定結果から解析を行っている.

2)学校建築の基準・指針:これまでの研究成果から環境共生型学校建築の設計基準について検討し,エネルギー消費量や室内温度範囲などを定める「性能基準」と,それを達成するための建築・設備の仕様を定める「仕様基準」の2段階で提案することとし,その性能基準案とそれを達成するための建築・設備による環境調整手法を項目別に示した.

3)都立高校のエネルギー消費削減:都立高校では2008年までにすべての普通教室にも冷房が導入された.新たな設備導入によりエネルギー消費は増加しているはずであるが,都立高校においても大幅な省エネが求められている.そこで,効果的な削減手法を検討する基礎データとして,全都立高校を対象とした調査を行い,エネルギー消費の傾向と冷房導入の影響について検討した.

2.断熱内戸による熱環境改善効果

断熱内戸は高性能断熱材を用いた断熱戸を窓の内側に設置するもので,省エネ性,快適性向上効果が非常に高いことを明らかにしてきた.今年度は,夏季の遮熱性能を実験により検討し,また,アンケート調査を行い,既設置者の使い勝手や希望購入価格などの評価から断熱内戸のあり方について検討した.

3.中国の住宅建築のサスティナブル化(中国 西北工業大学 との国際交流協定による)

 本研究は,「中国の住宅建築におけるサスティナブル化の早期推進」をテーマとして行っている。本年度は,昨年行った陝西省北部(黄土高原)および中部(盆地的地形)の住宅の実測結果を20106月開催の国際会議Renewal Energy 2010で発表した.また,寒冷地域の一般的な戸建住宅である新ヤオトン住宅,レンガ造住宅を対象としてシミュレーションを行い,その熱的特性を明らかにし,さらに建物仕様等を変更した場合の効果を示した.

4.市庁舎の省エネルギー・温熱環境改善効果

 単層ガラスから低放射真空ガラスに改修された三鷹市庁舎を対象に,年間の室内温熱環境改善効果を実測調査とアンケート調査により検討した。その結果,@冬季の上下温度差が,窓際,室中央ともに大きく改善され,さらにA南北の温度差も1℃未満に改善され,その結果,B使用者の温熱感,快適感,特に下半身の温熱感が改善されたことを明らかにした.

5.住宅のエネルギー消費削減に対するHEMSの効果

住宅内のエネルギー消費状況・太陽光発電量をパソコンのモニターに詳細に示すとともに省エネ・コンサルティングも行うHEMS(Home Energy Management System)の効果について,実測とアンケート調査から検討した.モニターを頻繁に見る住宅群は,モニター設置前に比べ1020%消費エネルギーが少なくなるなどの結果を示した.

6.非住宅建築の省エネ性能

建築物への省エネルギー対策を普及・促進するためには,建物用途や規模,築年数等の違いによる建物性能の実態把握を行い,建物性能が低いものから対策を講じる等,効率的な措置が必要である.本研究では,このような観点から文献調査を行い,非住宅建築の建物性能や省エネルギー対策の実態を把握し,各種建物用途の省エネルギー性能やエネルギー消費原単位の傾向,問題点を明らかにした.

7.その他の成果

1)日本建築学会バイオクライマティックデザイン小委員会で「設計のための建築環境学 −バイオクライマティックデザイン−」をまとめているが,主査として全体の編集を行い,また,分担執筆した.2011年5月上旬に発刊される予定である.

2)国際会議Renewal Energy 2010での国際太陽エネルギー学会(International Solar Energy Society)主催のワークショップで,日本の建築分野を代表して”Role of Architecture Field and ISES/JSES for Sustainable Future”と題する講演を行った.

3)日本建築学会大会の環境工学部門研究協議会で,熱環境分野を代表して「地球環境保全に関する熱環境分野の研究成果・社会貢献と喫緊の課題」と題する講演を行った.

4)熊本県水俣第一中学校のエコ改修事業の一環として,これまでの研究成果を用いてエコスクール化に関する講義を行った.

 

2011年度

1.学校建築のエコスクール化

1)エコスクールの実測評価:2011年度は,外断熱,深い庇,クール・ヒートトレンチ(CHT)などの手法を採り入れて設計された東京都杉並区内の3つのエコスクールの実測を行った.これらの学校のCHTはそれぞれ形態が異なっており,それらの効果を比較検討した.その結果,CHTの長さが50mを超えると冷却効果が小さくなることから,経済性を考えるとCHTの長さは50m程度が妥当と考えられることなどを明らかにした

2)学校建築の基準・指針:2010年度に提案した,エネルギー消費量や室内温度範囲などを定める「性能基準」について,上述のエコスクールの夏季,冬季の実測値を用いて検討し,妥当であることを確認した.また,この性能基準を達成するための建築・設備の仕様を定める「仕様基準」については,TSS-STypical Solution Sets for School,地域の気候条件に適合した学校建築の典型的な仕様例)を提案すべく,シミュレーションにより検討した.その結果,南廊下の効果が高いことなどが示された.

3)都立高校のエネルギー消費削減:都立高校においても大幅な省エネが求められているが,2008年までにすべての普通教室にも冷房が導入された結果,エネルギー消費は増加しているはずである.そこで,本研究では効果的な削減手法を検討するため,全都立高校を対象とした調査・検討を行っている.本年度は,2010年度のエネルギー消費データを加えて解析し,冷房導入により年間で約10%の増加になっていることや,PALCECについての検討結果から,断熱性能は改善しつつあるが,近年,庇がなくなっており,この改善が必要であることなどを明らかにした.

4)住宅建築・省エネルギー機構機関誌IBECへの寄稿

 これまでの研究成果を『学校建築における環境性能の現状と今後の課題』と題して,No.187号の特集「学校建築の省エネルギー」の冒頭に寄稿した.

2.断熱内戸による熱環境改善効果

断熱内戸は高性能断熱材を用いた断熱戸を窓の内側に設置するもので,省エネ性,快適性向上効果が非常に高いことを明らかにしてきた.今年度は,開口部に設ける採光部の大きさや位置,配置パターン,および,表面仕上げ材の影響について,実測と被験者による印象評価実験を行った.その結果,室内照明がある場合は,採光率が2%を超えると明るさ感がプラス側になり,7%以上あると高い評価を得ることなどが明らかになった.

また,下記5に記す実際の戸建住宅を対象に,開閉形式や採光部,表面仕上げが異なる様々な試作品を作成し,その作成過程を含めて評価を行った.内倒しでライトシェルフになるものや,丸い孔の採光部が見えたり見えなかったりするものの評価が高いことがわかった.

3.住宅のエネルギー消費削減に対するHEMSの効果

住宅内のエネルギー消費状況・太陽光発電量をパソコンのモニタに詳細に示すとともに省エネ・コンサルティングも行うコミュニケーション型HEMS(Home Energy Management System)の効果について,2010年度より住宅メーカーと協働して,実測とアンケート調査を行い検討している.今年度は,HEMSの設置されている住宅と設置されていない住宅を比較し,前者は後者に比べ平均7.4%消費エネルギーが少ないこと,また,設置邸では快適性を,非設置邸では経済性を重視する傾向のあることなどが明らかになった.

4.大学施設の光環境実態と省エネルギー対策

 東京都は,年間の原油換算エネルギー消費量が原油換算で1,500kl以上の事業所に対して,2010年度からの5年間の平均で8%,その次の5年間は平均17%の削減を求めている.本研究では,大学施設の照明用エネルギーの削減を行うために,教室や研究室などの照度および電力消費量の実測を行い,適切な削減法を検討し提案した.中でも,調光装置を備えている教室ではその効果が大きいが,実際の運用ではスライドスイッチによる調節が難しいことなどが明らかになった.

5.木造戸建住宅の総合改修

 断熱性能向上をメインテーマとして築28年の和洋折衷木造住宅を大規模改修した.既存壁の断熱では,室内側から断熱施工する新しい工法を提案した.すなわち,和室では不燃紙付きフェノールフォーム断熱材を既存の砂壁の上に直接貼り,そのまま現し仕上げとした.また,洋室では,@同上の材料を窓枠のちりと面位置で貼り壁紙仕上げとする方法,A商品化を考慮し,断熱材に先に壁紙を貼ってから,壁に貼り付ける方法の2つを試みた.これらは何れも既存壁を壊すことなく仕上げるもので,断熱改修方法の一つの考え方を示したものである.なお,和室のものは,茶色の砂壁のような風合いを持ち,また光のあて方によって金色に見えることから,特に好評であった.

この住宅は上記2の断熱内戸や太陽光発電など設置されており,今後総合的な性能評価を行う予定である.

6.中国の住宅建築のサスティナブル化(中国 西北工業大学 との国際交流協定による)

 これまでの研究成果をまとめて,中国江西省廬山で開かれた国際学会で発表した.

7.その他の成果

1)日本建築学会バイオクライマティックデザイン小委員会でまとめた「設計のための建築環境学 −バイオクライマティックデザイン−」が,2011年5月上旬に発刊された主査として全体の編集を行うとともに分担執筆した.各方面から「分かり易い」との評価をいただいている.

2)日本建築学会の第41回熱シンポジウムを主催した.上記1)の本の出版を記念したもので,セッション1で「バイオクライマティックデザインの定義」を解説するとともに司会を行い,また,2日目の最終討論の司会を務めた.参加者139名であった.

3)Renewal Energy 2011 展示会(幕張メッセ,201112)でのJCREフォーラム:「省エネ建築」最先端 セミナー:NETゼロ住宅からエネルギー自立住宅へ 〜住宅における自然エネルギー利用とスマートグリッド〜:に参画し,またパネル討論の司会を努めた.

4)国土交通省,営繕技術検討会のコメンテーター(昨年に続き2回目)を務めた.被災時にも最低限の生活環境を維持できるようにするためにも,ゼロエネルギー建築を目指すべきであることなどを述べた.

5)上記1−1)の杉並区のエコスクール調査結果を杉並区へ報告した.

6)熊本県水俣第一中学校のエコ改修事業の総仕上げである改修後の検討会に参加した.

7)大学院生2名が日本太陽エネルギー学会の学生奨励賞を受賞することが決定した(表彰式は5月の総会時).

 

2012年度

1.学校建築のエコスクール化

1)エコスクールの実測評価:当研究室が行った過去の実測結果を考慮して設計された,クール・ヒートトレンチ(CHT)を持つエコスクールが20124月に開校した.この学校のCHTの性能について実測解析を行った.また,これまでの3校についても引き続き実測し,形状の異なる4つのCHTの冷却ならびに冬季の加温性能について比較した.

2)都立高校のエネルギー消費削減と設計指針:リーディングプロジェクトT「新東京省エネ仕様」の一環として,引き続き「都立高校のエネルギー消費削減」について検討した.全都立高校の震災に伴う節電時のエネルギー使用量から,中間期の運用で約15%削減できる可能性のあることを示した.また,新築ならびに既存校舎の断熱や日除けなどの適切な仕様について計算により検討し,新東京省エネ仕様作成の資料を提供した.

2.断熱内戸による熱環境改善効果

断熱内戸は高性能断熱材を用いた断熱戸を窓の内側に設置するもので,省エネ性,快適性向上効果が非常に高いことを明らかにしてきた.今年度は,開口部に設ける採光部の心理的な影響について,室内照明なしの場合について実測を行った.また,昨年度行った実験結果と併せて解析し,開口率や採光部の配置が住宅各室への設置希望度に影響を与えることを示した.

また,断熱内戸の反りについて,人工気候室を用いた実験を行い,試作品の反りの主原因は断熱材両面の紙材の吸放湿(冬季の吸湿,夏季の日射による乾燥)が原因であることを明らかにした.

さらに,下記5に記す実際の戸建住宅に設置された断熱内戸を対象に,断熱内戸を閉めた場合の隙間と窓ガラス面への結露の関係について,実測および計算により検討し,冬季の湿度の低い関東地方であれば,結露の心配は少ないことが明らかになった.

なお,断熱内戸の気密性確保のための戸当たり材および枠材のコーナー部の工夫について,共同研究を行っている()LIXILと共同で特許2件を出願した.

3.住宅のエネルギー消費削減に対するHEMSの効果

住宅内のエネルギー消費状況・太陽光発電量をパソコンのモニタに詳細に示すとともに省エネ・コンサルティングも行うコミュニケーション型HEMS(Home Energy Management System)の効果について,2010年度より積水化学工業()と共同研究を行っている.今年度は,国土交通省の住宅・建築物省CO2先導事業事業に採択された「クラウド型HEMSを活用したLCCO2 60%マイナス住宅」(平成2425年度)の資金を得て,省エネ・コンサルティングに有効な省エネ行動の実行度やストレス,継続性などのデータを得ることを目的に,全国75邸を対象に実験を開始した.

また,その前段として,HEMS設置邸と一般の住宅を対象にアンケート調査を行い,省エネ行動の実行性,継続性,ストレス等の傾向から,実際の家庭への各省エネ行動の推奨度について検討した.

4.木造戸建住宅の総合改修

 断熱性能向上をメインテーマとして築28年の和洋折衷木造住宅を大規模改修した住宅を対象に,室内環境の形成状況とエネルギー収支実態(太陽光発電量や用途別使用量等)について検討した.その結果,運用1年目は年間の発電量が約4000kWh,総エネルギー使用量が約6500kWhで太陽エネルギー依存率が64%であることが明らかになった.また,夏季は発電量が使用量を上回るが,冬季は大幅に使用量が増加し,その主原因が1階居間の暖房(エアコン+床暖房)であり,1月には使用量の50%になることが示された.

また,和室の障子は透光性断熱材を挟んだ太鼓張りにしたが,この夏季・冬季における効果を実測により検討した.その結果,エネルギー消費量が少なくなることのほか,冬季に通常の雨戸+ガラス戸ではガラス面温度に上下温度差がつくが,太鼓障子を使用した場合,室内側の表面温度が室温に近くなり,室温の上下温度差も小さくなることなどが明らかになった.

5.集合住宅の外断熱改修

 外断熱改修(窓ガラスも低放射真空ガラスに交換)の効果を明らかにすべく,多摩NTの集合住宅10148戸について,実測およびアンケート調査を開始した.多摩NTをエネルギー自立型都市にするための,また,震災時に避難しなくて良い集合住宅にするための基礎的なデータにもなると考えている.

6.その他の成果

1)日本建築学会,建築教育委員会において,大学における環境系科目の新しい枠組みを提案した[論文リスト12].この考え方は,本学の新カリキュラムにも取り入れられる.

2)国土交通省,営繕技術検討会のコメンテーター(3回目)を務めた.今年度は,屋上の設備機器の上に太陽光発電パネルを設置した場合,建築面積に算定される可能性が高いので,これを改善すること,また,だれでもトイレの設計データが数多く集められているので,これを標準テンプレートとして作成し,公表することを提案した.

3)多摩市循環型エネルギー協議会主催の講演会で,多摩NTのエネルギー自立には太陽光発電とともに,断熱改修等の省エネルギーを同時に行うことが必須であることを述べた.

 

2013年度

1.学校建築のエコスクール化

1)エコスクールの実測評価:当研究室では,数年にわたりクール・ヒートトレンチ(CHT)を持つエコスクール4校について実測解析を行ってきた.本年度は,これらの実測結果をまとめるとともにCFD解析を行い,CHTの長さと地中梁形状が性能に与えるについて明らかにした.

2)都立高校のエネルギー消費削減と設計指針:リーディングプロジェクトT「新東京省エネ仕様」の一環として,引き続き「都立高校のエネルギー消費削減」について検討した.今年度は,校舎の平面プランと築年数によるエネルギー使用量の違いを示した.また,東京省エネ仕様を他の省エネ仕様・基準と比較し,設備仕様は充実しているが建築仕様を手厚くする必要があることなど,新東京省エネ仕様作成の資料を提供した.さらに、この仕様のモデルビルとなるA事務所の計画に参画した.なお,昨年度の検討結果を,この分野で権威のある国際会議PLEA2013(9月,ミュンヘン市)で発表した.

2.断熱内戸による熱環境改善効果

断熱内戸は高性能断熱材を用いた断熱戸を窓の内側に設置するもので,省エネ性,快適性向上効果が非常に高いことを明らかにしてきた.今年度は,新たな透光性のある断熱材を内蔵した太鼓障子について検討した.この断熱障子に関して考案したことを, 新たに特許申請することになった.

3.住宅のエネルギー消費削減に対するHEMSの効果

住宅内のエネルギー消費状況・太陽光発電量をパソコンのモニタに詳細に示すとともに省エネ・コンサルティングも行うコミュニケーション型HEMS(Home Energy Management System)の効果について,2010年度より積水化学工業()と共同研究を行っている.今年度は,昨年度に引き続き,国土交通省の住宅・建築物省CO2先導事業に採択された「クラウド型HEMSを活用したLCCO2 60%マイナス住宅」(平成2425年度)により,省エネ行動の実行度やストレス,継続性などのデータを得ることを目的に,全国75邸を対象に実験・アンケート調査を行った.全11回の省エネ行動アンケートと事前・中間・事後アンケートを行い,その大量のデータから,ストレスが少なく継続しやすい省エネ行動などを明らかにした.成果を報告書にまとめた.

4.長寿命環境配慮住宅モデルの調査研究

東京都が「長寿命環境配慮住宅モデル事業」で建設した高性能住宅に関する調査研究を依頼され,住宅のエネルギー消費,室内環境,および,省エネ行動の効果について検討を開始した.まず2年間の研究計画を立案した.また,全12棟に温湿度計を設置するとともに,HEMSによる測定データの取得状況について精査した.

5.木造戸建住宅の総合改修

 断熱性能向上をメインテーマとして築28年の和洋折衷木造住宅を大規模改修した住宅を対象に,室内環境の形成状況とエネルギー収支実態(太陽光発電量や用途別使用量等)について継続して検討している.その結果,運用2年目の太陽エネルギー依存率は74%となり,1年目の64%より高くなった.この改修工法や運用結果をゼロエネルギー住宅の国際会議ZEMCH201310月,マイアミ市)で発表した.

6.集合住宅の外断熱改修/災害時の対策

 昨年に引き続き,外断熱改修(窓ガラスも低放射真空ガラスに交換)の効果を明らかにすべく,多摩NTの集合住宅10148戸について,実測およびアンケート調査を行った.端部の住戸における外壁の表面温が室温に近くなることや床付近温度の改善など改修の効果を明らかにするとともに,エネルギー自立型都市や震災時の対策策定の観点からも検討した.

7.居住者の調整行動を利用した空調のアクティブ省エネ制御

 本研究では,既存の中小規模建築にも容易に設置でき,また,省エネによる室内環境の悪化を低減可能なアクティブ省エネ空調制御システムの効果について、実測により検討した.このシステムでは,インターネットを利用して遠隔から設備機器を管理・運用でき,また空調のON/OFFを居住者に許可し、そのON/OFF行動の回数を利用して空調をより適切に制御し、対象室に適切な室内環境と省エネを実現する.本年度は、中規模ビル内のオフィスおける空調制御結果について検討した.

8.その他の成果

1)パリ東大学との国際交流締結に伴う同大学との研究会(10月,パリ市)で,Scientific analysis and technical solutions for energy conservation of building stock -Key findings of TMU Lead Project- と題する約1時間の講演を行った.

2)中国・浙江省杭州市の浙江理工大学から招聘され,同大学でSave the Earth ! Make ZEB Come True! と題する授業(11月)を行うとともに,国際交流協定について協議し合意した.201448日に,調印する予定である.

3)米子市のスマートライフシンポジウム(20141月)で,「スマートタウンに必要なもの 〜徹底した省エネルギー〜」と題する講演とパネルディスカッションを行った.

4)2014年7月に東京ビッグサイトで開催される国際会議GRE2014Grand Renewal Energy 2014の分科会4(環境建築)の論文委員長を務めるとともに,研究室から5編の論文を投稿した.

5)日本太陽エネルギー学会副会長,日本建築学会・環境工学委員会・熱環境運営委員会委員長を務めた.

6)2013年度の日本太陽エネルギー学会学生奨励賞を、中田清君、遠藤裕太君が受賞した.また、川上裕司君の卒業論文が、空気調和・衛生工学会の振興賞学生賞を受賞した.

 

2014年度

1.住宅のエネルギー消費削減に対するHEMSの効果・省エネルギー行動

住宅内のエネルギー消費状況・太陽光発電量をパソコンのモニタに詳細に示すとともに省エネ・コンサルティングも行うコミュニケーション型HEMS(Home Energy Management System)の効果について,2010年度より積水化学工業()と共同研究を行っている.今年度は,昨年度までに調査した「クラウド型HEMSを活用したLCCO2 60%マイナス住宅」(平成2425年度国土交通省の住宅・建築物省CO2先導事業)の大量のデータ(東北〜九州に建つ高性能住宅75邸を対象とした全14回のアンケート調査とエネルギー消費量・温湿度の年間測定結果)を用いて,省エネ行動の実行度やストレス,継続性などの解析を継続し,家族構成や環境配慮意識などに対応した推奨省エネ行動を提案した.

2.長寿命環境配慮住宅モデルの調査研究[熊倉永子助教と協働]

東京都が「長寿命環境配慮住宅モデル事業」で建設した高性能住宅(16)について,昨年度から住宅のエネルギー消費,室内環境,外部環境,および,省エネ行動の効果について調査・検討している.居住後1年間は普通に生活している状況での実測を行い主に建物性能の評価,2年目は冬季,春季,夏季に省エネ教室を開催して,上記1で得られた省エネ効果に関する成果を用いて,各住戸に適した推奨省エネ行動を提案して,太陽熱床暖房システムのある高性能住宅での省エネ行動の効果について検討する.また,多くの樹木が植えられ,また,中央部に園路が設けられたこの住宅地の夏季の熱環境について,植物や打ち水などの冷却効果についても,実測・シミュレーションにより検討している.1年目の建物性能,外部環境に関する検討結果を建築学会に投稿予定した.

3.集合住宅の断熱改修効果と災害時の対策

 昨年に引き続き,外断熱改修(窓ガラスも低放射真空ガラスに交換)の効果を明らかにすべく,多摩NTの集合住宅について,実測およびアンケート調査を行ったデータを用い,住棟端部の住戸における外壁の表面温が室温に近くなることや床付近温度の改善など改修の効果を明らかにした.これらの解析結果を多摩NTの居住者などに報告し,学会にも発表した.また,多摩NTをエネルギー自立型都市に変換するという視点や,災害時に避難所に行かないようするという視点からも検討を行い,本学の総合防災研究報告会(20153)で報告した.

4.アジアにおける集合住宅の熱性能向上[熊倉永子助教と協働]

 中国を筆頭にアジアでは集合住宅の建設が急ピッチで行われ,エネルギー消費の増加が危惧されているが,集合住宅の省エネルギー,特に室内温熱環境に関する研究は少ない.そこで,集合住宅の熱性能向上に資するために,アジア各地における集合住宅の室内温熱環境を明らかにすることを目的として,文献研究,実測およびアンケート調査を開始した.まず,日本と中国について文献研究を行い,両国とも集合住宅の室内温熱環境に関する研究が少ないこと,特に夏季の室内環境についての研究が少なく,日本では暑さの厳しいX地域,Y地域についてはほとんど研究データがないことを明らかにした.そこで,近年住宅内での熱中症が増加してこともあり,東京以西を対象として実測調査することとし,現地の研究者の協力を得られた日本の熊本市,中国の山東省青島市,浙江省杭州市で実測調査およびアンケート調査を行った.現在それらの結果について解析中であるが,特に夏季の熱中症防止の観点から検討を行っている.

5.居住者の調整行動を利用した空調のアクティブ省エネ制御

 本研究では,既存の中小規模建築にも容易に設置でき,また,省エネによる室内環境の悪化を低減可能なアクティブ省エネ空調制御システムの効果について,実測により検討した.このシステムは,インターネットを利用して遠隔から設備機器を管理・運用でき,また空調のON/OFFを居住者に許可し,そのON/OFF行動の回数を利用して空調をより適切に制御し,対象室に適切な室内環境と省エネを実現するものである.2年間の実際の制御結果,室内環境調査およびアンケート調査の結果から,このシステムの有効性を明らかにした.例えば,対象ビルでは夏季の室温が27℃程度で概ね許容できる環境に制御されたこと,また,過度の空調や無駄を削減することで空調エネルギー消費量が46%程度削減されたことなどを示した.

6.除湿型天井放射冷房の効果[福留伸高特任助教と協働]

 天井放射冷房は,頭寒足熱という人体の快適状態を形成するとともに,エアコンなどのように不快な気流を発生させないため,快適な冷房システムである.また,冷放射を利用するため空気温度を高めにすることができ,省エネルギー性があると言われている.本研究では,放射パネルの表面温度を下げて結露させることで調湿を行うこともできる天井除湿型放射空調システムについて,都内の大学図書館を対象として,運転方法を変えて実測および在室者へのアンケート調査を行い,形成された室内温熱環境を明らかにするとともに,適切な運転方法を提案した.

7.環境性能向上を主題とした戸建住宅の改修

 これまで和洋折衷木造住宅を大規模改修した住宅の室内環境の形成状況とエネルギー収支について検討してきた.本年度は,文献調査により,住宅の省エネ改修に関連する実態・行政政策を調査するとともに,建築専門誌に掲載された戸建て住宅改修事例の収集・分析を行った.その結果,戸建て住宅の改修による省エネ性能向上に関する普及援助策は2011年頃より整備され,今後も整備が強化されるが,本格的な普及には至っていないことを確認した.また太陽エネルギーを利用した温水・発電機器の普及率が低いことが示された.

8.縦型上下外開き窓の通風性能効果

 夏季の電力ピークを低減する涼房手法として自然通風が注目されている.一般に,通風効果を得るには風の入口と出口を適切に設けることが必要であり,片側のみ外気に面する部屋では通風を図ることが難しい.本研究では,片側開口居室で通風効果を得るために開発された縦型上下外開き窓(上部窓と下部窓の開き方向が異なる)の通風性能について実大実験を行い,温熱環境改善効果が見込めること,また引違い窓を用いた場合より室内の上下温度差が小さいことなどを示した.

9.その他の活動・成果

1)中国・浙江省杭州市の浙江理工大学との国際交流協定を,201448日に調印した.

2)2014年7月に東京ビッグサイトで開催された国際会議GRE2014Grand Renewal Energy 2014の分科会4(環境建築)の論文委員長を務めた.

3)20159月にイタリアで開催されるPLEA2015Passive and Low Energy Architectureの審査員を務めた.PLEAは,環境共生建築の分野において最も大きな国際会議である.

4)日本太陽エネルギー学会理事,日本建築学会・環境工学委員会・熱環境運営委員会委員長等を務めた.

5)東京都瑞穂町の「新庁舎建設基本計画協議会委員」,環境共生住宅推進協議会の「住宅におけるパッシブシステム効果の定量評価ツール開発方針の策定事業検討委員会委員」などを務めた.

6)2013年度日本太陽エネルギー学会学生奨励賞(20145月表彰)を、中田清君(M2)、遠藤裕太君(M1が受賞した.

7)国際会議GRE201420147月)で,荻野司君D2)がBest Oral Presentation Awardを受賞した.

8)日本建築学会2013年度修士論文賞(20149月表彰)を木下雅広君が受賞した.

9)日本建築学会の2014年度若手優秀研究発表として,増井周平君(M2)と小倉啓介君(M1が顕彰された(201412)

 

2015年度

1.住宅のエネルギー消費削減に対するHEMSの効果・省エネルギー行動

住宅内のエネルギー消費状況・太陽光発電量をパソコンのモニタに詳細に示すとともに省エネ・コンサルティングも行うコミュニケーション型HEMS(Home Energy Management System)の効果について,2010年度より積水化学工業()と共同研究を行ってきた.今年度は,昨年度までに調査した「クラウド型HEMSを活用したLCCO2 60%マイナス住宅」(平成2425年度国土交通省の住宅・建築物省CO2先導事業)の大量のデータ(東北〜九州に建つ高性能住宅75邸を対象とした全14回のアンケート調査とエネルギー消費量・温湿度の年間測定結果)を用いて,高性能住宅における住まい方特性の把握と住宅運用による省エネ余地(エネルギー消費削減ポテンシャル)を明らかにした.

2.長寿命環境配慮住宅モデルの調査研究[熊倉永子助教と協働]

東京都が「長寿命環境配慮住宅モデル事業」で建設した高性能住宅(16)について,201310月から住宅のエネルギー消費,室内環境,外部環境,および,省エネ行動の効果について調査・検討している.居住後1年間は普通に生活している状況での実測を行い主に建物性能の評価,2年目は冬季,春季,夏季に省エネ教室を開催して,上記1で得られた省エネ効果に関する成果を参考に,各住戸に適した推奨省エネ行動を提案して,太陽熱床暖房システムのある高性能住宅での省エネ行動の効果について検討した.また,多くの樹木が植えられ,また,中央部に園路が設けられたこの住宅地の夏季の熱環境について,植物や打ち水などの冷却効果についても,実測・シミュレーションにより検討した.居住2年間のエネルギー消費量から,太陽熱利用などにより夏期のピークがなく,また,上記1の高性能住宅より消費量が少ないこと,さらに,太陽光発電により二酸化炭素排出量が一般住宅の25%程度であることが明らかになった.

3.住宅の断熱水準と暮らしの質に関する研究

 住宅の断熱水準が飛躍的に向上すると,居住者の快適性が向上するとともに,居住者の行動や意識が変化する可能性がある.本研究は,旭化成建材株式会社との共同研究であり,夏季冬季の実測調査とアンケート調査,さらにWEB調査により,高断熱の効果について検討するものである.本年度は,断熱性能の異なる住宅の夏季調査より,断熱性能が高い住宅の方が温熱満足度高いこと,居間での上下温度差と室間温度差が小さくなることなどを示した.

4.環境性能向上を主題とした戸建住宅の改修

 本年度は,住宅・土地統計調査と建築専門誌を用いた省エネ改修普及実態の調査・分析と住宅の省エネ改修に関する行政施策の調査・分析を行い,消費者に対するインセンティブは「工事費・整備費の補助」「税制優遇」「融資・金利優遇」「ポイント発行」の4つに大きく分類できることや,住宅改修工事のみを対象とした支援事業や制度は2008年以降に行われ始めたことなどを示した.

5.アジアにおける集合住宅の熱性能向上[熊倉永子助教と協働]

 中国を筆頭にアジアでは集合住宅の建設が急ピッチで行われ,エネルギー消費の増加が危惧されているが,集合住宅の省エネルギー,特に室内温熱環境に関する研究は少ない.そこで,集合住宅の熱性能向上に資するために,2014年度からアジア各地における集合住宅の室内温熱環境を明らかにすることを目的として,文献研究,実測およびアンケート調査を行っている.今年度は,室内温熱環境についての研究がほとんど無く,暑さの厳しいY地域に属する沖縄県那覇市の集合住宅については,夏季と冬季に実測・アンケート調査を行った.また,昨年調査した日本の多摩市と熊本市,中国の山東省青島市と浙江省杭州市で調査解析結果を国際会議で発表した.

6.居住者の調整行動を利用した空調のアクティブ省エネ制御

 本研究では,既存の中小規模建築にも容易に設置でき,また,省エネによる室内環境の悪化を低減可能なアクティブ省エネ空調制御システムの効果について,実測により検討した.このシステムは,インターネットを利用して遠隔から設備機器を管理・運用でき,また空調のON/OFFを居住者に許可し,そのON/OFF行動の回数を利用して空調をより適切に制御し,対象室に適切な室内環境と省エネを実現するものである.今年度は,2年間の実際の制御結果,室内環境調査およびアンケート調査の結果から,このシステムの有効性,さらに今後は室内機ごとに制御する必要性を明らかにし,論文発表した.

7.除湿型天井放射冷房の効果[福留伸高特任助教と協働]

 天井放射冷房は,頭寒足熱という人体の快適状態を形成するとともに,エアコンなどのように不快な気流を発生させないため,快適な冷房システムである.また,冷放射を利用するため空気温度を高めにすることができ,省エネルギー性があると言われている.本研究では,放射パネルの表面温度を下げて結露させることで調湿を行うこともできる天井除湿型放射空調システムについて,都内の大学図書館を対象として検討した.その成果に対して,2015グッドデザイン賞,建築設備綜合協会環境デザイン賞を受賞した.

8.縦型上下外開き窓の通風性能効果

 夏季の電力ピークを低減する涼房手法として自然通風が注目されている.一般に,通風効果を得るには風の入口と出口を適切に設けることが必要であり,片側のみ外気に面する部屋では通風を図ることが難しい.本研究では,()LIXILの協力を得て,片側開口居室で通風効果を得るために開発された縦型上下外開き窓(上部窓と下部窓の開き方向が異なる)の通風性能について検討している.今年度は,気流解析ソフトSTREAM v12を行いたシミュレーションを行い,開閉方向などによる温熱環境改善効果の違いについて検討した.

9.その他の活動・成果

1)建築都市コース長,建築学域長を務めた.

2)日本太陽エネルギー学会理事,日本建築学会・バイオクライマティックデザイン小委員会委員などを務めた.

3)東京都の「財務局建築技術革新支援事業技術審査」委員会委員,技術職員研修「技術セミナーU」講師を務めた.

4)東京都瑞穂町の「新庁舎建設基本設計業務プロポーザル選定」委員会委員,また(社)環境共生住宅推進協議会の「住宅におけるパッシブシステム効果の定量評価ツール開発事業」検討委員会委員などを務めた.

5)除湿型天井冷()房システム(東京歯科大学図書館に設置)で,下記を受賞した。

・建築設備総合協会 環境デザイン賞 優秀賞(設備器具・システムデザイン部門)

2015グッドデザイン賞

6)2014年度日本太陽エネルギー学会学生奨励賞(20155月表彰)を、増井周平君(発表当時M2)小倉啓介君(同M1)、中島風君(同M1が受賞した.

7)日本建築学会の2015年度若手優秀研究発表として,中野郁也君M1)が顕彰された(201512)

8)食野遼君の卒業論文が空気調和・衛生工学会 振興賞学生賞を受賞した。

 

2016年度

1.長寿命環境配慮住宅モデルの調査研究[熊倉永子助教,小野寺宏子特任研究員と協働]

東京都都市整備局からの委託により,「長寿命環境配慮住宅モデル事業」で建設した高性能住宅(16)について,201310月から住宅のエネルギー消費,室内環境,外部環境,および,省エネ行動の効果について調査・検討し,今年度報告書をまとめた.年目普通生活している状況で,2年目冬季春季夏季に開催したエネ教室などで各住戸に適した推奨省エネ行動を提案して実測を行い,太陽熱床暖房システムのある高性能住宅の性能および省エネ行動の効果を明らかにした.また,多くの樹木が植えられ,中央部に園路が設けられたこの住宅地の夏季の熱環境についても,打ち水などの冷却効果を含めて,実測・シミュレーションにより明らかにした.まとめとして,この住宅は太陽光発電,太陽熱利用等により二酸化炭素排出量が一般住宅の25%程度であること,また今後のZEH実現のためには通年を通しての太陽熱給湯の利用,外皮断熱・日射遮蔽性能のさらなる向上,および,居住者のさらなる省エネ行動実施が必要なことを述べた.

2.住宅の断熱水準と暮らしの質に関する研究(小野寺宏子特任研究員と協働)

 住宅の断熱水準が飛躍的に向上すると,居住者の快適性が向上するとともに,居住者の行動や意識が変化する可能性がある.本研究は,旭化成建材株式会社との共同研究であり,夏季冬季の実測調査とアンケート・WEB調査により,高断熱化の効果について検討している.また,今年度竣工した居住体験棟の基本的な熱性能についても,実験的な実測により検討した.特筆すべき成果として,アンケート・WEB調査においては,一般居住者にも回答できる窓の種類で住宅の断熱性能を代替できることを示したことがあげられる.また,研究成果を用いて,高断熱化の効果に関する講演会を開催した.

3.アジアにおける集合住宅の熱性能向上[熊倉永子助教と協働]

 中国を筆頭にアジアでは集合住宅の建設が急ピッチで行われ,エネルギー消費の増加が危惧されているが,集合住宅の省エネルギー,特に室内温熱環境に関する研究は少ない.そこで,集合住宅の熱性能向上に資するために,2014年度からアジア各地における集合住宅の室内温熱環境を明らかにすることを目的として,文献研究,実測およびアンケート調査を行っている.今年度は,中国の暑熱地域である広州市,厳寒地のハルピン市,日本の[地域に属する沖縄県那覇市の集合住宅について,実測・アンケート調査を行った.さらに,中国の5つの気候区における各種省エネ手法の効果の違いをシミュレーションにより検討し,その成果を日本建築学会論文報告集に投稿し,20174月号に掲載が決定した.

4.縦型上下外開き窓の通風性能効果

 夏季の電力ピークを低減する涼房手法として自然通風が注目されている.一般に,通風効果を得るには風の入口と出口を適切に設けることが必要であり,片側のみ外気に面する部屋では通風を図ることが難しい.本研究では,()LIXILの協力を得て,片側開口居室で通風効果を得るために開発された縦型上下外開き窓(上部窓と下部窓の開き方向が異なる)の通風性能について,世界的な気流解析ソフトSTREAMを行いたシミュレーション(CFD解析)により検討している.今年度は風向による通風効果の違いなどについて検討し,風向が窓面から30度および150度の場合に,風通量が最大になることなどを明らかにした.

5.美術館収蔵庫の空調改善

 本研究では,前川建築設計事務所との協働で,K美術館収蔵庫内の空調による詳細な熱環境について,実測およびCFD解析により検討している.収蔵庫内は年間を通じて一定の温湿度を保つ必要があるが,庫内には収納家具や多くの美術品の箱があり,これらと空調の吹出口,吸込口との関係で気流の届かないデッドなスペースが生じる可能性がある.今年度は,空調改修工事が予定されているK美術館を対象に,実測を行った.また,その結果に基づいて詳細なCFD解析モデルを作成し,測定結果と符合する結果を得た.現在,改修後について検討している.

6.建築外部空間の熱環境改善(熊倉永子助教との協働)

 本年度は,昨年度より行っている2020年オリンピックマラソンコースの温熱環境,および,温冷感に関する位置情報付きツイートを用いた都市温熱環境の分析を行った.前者については,昨年度の成果を論文発表するとともに,街区の表面温度を計算できるプログラム,サーモレンダーを用いたシミュレーション解析の計算条件について検討した.後者については,約6,000の「暑い」「涼しい」を含むツイートを対象にして解析し,暑いツイートでは建物の占める面積が涼しいツイートの約3倍あり,涼しいツイートでは樹木の面積が暑いツイートの約2倍であることなどを明らかにした.

7.アクティブ省エネ空調制御システム

 本研究では,既存の中小規模建築にも容易に設置でき,また,省エネによる室内環境の悪化を低減可能なアクティブ省エネ空調制御システムの効果について,実測により明らかにした.今年度は,この研究の成果,すなわち,システムの有効性や今後室内機ごとに制御する必要性などを論文発表した.

8.その他の活動・成果

1)日本太陽エネルギー学会副会長,日本建築学会・バイオクライマティックデザイン小委員会委員などを務めた.

2)東京都財務局の委員会委員,および上記研究内容1の報告会講師を務めた.

3)東京都瑞穂町の「庁舎建設に係わるアドバイザー」,また(社)環境共生住宅推進協議会の「住宅におけるパッシブデザイン効果の定量評価ツール開発・普及展開事業」検討委員会委員,成田空港株式会社「省エネ・オープン化検討会」委員などを務めた.

4)2015年度日本太陽エネルギー学会学生奨励賞(20165月表彰)を、小倉啓介君(発表当時M2)、中島風君(同M2),倉持黎君(同M1が受賞した.また,2016年度についても,渡邉玲央君(同M2)が受賞する(20175)ことが決定した。

5)日本建築学会の2016年度関東支部優秀研究報告集(学生部門ではなく一般部門)に,竹田紘治郎君M1)が選出された(20173)

 

2017年度

1.長寿命環境配慮住宅モデルの調査研究(熊倉永子助教,小野寺宏子特任研究員と協働)

昨年度,東京都都市整備局からの委託による「長寿命環境配慮住宅モデル事業」で建設した高性能住宅(16)についての報告書をまとめたが,今年度,その成果を広く都民に周知するパンフレットにまとめた.これは,6月に都庁のホームページに掲載された.また,この研究の成果は一般の住宅雑誌にも紹介された.一方,その実測データを用いてさらに解析を行った「自然エネルギー複合利用住宅のエネルギー消費実態とZEH実現への課題」と題した論文が日本建築学会論文報告集に掲載された.

2.住宅の断熱水準と暮らしの質に関する研究(小野寺宏子特任研究員と協働)

 住宅の断熱水準が飛躍的に向上すると,居住者の快適性が向上するとともに,居住者の行動や意識が変化する可能性がある.本研究は,旭化成建材株式会社との共同研究であり,夏季冬季の実測調査とアンケート・WEB調査により,高断熱化の効果について検討している.また,昨年度竣工した居住体験棟の基本的な熱性能についても,実験的な実測および気流解析により検討した.アンケート・WEB調査の解析結果は,共同研究先からプレス発表した.また,昨年,一般居住者にも回答できる窓の種類で住宅の断熱性能を代替できることを示したが,今年度はそれを既往研究事例から統計的に裏付けた.居住体験棟の解析からは,家庭用小型エアコンと暖冷気の循環を補助する送風ファンによる全館暖冷房システムの快適性・省エネ性を明らかにした.

3.環境性能向上を主題とした住宅の改修方法(小野寺宏子特任研究員と協働)

 これまで,断熱内戸,和洋折衷木造住宅を大規模改修した住宅,住宅の省エネ改修実態・行政政策などの研究を行ってきたが,今年度は,住宅メーカーの研究会に参画し,戸建住宅の部分断熱改修の提案および改修前後の実測調査を行った.また,改修に対する戸建住宅居住者の意識調査を行うべく,アンケートの作成および調査先への依頼を行った.

4.アジアにおける集合住宅の熱性能向上(小野寺宏子特任研究員と協働)

 中国を筆頭にアジアでは集合住宅の建設が急ピッチで行われ,エネルギー消費の増加が危惧されているが,集合住宅の省エネルギー,特に室内温熱環境に関する研究は少ない.そこで,集合住宅の熱性能向上に資するために,2014年度からアジア各地における集合住宅の室内温熱環境を明らかにすることを目的として,文献研究,実測およびアンケート調査を行っている.今年度は,(一財)住総研の研究助成を得て,日本の蒸暑地域である気候区分7地域の高知県,8地域の沖縄県における集合住宅について,夏季・冬季の実測・アンケート調査を行った.また,中国の5つの気候区における各種省エネ手法の効果の違いをシミュレーションにより検討した結果が日本建築学会論文報告集に掲載され,また,PLEA2017でも採択され,発表した.

5.美術館収蔵庫の空調改善

 本研究では,前川建築設計事務所との協働で,昨年度よりK美術館収蔵庫内の空調による詳細な熱環境について,実測およびCFD解析により検討している.収蔵庫内は年間を通じて一定の温湿度を保つ必要があるが,庫内には収納家具や多くの美術品の箱があり,これらと空調の吹出口,吸込口との関係で気流の届かないデッドなスペースが生じる可能性がある.今年度は,K美術館の空調改修工事前後の温湿度・気流性状について,詳細なCFD解析を行い,改修効果を検討した.また,改修後の冬季の室内温熱環境を実測した.今後,改修後の夏季の実測を行う予定である.

6.建築外部空間の熱環境改善(熊倉永子助教との協働)

 本年度は,昨年度より行っている温冷感に関する位置情報付きツイートを用いた都市温熱環境の分析と2020年オリンピックマラソンコースの温熱環境に関する研究,および緑化助成制度に関する研究を行った.ツイートの研究ではデータ数を格段に増やして解析を行い,マラソンコースについても対象地点を増やしてシミュレーション解析を行い,どちらも学会に発表した.東京都の緑化助成制度についても学会に発表した.

7.その他の活動・成果

1)日本太陽エネルギー学会副会長,日本建築学会・バイオクライマティックデザイン小委員会委員などを務めた.

2)東京都の委員会委員,またを東京都瑞穂町の「新庁舎建設に係わるアドバイザー」を務めた.また,(社)環境共生住宅推進協議会の「住宅におけるパッシブデザイン効果の定量評価ツール開発・普及展開事業」検討委員会委員を務めた.

3)岡崎史門君が,本学科の2017年度卒業論文選奨に選ばれた.

4)20175月に2016年度日本太陽エネルギー学会学生奨励賞を渡邉玲央君(当時M2)が受賞した.また,2017年度の同賞を食野遼君M2)が受賞することが決定した(20185月表彰)

5)日本建築学会の2017年度関東支部優秀研究報告集(学生部門ではなく一般部門)に,昨年に続き竹田紘次郎君M2)が選出された(20183)

 

2018年度

1.住宅の断熱水準と暮らしの質に関する研究(小野寺宏子特任研究員と協働)

 住宅の断熱水準が飛躍的に向上すると,居住者の快適性が向上するとともに,居住者の行動や意識が変化する可能性がある.本研究は,旭化成建材株式会社との共同研究であり,夏季冬季のwebアンケート調査や実測調査により,高断熱化の効果について検討している.

本年度は,webアンケート調査からは,高断熱住宅では各室が温熱的に快適なることから様々な家事がおっくうではなくなるなどの解析結果を論文発表するとともに,共同研究先からプレス発表した.また,昨年度から検討していた断熱性能別の光環境評価については,web調査と体験棟を用いた印象評価実験から,高断熱になるほど光環境の評価も高くなること等を明らかにした.さらに,浴室および脱衣室の熱環境についても,web調査および実験から,高断熱住宅では入浴時の熱的なストレスが小さいこと,既存住宅ではまず断熱を強化してから個別の寒さ対策を行うようにするなどの対策を示した.光環境については,日本太陽エネルギー学会研究発表会で発表し,学生奨励賞を受賞した.

2.環境性能向上を主題とした住宅の改修方法(小野寺宏子特任研究員と協働)

 これまで,断熱内戸,和洋折衷木造住宅を大規模改修した住宅,住宅の省エネ改修実態・行政政策などの研究を行ってきたが,今年度は,築年数が平均32年の戸建住宅団地を対象にアンケート調査を行い,リフォームをしない理由として「現状に問題は感じているが,高いお金を出すくらいなら我慢する」というものが多いこと,断熱改修は認知度が低いものの興味は持たれていることなどを明らかにした.また,部分的に断熱改修した断熱性能の低い既存戸建住宅の改修前後の室内熱環境を実測し,その効果を示した.アンケート調査結果については,上記同様日本太陽エネルギー学会学生奨励賞を受賞した.

3.アジアにおける集合住宅の熱性能向上(熊倉永子助教・小野寺宏子特任研究員と協働)

 中国を筆頭にアジアでは集合住宅の建設が急ピッチで行われ,エネルギー消費の増加が危惧されているが,集合住宅の室内温熱環境や省エネルギーに関する研究は少ない.そこで,集合住宅の熱性能向上に資するために,2014年度からアジア各地における集合住宅の室内温熱環境を明らかにすることを目的として,文献研究,実測およびアンケート調査を行っている.今年度は,昨年に(一財)住総研の研究助成を得て行った,夏季に蒸暑地域となる高知県,沖縄県の集合住宅についての実測・アンケート調査の結果を,過去の調査データと合わせて解析した.その結果は住総研の研究論文集に掲載され,審査員からは貴重な調査結果であるとの評価を得た.

4.美術館収蔵庫の空調改善

 本研究では,前川建築設計事務所との協働で,昨年度よりK美術館収蔵庫内の空調による詳細な熱環境について,実測およびCFD解析により検討してきた.収蔵庫内は年間を通じて一定の温湿度を保つ必要があるが,庫内には収納家具や多くの美術品の箱があり,これらと空調の吹出口,吸込口との関係で気流の届かないデッドなスペースが生じる可能性がある.今年度は,K美術館の空調改修工事後の夏季の室内温湿度・気流性状について実測を行い,改修前より室内温度や湿度の変動が小さく良好になったことなどを明らかにした.また,詳細なCFD解析を行い,外壁断熱を行わなかった場合の効果などについても検討した.

5.建築外部空間の熱環境改善(熊倉永子助教との協働)

2020年オリンピックマラソンコースの温熱環境に関する研究では,昨年度までの検討結果を学会発表し,日本建築学会若手優秀発表賞とヒートアイランド学会ベストポスター賞を受賞した.本年度は,マラソンコースが変更されたことから解析対象地点を変更すると同時に,解析地点数も増やして再検討した.また,都市部における緑化の効果については,都市緑化の先進都市シンガポールと東京都心を比較検討し,緑化制度の違いによりシンガポールでは途中階のスカイテラスの緑化が多いが,東京では地表面の緑化が多いことなどを明らかにした.

6.都市の緑化された空地における夜間の光環境

 近年,建物に付随する空地には緑化が行われることが多く、その結果昼間の魅力は向上したものの、夜間は暗がりの増加等により利用者が不安を感じていることも考えられる.そこで本研究では、都市の緑化された空地における夜間の光環境と空地利用者が受ける印象の実態を明らかにし、夜間の空地の魅力向上手法について検討・提案した。

7.その他の活動・成果

1)須永修通が日本太陽エネルギー学会会長に就任した.また,日本建築学会・バイオクライマティックデザイン小委員会委員などを務めた.

2)須永修通が東京都の委員会委員や東京都瑞穂町の「新庁舎建設に係わるアドバイザー」を務めた.また,(社)環境共生住宅推進協議会の「住宅におけるパッシブデザイン効果の定量評価ツール開発・普及展開事業」検討委員会委員を務めた.

3)岡崎史門君筆頭の論文がヒートアイランド学会研究発表会のベストポスター賞を受賞した.

4)岡崎史門君が,2018年度日本建築学会大会の若手優秀発表賞を受賞した.

5)20185月に2017年度日本太陽エネルギー学会学生奨励賞を食野遼君(当時M2)が受賞した.また,2018年度の同賞に千葉啓祐君(M2)と坂西未悠君(M2)が選出された(20195月表彰)

6)伊藤佳乃子君が,建築都市コース卒業論文選奨,および,空気調和・衛生工学会の振興賞学生賞を受賞した.

 

2019年度

1.住宅の断熱水準と暮らしの質に関する研究(小野寺宏子特任研究員と協働)

 住宅の断熱水準が飛躍的に向上すると,居住者の快適性が向上するとともに,居住者の行動や意識が変化する可能性がある.本研究は,旭化成建材株式会社との共同研究であり,夏季冬季のwebアンケート調査や実測調査により,高断熱化の効果について検討している.

本年度は,新たなwebアンケート調査を行い,人間の「リラックス」の状態や意識について検討した。また,これまでの研究成果を集約し,一般の方向けの高断熱化推進読本の編集を行った。この本は,20205月末に出版予定である.

2.環境性能向上を主題とした住宅の改修方法(小野寺宏子特任研究員と協働)

 これまで,断熱内戸,和洋折衷木造住宅を大規模改修した住宅,住宅の省エネ改修実態・行政政策などの研究を行ってきたが,今年度は,部分断熱改修の効果と費用について,標準的な戸建住宅を対象として,シミュレーションにより検討した.最低限の脱衣室・浴室の改修から住宅全体までの改修効果を示し,居住者の意識や予算に応じた改修方法を提案した.

3.住宅内における熱中症危険度に関する意識調査

 2014年度からアジア各地における集合住宅の室内温熱環境を明らかにすることを目的とした調査を行ってきたが,日本国内の調査では,実測および住まい方などのアンケート調査とともに,熱中症危険度に関する意識についても調査を行ってきた.これまでの調査では,夏季に蒸暑地域となる沖縄県,高知県,および多摩ニュータウンの集合住宅について行ったが,今年度は,夏比較的涼しい,北海道旭川市,新潟県新潟市の住宅について,実測・アンケート調査を行い,過去の調査データと合わせて解析した.どの地域でも,居住者の考える危険度は実際の危険度より低いこと,また,地域気候により危険度の指標に修正を加える必要があることなどを明らかにした.また,その修正方法を試作した.

4.都市の外部空間における熱環境改善(熊倉永子元助教との協働)

ここ数年,都市の街路における暑熱環境対策について,2020年東京オリンピックマラソンコースを対象とした研究を行ってきたが,本年度は,遮熱舗装の効果を通常のアスファルト舗装と比較して,実験により検討した.また,マラソンコース全体における熱放射環境をシミュレーションにより検討した.さらにコースが札幌に変更されたことから,札幌コースにおける熱放射環境についても解析した.

5.都市の住宅地における緑の効果と居住者意識(熊倉永子元助教との協働)

 5年前に,東京都内に新築された園路を共有する戸建住宅地における緑の実態と居住者意識に関する調査を行ったが,緑が成長した今年度,緑の成長とその緑に対する住民の意識およびその変化に関する調査を行った.樹木が成長したことによりその影によって地表面の温度が低下したことや,緑視率が同程度のとき園路が長く見える地点ほど居住者の評価が高いことなどを明らかにした.

6.住宅内の行為に対する光の色温度と照度の適切な範囲

 近年、LEDの発展により調光・調色機能の付いた器具が増え,住宅においても照度や色温度を調節して快適な空間を作ることが可能となっている。しかしながら,住宅内で行われる行為ごとの適切な色温度と照度の範囲について,解析した研究はほとんどない.そこで本研究では、文献研究及び実大空間での印象評価実験から、具体的な行為に適した照明条件について検討した。その結果,文献研究から7つの行為に対する色温度と照度の適切な範囲をまとめ,また,実際の空間での被験者実験から,「読書する」「雑談する」「休息を取る」の3つの行為について,適切な範囲を図示した。

7.その他の活動・成果

1)須永修通が日本太陽エネルギー学会会長を務めた.また,日本建築学会・バイオクライマティックデザイン小委員会委員などを務めた.

2)須永修通が東京都の委員会委員や東京都瑞穂町の「新庁舎建設に係わるアドバイザー」を務めた.また,(社)環境共生住宅推進協議会の「住宅におけるパッシブデザイン効果の定量評価ツール開発・普及展開事業」検討委員会委員を務めた.

3)田中佑一カ君(M2)が,2019年度日本太陽エネルギー学会学生奨励賞を受賞した.

 

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