八王子中心市街地のフロートビジョンとアクション

  景観絵本「八王子まちなか景観みらいものがたり」の取り組み

概要

 

八王子中心市街地の魅力を高めるまちづくりを景観行政との連携で取り組む方法として、地域観光プラニング研究会(代表:川原)が提案する計画メソッドのひとつ「フロートビジョン」策定を核として進めているプロジェクトです。
市民ワークショップと専門家会議の両輪で議論をして、景観絵本「八王子まちなか 景観みらいものがたり」というフロートビジョンを作成し、これにもとづくアクションを起こしています。
八王子市まちなみ景観課ほかとの連携プロジェクト研究です。川原は全体ディレクターとして参画し、研究室活動として学生と共に「アシナミドリ」、「黒塀キャンバス」という複数のアクションを推進中!
2023年度 都市景観大賞 景観まちづくり活動・教育部門の優秀賞を受賞!プレスリリース(国土交通省)

計画メソッド

 

メソッド1 フロートビジョンの作成

その方法は、第一に、多くの人がめざしたいと共感が得られる未来の景観・活動イメージを、既存計画や事業性をひとまず棚上げして「フロートビジョン※」としてビジュアル化することです。
 
これは、関わりたい人や投資したい人を惹きつけるようなエリアの価値やポテンシャルをシーン(光景)として描くことを大事にして、尖った提案やワクワクする提案を優先的・積極的に示す将来像の形です。そのために、なぜやるか (WHY)、なにを (WHAT)、どこでやるか (WHERE) を描きます。  

 
※フロートビジョンの考え方は研究会メンバーである(有)ハートビートプラン泉英明氏が提唱したものを地域観光プランニング研究会で深めてきました。

 
 


メソッド2 迅速なアクションの実施

第二に、その実現に資するアクションを迅速に行政、市民、事業者、大学等で起こしていくことです。近年注目されているタクティカルアーバニズムで言われているように、短期間でも、少額、少人数からでも動き、まちなかに示していくこと、運動を起こしていくことを目指します。八王子では、市内の複数の大学研究室からスタートしています。
 
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課題とチャレンジ

 
絹産業を基盤に発展し、“桑都”と称された八王子。すでに中心市街地に多様な活動がある中で、活動シーン含めて景観形成を考えたいが、そのイメージが官民で共有されていないと考えました。
また、行政の上位計画や分野別計画は言葉による将来目標があるものの、市民にとってわかりやすい具体的な絵姿がないことも、エリアの将来像が共有されていない一因と考えました。
そこで、多様な施策の結果として立ち現れる景観にたずさわる景観行政の立場からこの課題に取り組むことにしました。分野を横断するアーバンデザインとしてのチャレンジとも言えます。


 

取り組み詳細

 

2021年度 フロートビジョン作成(ワークショップ+専門家会議)

 
尖った提案やワクワクする提案を優先的・積極的に示す必要があることから、まちづくり等を専門とする大学生有志や、魅力的なアイデアと地域活動に携わる地元関係者等の参画を求めました。その経験を融合させるため、複数回のまち歩きやワークショップを実施しました。
 
コンサルタントの方に、繰り返したくさんの、スケッチを描いてもらいながらワークショップを行なってきました。
 
ワークショップから提案されたアイデアの魅力を保ちつつ、現実的な課題とすり合わせるために、ワークショップに先立ち、景観デザイン会議において、分野ごとの専門家(都市デザイン・観光:東京都立大学 川原、土木デザイン:国士舘大学 二井昭佳教授、照明・環境デザイン:ナグモデザイン事務所 南雲勝志代表)の意見を集約しています。


まちなかに関わる部署の市職員を対象としたワークショップも開催しました。描かれた未来像の実現方策を議論することで、市職員の方にとっても既存事業との関わりを考えたり、ルールに囚われない自由な発想をもつ好機となり、全庁的理解の促進に繋がりました。 
30 年後の将来像を考えることにして、既存計画の枠にとらわれずに議論を重ねましたが、(狙っていたことではありますが)結果的に議会や全庁的な理解が得られました。
そのことで、大学が主体のアクションに関連部署の応援が得られています。今後の各部署の施策に活かそうという機運も生まれています。

2022年度 アクション(川原研担当)

<アシナミドリ>
乱れがちなプランター植栽ではなく、街路樹の足元や民地地先に宿根草による地植え植栽を市民参加で定植し、まちなかを高質な造園空間としていくプロジェクト。第一弾は地元商店会との共催で参加者 30名で実施しました。
地元の造園屋さんが植え方や植物を解説。参加した方が各お店やマンション、自宅で実践していけることを目指しています。 

 

 
<黒塀キャンバス>
長年、八王子中町花街エリアで黒塀整備を進めてきた地元まちづくり協議会との共催で、黒塀を地模様(キャンバス)とした花街らしい和の装飾による演出を通して景観向上と誘客を目指すプロジェクト。
花街(かがい)は、日本の伝統文化を包括的に今に伝える貴重なまちです。桑都として栄え、今後もその価値を再構築して八王子を盛り上げていくためにも大事なまちだと考え、応援しています!
詳細な取組は、 ブログに書きました。

修景貸出しセットで社会実験(2022年度)


民地における花街らしい和の修景をこれまで以上に進めるために、研究室がエアコン室外機カバーや和風ラティスなどの修景セットをつくって、地権者やお店に貸し出す仕組みを考案しました。

 
地権者の方にご協力いただいて、実践! 大事にしている植木棚もDIYで制作。喜んでいただきました。通りがかりの芸者衆の皆さんと飾るものを相談しました。

八王子まつりを風鈴で演出(2023年度 夏)

4年ぶりに開催された八王子まつりで、中町花街エリア全体への誘客や、あらたにできた「桑都テラス」といいう伝統文化伝承・未来創造プロジェクトの拠点への集客をめざした演出を目指して2つのことを行いました。
 
1つめは「フォトジェニック黒塀(桑都テラスまでの動線となる黒塀通りの演出)」
黒塀通りには、学生が制作した赤いガラス風鈴が連なり、その音に誘われて、多くの皆さんが、花街の路地に足を踏み入れて、桑都テラスにたどり着いてくれました。あちらこらで写真を撮る姿も。SNSに♯桑都テラスや♯黒塀キャンバスをつけて発信していただきました。

2つめは、「コミュニケーション黒塀(桑都テラスの柳の木の間でのフォトスポットをきっかけとした交流)」

桑都テラスの庭には、赤い緋毛氈のベンチの背景として風鈴飾りをつくりました。ここでは短冊にお願い事をかいてもらいました。学生が声かけしたら実に多くの人が書いてくれた!これをきっかけに沢山の人とコミュニケーションが取れました。
 


桑都テラス一周年を扇子で演出(2023年度 秋)

 
 
好評につき、11月、桑都テラスオープン一周年のイベントとして、新たなアイテム「扇子」による演出で第二回目を行いました。演出する範囲も増え、日本酒呑み歩きインベトとの相乗効果で町のそぞろ歩きをを多くの人が楽しむ様子が見られました。

黒塀にはえる扇子や、扇子によるリースは学生の手作りによる力作です! 桜美林、工学院の学生さんも一緒に準備。大学が沢山ある八王子の特徴も今後ますます活かしたい!

<都市景観大賞 優秀賞 受賞!>

川原がディレクターを務めた、「景観絵本『八王子まちなか 景観みらいものがたり』 〜八王子中心市街地のフロートビジョンと実現に向けたアクション〜」の取り組みが、令和 5年度国土交通省 都市景観大賞(景観まちづくり活動・教育部門)の優秀賞を受賞しました!(2023年 6月発表)
 

審査講評 

関係者の思いを見事に言葉にしていただきました。感謝の気持ちを込めてここに転記させていただきます。


この景観絵本を、計画の挿し絵と捉えてしまうとその価値が正しく理解できない。桑都八王子のまちなかには、古い商家や花街の歴史を活かし、新しい住民をも意識した景 観まちづくりのさまざまな種が芽吹いている。『景観みらいものがたり』はこうした萌芽をシーンに落とし込んで編集し、まち全体のストーリーとして示したものである。ひとつひとつの取り組みがシーンの中に描かれることで関係者が勇気づけられる。取り組みの目標像が具体的なイメージとして共有され、実現に向けてはずみがつくだろう。統一的な解釈が前提となる文字で表現された計画ではこうはいかないが、絵本であればそれぞれ注目する場所は異なり、 可能性が広がっていく。
八王子の取り組みから「景観まちづくりとは、関係者それぞれの未来像を共有し、折り合いをつけ、互いに共鳴し、 その場所の歴史文化に根ざしたストーリーと空間を作っていく編集作業である」ということを改めて意識させられた。 景観行政の最終目的は「きれいな街並みを作るためのルールを作って運用すること」ではないのだ。
実現できるのかと疑問視されたアイでアもあったが「30 年後ですから」と理解を求めたという。だが八王子の『景観みらいものがたり』のほとんどは、30 年もかからずに実現するだろう。
(国土交通省「令和5年度都市景観大賞受賞概要」より抜粋)
 

■受賞についてのコメント

「八王子まちなか」に関心の高い事業者や市民や、八王子市景観アドバイザーの専門家の方々との議論を通じて、「八王子まちなか」の未来がこうなって欲しいと思うイメージスケッチを、たくさん描きました。市民や専門家の想いが込められた一冊となっています。この景観絵本をきっかけとして、まちの将来を多くの方と共有し、議論することができることに私も景観行政の方も手応えを感じています。引き続き景観づくりを入り口に八王子中心市街地の魅力づくりや課題解決に活かしていきたいと考えています。

研究室facebookページ

(学生による活動紹介)

活動ギャラリー

 

研究一覧

長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト

高尾山地区 観光地マネジメント研究

林業基盤の職人連携による観光まちづくり

ヴェトナム・フエ皇帝陵の構成原理解読とエコツーリズム推進

里山再生✕コミュニティ形成をめざす開発住宅地のエリアマネジメント

地域観光プランニング〜観光まちづくりの計画技術の体系化

地域観光プランニングカレッジ:観光まちづくり人材教育プログラムの開発

観光まちづくりオーラルヒストリー研究

都市の祝祭空間研究

まちづくり技術を生かした地域ブランディング
 

川原研(大学院)で研究を希望する方へ

  • 受験前に必ず相談しに来てください。(ビデオ会議も可能です)。
  • 観光に関わる簡単な研究計画書をEメールで送付ください。
  • 大学院の合格前に、研究生として受け入れることはしていません(学科方針)。
  • 受験の詳細は観光科学域HPをご覧下さい。夏試験(8月)、冬試験(2月)があります。