最近の研究成果
再結晶化のパターン制御に成功
溶液の結晶化はインクジェットや蒸着,食品業界,塩害などと深く関わっているため,研究の発展や現象の理解が以前より望まれていました.
しかしながら,熱の出入り,密度変化,濃度変化,流れといった要素が複雑に絡み合う難しい現象です.
さらに,基盤上の水溶液の蒸発による結晶化は,蒸発と結晶化という2つの現象が組み合わさり,まだ未解明な問題が多く残されています.
基盤上の水滴の蒸発は,日常的に観察される現象なのですが,実は難しい問題として知られています.
水滴表面近傍では,飽和蒸気圧に達してしているため,蒸発がかなり遅くなっています.一方,基盤と接している部分は蒸発が速く進みます.
蒸発が不均一に進むために,蒸発と結晶が複雑に絡み合い,難しい問題になっています.
溶液が基盤上で蒸発していくと,ある程度体積が減少すると,基盤上をスリップして,半径が小さくなります.
重要なパラメータである蒸発速度が実験中に変化することになり,系統的な実験ができませんでした.
そこで我々はコーヒーリング効果と呼ばれる現象を利用しました.
コーヒーをテーブルにこぼしたまま放っておくと,コーヒーの成分が液滴の端に堆積することでリング状のシミが形成される現象です.
溶液にラテックス粒子を混入し,液滴の端をピン留めさせることにより,以前より問題の一つであった蒸発中の水滴の大変形を抑えることに成功しました.
水滴の端をピン留めし,水溶液の再結晶化への影響を実験的研究によって調べました.
その結果として,蒸発速度と初期濃度を系統的に変化させ調べたところ,再結晶化したときに,同心円パターンや放射状パターンが観察されました.
これらのパターンはラテックス粒子が入っていないときは見られず,ピン留めしたことによる効果です.モルフォロジーはマクロな物性にも影響を与えるため,
この発見は今後の発展につながると期待できます.
現在,これらのパターン形成のメカニズムを明らかにしようとさらに研究を進めています.
Emergence of morphology in crystallization using coffee ring effect
Kouki Morinaga, Noriko Oikawa and Rei Kurita
Scientific Reports 8,12503 (2018)
首都大学東京より報道発表
EurekAlert!に掲載
自発的に穴があき,動き回る現象を発見
イオン液体が水に溶解するとき,非常に遅く,また,温度依存性も通常の溶解とは異なることが我々の先行研究でわかっていました.
イオン液体は,疎水的なイオンを含んでいるため,水にエタノールを混同することで溶解過程が劇的に速くなると予想として実験を行った.
水・エタノール混合比を変化させたところ,溶解過程が速くなるだけではなく,2成分溶媒系特有の溶解過程を見出した.
溶けると溶けないかの臨界点近傍において,界面付近での濃度揺らぎによって,自発的に穴が開く現象(Active Hole Generation)を発見しました.
この穴は生成消滅したり,移動します.この運動が引き金となって,全体の液滴も移動するという現象が見られました.
これらの運動は2種類の溶媒を顕に考える必要があることが示唆されました.
現在,このメカニズムを明確にしようと,さらに研究を進めています.
Active hole generation in a liquid droplet dissolving into a binary solvent
Noriko Oikawa, Keita Fukagawa and Rei Kurita
Soft Matter 14, 4952-4957 (2018)
首都大学東京より報道発表
EurekAlert!に掲載
粘性差を伴った2成分対流における異常対流
これまでに我々は高分子溶液や粘性の強い温度依存性を持った単純流体において、対流中に動的に流れが無くなるよう領域TSDが形成されることを発見した。
本論文で我々は、このTSD形成の起源について、混合する2成分間の運動性の違いに着目しました。
そこで、粘性が異なるシリコンオイル混合系およびグリセロール・水系を用いて、運動性に強い非対称性がある場合における熱対流現象を詳細に調べた。
その結果、ある粘性差以上になると、TSD形成が起こることを発見しました。
さらに2成分系対流においては、先行研究より、Ludwig-Soret効果によって濃度勾配が形成され、それが対流に影響することが知られている。
そこで、ソレー効果が起こらない条件において、2成分系対流を調べ、Ludwig-Soret効果はTSD形成とは関係していないことを突き止めました。
TSD形成は、混合する2成分間にある一定以上の粘性差があれば対流中に現れることから、一般性がある現象であることを系統的実験より見出した。
Ubiquitous transient stagnant domain formation during thermal convection in a well-mixed two component fluid with large viscosity difference
Kazuya U. Kobayashi and Rei Kurita
Scientific Reports 7, 12983 (2017)
EurekAlert!に掲載
温度勾配に対する膜の特異な応答
非イオン性界面活性剤を用いて、膜が平行に積み重なったラメラ相を形成させ、膜面方向に温度勾配を与えました。
非イオン性界面活性剤のラメラ相は熱揺らぎによって安定化しているため、温度に非常に敏感であり、そのため温度勾配の効果が現れやすいと期待されました。
膜を形成する界面活性剤に蛍光色素を付着させ、蛍光顕微鏡で観察を行ったところ、温度勾配の低温側で膜の揺らぎが大きくなっていることが分かりましたが、
これは温度が高い方が揺らぎが大きくなるという平衡状態に関する常識に反する現象です。
また、温度を均一に変化させた場合はほとんど変化が見られなかったため、膜中の一部に温度勾配がかかっていることが本質的に重要であることが分かりました。
孤立分散系の場合、多くの場合高温から低温に向かって物質は輸送されますが、膜のような連結系の場合、同様の輸送力により低温側の膜が過剰となり、その結果揺らぎが増大したと考えられます。
さらにこの性質を用いて、膜の幾何学的欠陥の位置を温度勾配により制御することが可能であることが示され、温度勾配の方向を変えることで、欠陥の凝集、離散を制御可能なことを見いだしました。
Response of soft continuous structures and topological defects to a temperature gradient
Rei Kurita, Shun Mitsui and Hajime Tanaka
Physical Review Letters 119, 108003 (2017)
首都大学東京より報道発表
トリガーが誘起する相分離
2成分が混ざっている状態から急冷してある条件にすると,それぞれの成分の相にわかれることがある(相分離).
このとき,パターンが形成され,少数相がドロップレットとして現れることが古くから知られている.
この相分離パターンは物性と大きく関わっているため,重要である.我々は,温度の冷却を空間一様ではなく,
ある点から徐々に冷却していく方法を考え,数値シミュレーションを行った.その結果,冷却の仕方によって,
同心円になったり,放射状になったりすることがわかった.さらに複数点から冷却することで超格子の周期構造を形成し,
その幅によって2成分反転構造も形成できることがわかった.最終的には一様に冷却されていることから,
冷却パスを変えることで様々なパターンを形成するという非平衡現象を利用したパターン制御であると言える.
Control of pattern formation during phase separation initiated by a propagated trigger
Rei Kurita
Scientific Reports 7, 6912 (2016)
泡沫における状態間転移:super dry-dry-wet 転移
洗剤溶液を軽く振ると、泡が発生する。この泡の集まりを泡沫(foam)という。
泡沫は、液体が少なく多角形の時をdry foam、液体が多く球状の時をwet foamと経験的に分類してきた。
しかしながら、その境界はあいまいであり、それぞれがどのような特徴があるのか、不明なままであった。
今回、我々は泡沫の崩壊過程に注目した。崩壊過程では、液体分率が連続的に変化する。
泡沫の内の気泡の形状を連続的に解析することによって、実は3つの状態に分類でき、その境界もはっきりしていること見つけた。
液体が少ない方から、super dry, dry, wetとなっている。
super dry-dryでは外部の力が内部まで伝わるかどうか、dry-wetでは気泡が再配置できるかどうか、という力学的性質の差があることがわかった。
泡沫の基本状態を明確にしたことにより、泡沫の物理的な理解が一層進むものと期待される。
Close relationship between a dry-wet transition and a bubble rearrangement in two-dimensional foam
Yujiro Furuta, Noriko Oikawa and Rei Kurita
Scientific Reports 6, 37506 (2016)
高密度粒子系における新しい凝集メカニズム
結晶成長や細胞の凝集などにおいて樹状パターンが現れることがある。樹状パターンを示すモデルとしては拡散律速凝集(DLA)モデルがあるが、
DLAモデルは粒子密度の低い、拡散する粒子の系にしか適用することができない。我々は粒子密度の高い系において樹状パターンを形成するモデルを提案する。
引力と斥力の相互作用のある系で、引力のみ、ある点を中心とした円状領域の内部でのみ働くとする。その円状領域がある速度で広がっていく時、
その速度の値によって粒子の凝集パターンが変わる。速度が速い場合には粒子は初期状態の位置のまま局所的に小さいクラスターを作り、遅い場合には中心の一箇所に集まる。
速度の値がその中間程度の時、近傍の粒子間の凝集と中心へ向かう凝集がバランスして樹状パターンが現れる。
これは粒子密度の高い系において樹状パターンを作る一つの新しいメカニズムである。
A new mechanism for dendritic pattern formation in dense systems
Noriko Oikawa and Rei Kurita
Scientific Reports 6, 28960 (2016)
ゾル・ゲル転移点近傍における物理ゲルの熱輸送の動的転移
本研究では代表的な物理ゲルであるゼラチンを用いて、粘性の温度依存性の強いゾル・ゲル転移点近傍における熱輸送現象を詳細に調べた。
実験では熱輸送に伴う温度場と速度場の時間変化は温感液晶マイクロカプセル(MTLC)を用いて同時に可視化を行った。
図は本実験によって得られたMTLCによる温度場および速度場の可視化結果である。
(a) 初期状態では波状の温度場(規則的なロール対流)が形成される
(b) 時間経過とともに等温線に割れ目が形成され始める(右側の上昇流)
(c) 次第に周辺の流れがなくなる
(d) これまで波状であった等温線が平らになる
(e) 系全体で等温線が上面にシフトしながら熱伝導状態へと変化する
(f) 再び対流が再形成されることによって(a)にような波状の温度場が形成される
このように実験時間内で対流-熱伝導-対流の変化による速度変化が繰り返し起こることを発見した。
さらにこの現象は対流の上昇流付近に形成される流れのなくなる領域(Transient Stagnant Domain:TSD)が影響していることが明らかになった。
Dynamical transition of heat transport in a physical gel near the sol-gel transition
Kazuya U. Kobayashi, Noriko Oikawa and Rei Kurita
Scientific Reports 5, 18667 (2015)
ランダム最密充填構造内の局所的サイズ分散と局所的構造の関係
コロイドを沈殿させたランダム最密充填構造(Random Close Packing :RCP)の45万粒子の中心座標から一粒子のサイズを決定し、RCP構造の内部構造を観察した。
RCPは基本的にはランダムな構造をしているが、割合は少ないものの結晶的な構造を取っている部分がある。45万粒子あるため、統計的に十分な量の結晶構造があり、
その結晶構造に注目して研究を行った。
1. 結晶構造は局所的に平均的なサイズのコロイドが集まったところに形成される。
2. 5%程度のサイズのずれは許容範囲内である。
3. B.C.C構造はサイズが大きいところにできやすい。
ことがわかった。これまで経験的にサイズ分散が5%以下では結晶化すると知られていたが、今回の実験により、定量的に示されたと言える。
Experimental study of relationship between local size distributions and local orderings in random close packing
Rei Kurita
Physical Review E 92, 062305 (2015)