研究紹介

私たちの研究グループでは、ナノメートルサイズの特徴的な構造を持ち、バルクとは異なる性質が現れるナノ物質系の物性解明に取り組んでいます。
具体的には、様々な結晶成長法利用した新たなナノ物質の合成から電界効果型トランジスタや発光ダイオード等のデバイス作製、そして電気伝導測定、ラマン散乱分光、光吸収・発光分光、光伝導、熱起電力測定、電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡、X線回折、磁化測定、などの様々な物性・構造測定法を利用し、 第一原理計算や分子動力学法 (MD法)と呼ばれる計算機実験を組み合わせることによって研究を進めています。

主な研究対象は、グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの「二次元物質(原子層物質)」、およびカーボンナノチューブやナノワイヤーなどの「一次元物質」、そしてこれらナノ物質が持つナノ制限空間では様々な原子・分子を内包・集積化できるため、「ナノ構造と組み合わせられる全ての物質」が研究対象とも言えます。

また、世界初となる新規ナノ物質の実現やその物性の理解を研究の軸としながら、最先端の機能性材料の開発を通じ、センサー、医療・ヘルスケア、フレキシブル電子デバイス、レーザー光源、水素発生触媒、超低摩擦システム、量子情報通信、微小電気機械システムなどのへの応用など、多彩な分野での共同研究を推進している点も特徴です。

以下に私たちが研究しているテーマの一部をご紹介します。

ナノスケールの物理

物質のサイズが日常のサイズ(バルクと呼ばれます)から小さくなると、連続的に性質が変わります。 さらに小さくしてメゾスコピック領域と呼ばれるスケールになると、例えば金属では電子の量子力学的な性質を反映した、干渉効果などの量子効果が現れます。

もっと小さくすると物質の形状に依存した性質が現れます。このような領域を「原子スケール領域」と呼ぶことにします。 原子スケール領域では、物質の厚さや幅が数個から数十個の原子・分子を並べた程度になっています。

この原子スケール領域の典型的物質がカーボンナノチューブやグラフェンになります。カーボンナノチューブの直径は炭素原子を数個から数十個並べた程度の大きさで、円周方向への炭素原子のつながり方(カイラリティ)によって、半導体になったり金属になったり、半導体ではそのエネルギーギャップが直径に反比例して変化します。 また、炭素の単原子膜であるグラフェンでは、一層から二層に重なっただけで電気的性質が大きく変わります。ごく最近には、重ねる角度を1度程度ずらすだけで超伝導を示すこともわかってきました。
 このグラフェンは、2010年ノーベル物理学賞の対象ともなった物質です。 この物質は、2004年に初めて安定に存在することが確認されて以来、現在まで、基礎物理と応用、両面の面白さから世界中で注目を集めてきました。 ごく最近になり、グラフェンだけでなく、窒化ホウ素や二硫化モリブデンなど、様々な元素で二次元物質を人工合成することが可能になってきています。

二次元物質の物性研究と機能開拓

ナノ物質では多くの原子が表面に存在するため、表面で接触した物質との相互作用を通じ、物性が劇的に変調することがあります。例えば、上で紹介したように二枚のグラフェンシートは、積層角が約1°ずれて重なるだけで金属から絶縁体や超伝導体になることが知られています。また、異なる二次元物質が面内で接合した場合、接合部には一次元的な界面が形成します。この一次元の界面を使うことで、電子を狭い領域に閉じ込めたり、物質の中でトンネル電流を流すことができると期待されています。

私たちのグループでは、種々の二次元物質やその接合構造(ヘテロ構造)を自在に合成する技術の開発に成功してきました。最近では、得られた高品質な試料を用いて、一次元界面における量子閉じ込め効果やトンネル電流の検証や、高性能な光・電子スイッチング素子やエネルギー変換素子の実現などに取り組んでいます。

詳細はこちらのプレスリリースなどもご覧ください。

制限ナノ空間を利用した物質開発と物性探索

ナノ物質の持つ独特の形状は、新たなナノ物質を合成する鋳型(テンプレート)として利用できます。このようなテンプレートを利用すれば、既存の半導体や金属、超伝導体を含む様々な物質をナノ構造化でき、その超伝導転移温度や電子構造などが劇的に変化することが期待されています。

テンプレートとして代表的なナノ物質であるカーボンナノチューブは、1ナノメートルほどの円柱状物質です。このようなナノチューブの内部や表面を反応場とすることで、直径が原子数個分から数nmのナノチューブ、ナノワイヤー、ナノリボン、など様々な原子・分子のナノ構造の合成が可能となってきました。

 

同様に、二次元物質の「端」や、二枚以上の二次元物質が重なった場合の層間の「すき間」も、別の物質を成長させるテンプレートとして利用できます。例えば、グラフェン結晶の端から窒化ホウ素単原子層、二硫化モリブデン結晶の端から二セレン化タングステンなどの結晶が成長します。このとき、成長速度を制御することで、ナノメートル幅の極微細な原子層(ナノリボンと呼ばれる)やその超格子を合成することが出来ます。私たちは、独自に開発してきた手法で世界初の物質を実現し、その低次元の構造に由来する物性の探索を進めています。

詳細はこちらのプレスリリースなどもご覧ください。

研究テーマの例

基本的には、相談しながら個々に向いたテーマ設定を一緒に考えていきます。思わぬ発見から、最初の計画と異なるテーマで論文をまとめることも多々あります。以下に最近の研究テーマ例を紹介しておきます。主に得意とするナノ物質系を対象に、合成、電気伝導、光物性、力学特性、デバイス応用など様々です。自由な発想で新しい挑戦をし、研究を存分に楽しんでもらいたい、というスタンスです。

  • 二次元半導体ヘテロ構造の合成と電子状態の研究
  • 原子細線結晶への異種元素の挿入と超伝導の探索
  • 二次元モアレ超格子の作製と光物性
  • 無機ナノチューブの合成と電子状態
  • 湾曲した二次元物質における光電変換
  • 二次元半導体ヘテロ接合におけるトンネル電流の観測
  • ナノチューブ内での極細ナノワイヤーの多量合成と物性解明
  • グラフェン/窒化ホウ素ヘテロ構造の電子状態
  • 原子層を「動かす」技術の開発と摩擦・吸着および超潤滑現象の研究
  • ナノチューブ内に成長したナノリボン/単一ポリマーの光物性
  • 二次元半導体を利用した発光デバイス作製と異常な界面発光の研究
  • ナノ物質系における巨大熱電変換機能の探索
  • 異種元素ドープ原子層の合成と電気伝導特性
  • 架橋した二次元半導体の励起子光物性
  • 二次元超伝導体の合成と電気伝導特性
  • 二次元積層ヘテロ構造における層間励起子
  • 混晶半導体原子層の合成と発光特性
  • 二次元半導体における光電変換
  • 原子層半導体を利用した電界効果型トランジスタの作製と評価
  • 原子層物質への圧力印加と光・電子物性

東京都立大学理学部物理学科/大学院理学研究科物理学専攻 

ナノ物性研究室

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Nanoscience Research Lab.

Department of Physics, Tokyo Metropolitan University

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