表界面光物性研究室

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研究内容

研究テーマ

はじめに

ナノ材料

物質のサイズがナノメートルスケールになると、バルクな状態とは全く異なる性質を示します。例えば、電気や熱の流れ易さや、色や発光する波長など、様々な性質が全く異なって現れてきます。そのようなナノ物質の代表例としては、一次元の性質を示すカーボンナノチューブや、2次元の性質を示すグラフェンなどがあげられます。このような低次元材料を対象とした研究は現在とても活発に研究がされています。それは、新たな物性物理現象が見出されると期待されているとともに、次世代の超高速コンピュータや、高効率な光電変換セルや、高効率な熱電変換デバイスにつながるかもしれないと考えられているからです。そこで、私達は、現在の科学技術を革新する鍵は、この領域での現象を深く理解し、制御する技術を確立することが重要であると考え、次の二つの研究テーマを日々研究をしています。

  • ナノ物質の表面・界面が重要な役割を果たしている系における新たな物性の探索とその制御
  • ナノ物質で見られる新しい光物性

現在は特に、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)や二硫化タングステンナノチューブ(WS2NT)、二次元原子層、およびそのヘテロ構造などを対象とした研究をしています。

ナノチューブにおける熱電物性

熱電パラメータのキャリア密度依存性

温度差から高効率に電気エネルギーを取り出すことが可能な高性能な熱電変換材料の探索は、エネルギー資源に乏しい日本社会において重要な課題の一つです。一次元系が最も高性能な熱電変換が可能という理論的提案を背景として、一次元物質のモデルであるナノチューブを対象とした物性研究を進めています。特に、熱起電力の起源であるゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率の三者の関係が、物質のキャリア密度とどのような関係があるのかを解き明かすことを目標としています。カイラル構造やモルフォロジを制御したナノチューブ薄膜を対象にして、これまで、一次元性が、熱電特性のトレードオフの破れとして表れることや、熱電伝導率(L12)の構造に異常があることを突き止めてきました。基礎研究に基づいて高性能な熱電変換材料が実現できるよう日々研究を進めています。
Nano Lett. (2014), Nano Lett. (2019), Phys. Rev. Mater. (2021)

ファンデルワールス界面がある系における熱と電荷の流れ

TDTR測定

フレキシブルな材料系における熱電変換の原理を明らかにする為には、ファンデルワールス力によって形成された界面において、熱と電荷がどのように流れるのかを正しく評価する必要があります。そこで私達の研究室では、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の八木先生の指導を仰ぎながら、独自の時間領域サーモリフレクタンス測定技術を創出し、ファンデルワールス界面がある系における熱と電荷の流れの解明を進めています。最近では、ナノチューブ薄膜においてキャリア密度を二桁以上変化させた場合における熱伝導率を明らかにしました。
APL (2010), JJAP (2019)

光物性~極端非線形光学現象~

HHG

高次高調波発生とは、極めて強い光電場によって、従来の摂動論では記述できない高次の高調波が発生する現象であり、極端非線形光学現象という新たな光物性現象の一つです。私達の研究室は、京都大学光物性研究室と共同で、京大光物性研の技術と、私達の研究室で培ってきたナノ物質創出技術およびデバイス技術と融合して、この高次高調波発生を電場印加により増大させることや減少させることが出来ることを世界に先駆けて明らかにしてきました。現在、私達の技術を駆使して、高次高調波発生の起源の解明を共同で進めています。
Nano Lett (2020)

ナノチューブおよび原子層材料の物性制御研究

分離したカーボンナノチューブ

SWCNTを高純度で単離精製すると、例えば、次の写真のように、シアン・マゼンタ・イエロー色のSWCNT溶液を得ることができます。ナノチューブはグラフェンシートを筒状の一巻きにした物質ですが、その巻き方によって大きく性質が異なり、金属的な性質を示すもの、半導体的な性質を示すものが存在します。この写真は直径1.4nm, 1.0nm,0.7nmの金属型SWCNTの写真で、直径を系統的に変えることで、大きく色を変化させることができます。

カーボンナノチューブ薄膜の色変化

またこの色の背景は、一次元性を反映したファンホーブ特異点間の電子遷移に由来します。つまり、電子が詰まっている準位から空いている準位のエネルギー差が系統的に異なることで、試料の色が異なってきます。では、その空いている準位に電子を詰めてあげれば、光を吸収しなくなることが期待できます。実際にそのようなことを、電気化学ドーピングという手法を駆使して、SWCNTのかける電圧を変化させることで、SWCNTの色を自在に変化させることができることを実現してきました。

WS2ナノチューブの熱電効果

今では、この手法を発展させて、熱電変換特性を最大化することや、新たな表面プラズモンモードを見出すことに成功しています。また、タングステンと硫黄でできたシートが同じく円筒状になったWS2ナノチューブという新しい材料にも応用し、世界ではじめてネットワークでのトランジスタ動作や、熱電特性の評価に成功しています。ナノチューブ系の高純度精製技術の開発と共に、このような高純度精製ナノチューブおよびその集合体の基礎物性の解明とその制御の研究を進めています。また、近年ではグラフェンに代表される原子層材料における新規物性探索の研究も進めています。
J. Am. Chem. Soc 134, 9545 (2012), App. Phys. Express 1, 034003 (2008)
Adv. Mater. 23, 2811 (2011), Phys. Rev. Lett. 110, 86801 (2013)
Nano Lett. 14, 6437 (2014)

近接場分光技術を用いた光物性研究

近接場分光

近年、グラフェンに代表される二次元材料の性質が注目を浴びています。グラフェンは金属ですが、遷移金属ダイカルコゲナイドという物質群には、半導体の性質を示すものもあり、一層にすることで効率の良い発光が起こることが知られています。その二次元の表面には、欠陥であったり、グレインバウンダリなどがあり、そこでは非線形光学特性や特殊な発光など興味深い光物性現象が見出されることが知られています。私達は、そのような特異なサイトの、電子構造およびフェルミレベルおよび光物性との関係を解明する為、近接場分光という回折限界を超えた空間分解能(数10nm)で分光しつつ、更に局所的に電場を印加可能な実験系を整備して、研究を行っています。例えば、MoS2という遷移金属ダイカルコゲナイドの局所的な光学特性を電場によって変調したり、また、光と電場を組み合わせることでその形を自在に設計できることを示してきました。現在ではさまざまな特殊な組み合わせのヘテロ界面を形成した材料の作製とその光物性研究を進めています。
Sci. Rep. 7, 46004 (2017)
Jpn. J. Appl. Phys. 58,015001 (2019)

一次元ナノ空間における新規物性探索

内包写真
内包グラフィック

SWCNTに分子を内包すると、次の写真のようなものが見れます。オタマジャクシみたいのようなものが見れますが、これは視覚に関係するレチナールという分子にフラーレンを繋げた分子です。SWCNT内部の一次元空間においても、ここで見られるような構造変化や光励起エネルギー移動などが起こりうることをこれまで明らかにして参りました。同空間における光励起エネルギー移動にはまだ分からないことが多くあります(Yanagi & Kataura, Nature Photonics 4, 200 (2010))。それを制御できれば、高効率な光エネルギー変換が実現できるかもしれません。SWCNT内部という低次元系における物性に興味を持って研究しています。
Nature Nanotechnology 2, 422 (2007)
J. Am. Chem. Soc. 129, 4992 (2007)
Phys. Rev. B 74, 155240 (2006)
Adv. Mater. 18, 437 (2006)

最後に

Next step

ナノ物質が高度な集合体を形成すると更に面白い現象が見える可能性があることを説明したいと思います。 例えば、自然界の光合成反応初期過程においては、ナノサイズの構造体である色素蛋白複合体が、高効率の光励起エネルギー移動や電荷分離など、非常に重要な役割を果たしています。そのような、特殊な機能を備えたナノ構造体を創製すること、またそのナノ構造体を更に高次に配列させて全く新しい機能や現象が発現するような系を人為的に創製すること、を目指して研究しています。ナノスケールでの現象を理解し、その構造や機能を自在に制御することを目標に、日々実験研究に邁進しています。

進行中の研究プロジェクト

戦略的創造研究推進事業(CREST)

平成29年度 ~ 平成34年度
文部科学省 科学研究費補助金(戦略的創造研究推進事業(CREST)・代表)
ナノスケール・サーマルマネージメント基盤技術の創出」領域
戦略目標:ナノスケール熱動態の理解と制御技術による革新的材料・デバイス技術の開発
採択課題:フレキシブルマテリアルのナノ界面熱動態の解明と制御
研究代表者:柳和宏

基盤研究S

平成29年度 ~ 平成34年度
文部科学省 科学研究費補助金(基盤研究(S)・分担)
採択課題:テラヘルツ高強度場物理を基盤とした非線形フォトエレクトロニクスの新展開
研究代表者:田中 耕一郎