世界最大の IMAX シアターに行ってきたという話

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2016年の2月に, 数理学府の大学院生さん3名の研究滞在引率を兼ねてオーストラリアのシドニーに滞在しました. シドニーといえば, 当時のトップページの写真であったオペラハウスをはじめ色々な観光地がありますが, 映画ファンとしては絶対に外してはならないスポットがあります. それがダーリング・ハーバー(Darling Harbour)に位置する LG IMAX Theatre Sydney です.

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このたび念願かなってここを訪れることが出来たので, ここに(海外滞在記として)書いてみようと思った次第であります. (2020/05/07 追記しました)


そもそも IMAX とは何なのか

ということをここに書くには余白が狭すぎるので(いやそんなことはないけれど), というか書くのが面倒なので wikipedia 先生の解説 をご覧ください.

簡単に言うと, IMAX というのは映写システム(映写の規格)のうちの1つで, 特徴は何と言っても他の映写システムとは比較にならないほどの鮮明な映像です. いま日本のシネコンで観られる3D映画は Dolby(Tジョイ系列)か RealD(ユナイテッドシネマ・TOHO シネマズ系列)か IMAX の3種類が主流ですが(XpanD はメガネ重いし暗いしオススメできない), IMAX 3D は猛烈に明度が高く満足感があります. まぁその分入場料金はやや高め(3D 映画だと 2,300 円くらいするし, 各種割引きは基本適用外というセコさ特別待遇)ですが, 個人的には追加料金を払うだけの価値は十分にあると思います.

で, 一言に IMAX と言っても, 日本で観られるほとんどの IMAX は「IMAX デジタルシアター」という規格に入ります. 昨今, フィルム上映をやっている映画館はもう皆無でして, 映像や音声の劣化がなく人件費も抑えられるという理由からほとんどのシネコンはデジタル上映をやっていますが, IMAX でもデジタル上映が採用されています. 最近はどんどん高画質化が進んでいまして, 2015年には大阪のエキスポシティに IMAX 4K レーザーシステムが導入されたりしています.

これに対して, IMAX フィルム上映も現存しています. こちらは 15/70 と呼ばれる70ミリフィルムで記録された映像を上映する規格で, 通常の映画とは違いほぼ正方形の画角で上映が行われます. 通常の35ミリフィルムのように上下にフィルムを送ることが出来ないので, 水平方向にフィルムを送るという特殊な仕様になっています. この特別な画角での撮影は IMAX デジタルでも採用されていて, 基本的には特別なシーンのみ IMAX カメラで撮影されます. 例えば「ダークナイト・ライジング」や「インターステラー」,「トランスフォーマー・ロストエイジ」などは, 数ある IMAX 採用作品の中でも比較的高い割合でこの特別な画角が採用されていることで有名です. 最近だと「スター・ウォーズ フォースの覚醒」のミレニアム・ファルコンの戦闘シーンで採用されました.

さてさて, シドニーの IMAX 上映スクリーンは世界最大ということらしいです. どれくらい大きいかというと

縦 29.42 m × 横 35.73 m

とのこと. うん, 全然ピンと来ません.

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というわけでこれがシドニー IMAX の建物です. ご覧の通り, 建物がヨットのように湾曲していますが, この壁沿いにスクリーンが設置されているとお考えください. IMAX スクリーンの最も大きな特徴が, この(やや強めの)湾曲構造です. これによって, 他の映写システムでは味わえないような没入感を生んだり, 端から観ても絵が崩れにくいなどのメリットがあるのです.

で, この建物の高さ ≒ スクリーンの高さ です.一瞬 設計ミス かと思いましたよ, ホントに.


というわけで行ってきた

ではエントランスに向かいましょう. ダーリング・ハーバーにはカフェやカジュアルバーなども充実しているので, 時間をつぶすにはもってこいです. ちなみにこのあたりは 15:00 くらいからハッピーアワー(アルコール類が安く提供される時間帯)が始まります. まっ昼間からアルコールが飲めます. 天国です. 日本でもやればいいのに

imax 物価があきれるほど高いシドニーでも, 赤ワインは5ドルです (^-^)/

imax 周辺にはカフェが充実していて, ビジネスマンが商談していたのが印象的.

imax 屋外にあるスクリーン. 毎日 20:00 から映画が上映されます. ふとっぱらだ!

imax エントランス到着!

この日は「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(日本でも公開中), 「レヴェナント:蘇えりし者」(日本では4月公開), 「デッドプール」(日本では6月公開)を上映していました. ライブハウスのようなアナログな掲示がまたいいのです.

imax "World's Biggest" の文字に心が躍ります.

imax 早速デッドプールがお出迎えしてくれます.

imax こっちはスター・ウォーズ. ストームトルーパーはハリボテでしたが, BB-8 はちゃんとしてました.

imax チケットを無事購入. オンラインで決済していたのでラクチン.

まぁしかし, 2D の映画なのに 35ドルはボッタクリ高いなぁ・・・ と思ってしまいます. でも折角来たので行くしかないんですが. あ, そうそう, この LG IMAX シアターで商業映画(いわゆる通常の映画)を観るときは指定席になっているんですが 座席指定料(booking fee)として1.95ドル追加請求されるというこれまたボッタクリ謎仕様 になっておりまして・・・orz 封切られたばかりの映画なので, 週末は満席近くなるとすみっこの方に追いやられたりするらしいし, そこはガマンしました...

それからもう一つ大事なのが「レーティング」のこと. 日本では映画倫理委員会(映倫)がレーティングを定めております. R指定とか R15+ とかいうのがそれです.

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上が日本のレーティング, 下がオーストラリアのレーティングです. 日本の場合は G(General:誰でも観賞可), PG12(Parental Guidance:小学生以下は保護者の助言・指導が必要), R15+(Restricted under 15:15歳以上観賞可), R18+(Restricted under 18:18歳以上観賞可)の4つに分類されています. 昔は R15+ ではなく R-15 と表記されていたり, 昔は15歳になっても中学生であれば観賞不可だったが今は観賞可になっているなど, ちょっとした変更点もありますが, 大筋はこの通り変わっていません.

一方, オーストラリアのレーティングはもっと細かいものになっています. CTC(Check The Classfication)というのは未審査作品のことで, G は日本と同じなのですが, PG に年齢が付いていません(単に保護者の指導が必要という意味). さて日本にないのが M(Mature)でして, これも PG と同じく入場を制限するものではありませんが, 基本的には15歳未満の観賞を推奨しない, という意味で使われます. その次の MA15+(Mature Audiences)が日本での R15+ に該当するものです. R18+ も日本と同じ意味で, X18+(Pornographic)は読んで字のごとくです. といっても最近は Rated X という表記は余り使われていない気がします.

ちなみに, LG IMAX での上映作品のうち一部の短編(ドキュメンタリー作品)には E(Exempt)という特殊なレーティングが行われています. これは "Exempt from Classification" といって, 通常行われているレーティングから除外されているという意味です. とくにこの E 指定になっている作品は, 主に教育用(教材ビデオ)として用いられることが多く, 小学生の団体が観に訪れることもしばしばあります.

さあ, 上映開始までもうすぐですが, 飲み物や食べ物をコンセッションで買っておきましょう. オススメは何と言ってもワインです. 是非買いましょう. 9ドルもします が黙って買いましょう. なんと IMAX 仕様のワイングラスで供されます!!カッコイイ!!

imax グラスそのものは安っぽい

ちなみに ワイングラスはドリンクホルダーに入らない というのはご愛嬌です.

あまりに気に入ったので, 上映終了後にコンセッションのおねえさんに「これ売ってもらえませんか?」と交渉したんですがダメでした(あたりまえ). でもちゃんと上の人に無線で聞いてくれたおねえさんに感謝です! ちなみに今回の滞在中に LG IMAX シアターに3回行ったんですが, 全てこのおねえさんにあたりまして, 3回目に行ったら顔を覚えられていました.


いよいよ入場!

オーストラリアでも日本と同じく, 上映開始時刻の5〜10分前から入場開始です. ここで「もぎり」のおにいさんにチケットを見せます. 商業映画の場合(座席指定がデフォルトの回)はバーコードスキャナを通して入場します. それ以外の映画(ドキュメンタリーなど)は全席自由席なので, おにいさんが物理的にもぎります. といっても日本のように破線(切れ目)が入っているなどという細やかさはないので, おにいさんが チケットをビリビリと力づくでちぎる 様子がご覧になれます. いや, 入場者数さえ分かればいいんだろうし, 別に気にはしませんが...

ではいよいよ中に入ります...

...

ドキドキ...

...

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何だこのデカさは!!!

いやホント, これ以外に表現する言葉が見当たりません. このデカさを写真でお届け出来ないのが誠に残念なのですが, やっぱり設計ミスなんじゃないの と思ってしまうくらいのド迫力なんです.

この構造がいかに頭がおかしいとんでもないものであるか, 以下のシートマップをご覧ください.

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お分かり頂けるだろうか.

縦方向に10列しかない(しかも最前列はお客さんの移動のために空けてある)にもかかわらず, 横方向に最大60席を有するシアターは多分日本にはありません. ちなみに僕が「デッドプール」を観たときの座席は E-15(上の画像の緑色の席)だったんですが, これだけ見るとすっごく見づらい席っぽいですよね. ところがどっこい, この席でもまるで正面に近いところから観ているような感覚が得られます. さすが世界最大の IMAX.

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席に座るとこんな感じです. さて, 実はこのカメラではスクリーン全体を写すことなんてまず無理です. というか 肉眼でも全体を見ることは不可能 です. 実際のスクリーンサイズを再現するとこんな感じだと思います. このサイズだと, 我々の大きさなんてほんの数ドットくらいでしょうか.

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つまり 上映中は適宜視線を移しながら観ないといけない という状況が起きます. やっぱりデカ過ぎるんじゃないでしょうか.

それから, このシアターのもう一つの特徴として 猛烈な急勾配 があります. 百聞は一見に如かず, 以下の画像をご覧ください.

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お分かり頂けるだろうか.

もうこの傾斜といったら, サーキット場くらいのレベルなんじゃないでしょうか. 自分の足のつま先が前の人の脳天にあるというとんでもない急勾配です. このお陰で前に座高の高い人が来ても不便はありませんが, それなりに暗いシアター内でこのレベルの急勾配の階段を上るのはちょっと怖いです. たぶん踏み外したら大ケガすると思います.


世界最大の IMAX で観ると, やっぱり面白い!

という感じで, 滞在期間中に3つの作品を鑑賞することが出来ました. 商業映画は「デッドプール」, それから IMAX カメラで撮影された短編作品の中から「Under the Sea 3D」と「Humpback Whales 3D」の2つを選びました. ちなみに短編(おおよそ一律45分くらい)の場合は23ドルと, ほんの少し安くなります. 3D かどうかは価格に関係ないようで, 60分を超えるか超えないかで価格設定が変わるとのことでした.

で, 観賞後感としては, もう一言だけ.

いいから観ましょう

以上です. もうこれは映画を観るというよりも「体感する」と表現した方が正しいと思います. 世界最大のシアターの名に恥じない 12,000 ワットのスピーカーから繰り出される猛烈な重低音はもはや反則です. そして何より 3D の没入感たるや, 言葉では表現しきれないほどの驚きがあります. とくに「Under the Sea 3D」の立体効果はとんでもないレベルで, サンゴ礁や海底生物たちが迫ってくるシーンでは, 飛び出してくるというより 首筋にまでぶつかってくる 感覚です. 誇張は一切してません, マジです. 帰国直前に観た「Humpback Whales 3D」のときは小学生の団体さんが僕の前の列を占拠していたのですが, みんな一斉に 動物に触ろうと手をのばしている 様子がもうものすごーく可愛くて, とっても印象的でしたね. あと個人的には「Hubble 3D」がどうしても観たかったんですが, 今回の仕事のスケジュールと重なってしまい, なくなく断念致しました. 次回はぜひ観に行きたいところです.

日本の映画館で観ているときとの大きな違いは, やっぱり上映中にみんなしっかり笑ったり手を叩いたりすることでしょうか. 今回観た「デッドプール」は MA15+ 指定も大納得のブラックコメディだったのですが, いちいち場内に大爆笑が起きます. こういうのも面白いですね. あとオーストラリアの人は基本的に エンドロールを観ない でさっさと帰ってしまいます. というか, エンドロールが始まったら 場内の照明が点灯する ので, 映画館側もこれがデフォルトなんでしょう. これにはちょっとだけびっくりしました. エンドロールのときにゆったり余韻に浸る, という習慣はあんまりないのかもしれません.

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というわけで, 長文・駄文にお付き合い頂き有難うございました. 皆さんもシドニーに行かれる機会がありましたら, ぜひぜひ LG IMAX シアターにお立ち寄りください. 超オススメです!!!


追記: Sydney IMAX returns 2019

少し遅くなってしまいましたが, 去る2016年9月25日, Sydney IMAX は一旦その幕を閉じました. この体験記を読んで, 実際に世界最大の IMAX を体験しようと思ってくれた方には, ちょっと(僕にとってはかなり)残念なニュースです.

しかし, Sydney IMAX は2019年のリニューアルを目指して, ビルごと立て替える大規模な工事に入りました. 3年も先のことですが, Sydney IMAX は必ず帰ってくることでしょう. 2019年には, 今現在「次世代 IMAX」と呼ばれている規格よりも更にパワーアップしているかもしれません. 一映画ファンとして, その日を心待ちにしたいと思います.

ああ, でも A Beautiful Planet 3D 観たかったなぁ...

追記: Sydney IMAX の開業は2020年後半に延期されました.(2020/05/07)



Last updated: 2020-05-07